Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉖「<トランプ騒乱>平等化がむしばむ民主主義」@毎日アジアビジネス研究所
「不正選挙はなかったか」の本気度
トランプ大統領の支持者が米連邦議会議事堂を一時占拠し、死者が出る騒動に発展しました。議事堂内には南北戦争時代の南部連合の旗をもって歩く侵入者も現れました。「アメリカ民主主義の危機」と叫ぶのは簡単ですが、アリストテレス政治哲学の勉強会で交流のある知り合いから「本当に(米大統領選で)不当選挙はなかったのですかね?」と真面目なメールが送られてきたので、米議事堂の<トランプ騒乱>について独自の視点で解説します。
アメリカもそうですが民主主義国家は自由と平等を大切にしています。しかし、アメリカの政治や社会を考えると、結局は平等化(と不平等)が均衡を崩し、民主主義をむしばみ、今回の<トランプ騒乱>にたどり着いたのではないかと思えてきます。
アメリカの歴史を振り返ってみます。
1976年7月4日、アメリカ連合の13諸州が全会一致で「すべての人間は平等につくられている。すべての人間は創造主によって、だれもが譲ることのできない一定の権利を与えられている。これらの権利の中には、生命、自由、そして幸福の追求が含まれる」と独立を宣言しました。
トクヴィル「デモクラシーの核心は平等化」
その半世紀後、25歳のフランスの青年貴族、トクヴィル(1805~1859年)は9カ月かけて刑務所制度の視察を名目にアメリカ社会をつぶさに見聞しました。のちに政治学や歴史学の大家になるトクヴィルはフランスに帰国した後、見聞録をまとめた著書「アメリカにおけるデモクラシー」を発表しました。同書は私がアメリカの政治や社会を見るうえでの指南書になっています。
なぜなのでしょうか。
それはトクヴィルが「アメリカのデモクラシーの核心は社会的な諸条件の平等化である」と指摘しているからです。アメリカ社会の本質を平等化というキーワードで捉えていたからです。
<自由はいろいろな時代に、いろいろな形で人々の前にあらわれた。この世紀を特徴づけるのは諸階層の平等であり、人々を動かす情熱は、平等への愛着である>
トクヴィルがこだわった平等化は、「人が他のすべての個人を、自分と同じ人間と見なすようになる『デモクラシー』の時代において、なおも不平等は存在する」(宇野重規著「トクヴィル―平等と不平等の理論家」)ことになります。
「平等と専制の結合で心情と知性の水準が低下する」
トランプ支持の古き良きアメリカを代表する旧来型ワーカーを中心とする白人中間層らは平等と裏表の不平等を感じ、グローバリズムに取り残されたことに不満を持ち、それらの感情の総量が大統領選でバイデン次期大統領に匹敵するトランプ票になりました。
トクヴィルと同じ時代を生きた第16代のリンカーン大統領(1809~1865年)は南部における奴隷解放、南北戦争による国家分裂の危機を乗り越えた業績とリーダーシップが高く評価されています。<トランプ騒乱>で議事堂内に持ち込まれた南部連合の旗は南北戦争のような分断を劇画的に表していますが、不気味な空気感が漂っているのが気がかりです。トクヴィルは「平等と専制が結合すれば、心情と知性の一般的水準は低下の一途をたどるだろう」と予言しており、<トランプ騒乱>の風景とも重なります。