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Withコロナ時代のアジアビジネス入門51「<NFTとホワイトペーパー」@デジタル経済と哲学(1)

 ロシアによるウクライナ侵攻は戦後体制の大きな転換点になり、今後、民主主義体制、権威主義体制そのものがその正当性が問われる時代になるだろう。アリストテレス政治学を学ぶ東京逍遙塾の荒木勝塾長(岡山大学名誉教授)は、そのいずれの体制理解も、まずは「国家とはなにか」が問われると指摘する。
 アリストテレス政治学の第一巻第一章に「国はもろもろの共同体のうち最高のもので、その目的として最高の善を求める」とある。果たして、今日、政治は何をしなければいけないのか。
新人議員が「NFTホワイトペーパー」提言づくり
 そう考えていた時、自民党デジタル社会推進本部のNFT(非代替性トークン)政策検討プロジェクトチーム(平将明座長)が3月30日、「NFTホワイトペーパー Web3時代を見据えたわが国のNFT戦略」を提言した。提言は昨年10月31日の衆院選で初当選した塩崎彰久氏(愛媛1区、国際弁護士出身)、神田潤一氏(青森2区、日銀出身)、川崎ひでと氏(三重2区、NTTドコモ出身)らがまとめた。
 塩崎氏のブログ(note)によると、これまでのデジタル経済圏の構造を根底から覆すのではないかと言われているのが「Web3」。まだ新しい概念のため、定義は人によって異なるが、ブロックチェーンと呼ばれる新しい暗号技術により、巨大企業に依存しなくても、データを多くの個人間で分散管理できるようになると言われている。「メタバース」と呼ばれる三次元空間のサービスやビットコインなどの暗号資産を使った商取引が爆発的に増えることが予想されている。
イノベーションを後押しする政治態勢の構築
 塩崎氏はホワイトペーパーの「結語」を紹介している。
 <新しい産業や技術に関する政策遂行には多くの不確実性が伴う。参考となる前例や、比較できる他国の取組がない場合は猶更である。しかし、政策の失敗や悪影響を恐れるあまり、数十年に一度の将来の経済成長の芽を摘むようなことがあってはならない。政治の責任でリスクを正しく見積もり、ゼロリスクでなくても前に進む覚悟で、Web3時代の責任あるイノベーションを推進していかなければならない>
 そして、塩崎氏は徹夜でまとめたホワイトペーパーに込めた思いを吐露している。
 <不安や恐れは挙げればキリがないものの、だからといって政治がイノベーションの邪魔をしたりせず、官民が課題とゴールを共有しながら、イノベーションを後押ししていける態勢を築こう。そうした我々の思いを込めています>
 確かにリスクゼロではなくてもイノベーションを前に進めることはデジタル経済時代における政治の責任かもしれない。それを初当選組の国会議員がまとめた意義は大きい。
NHK「欲望の資本主義」でアリストテレスの<貨幣論>
 最高の善を国家に求めたアリストテレスは「政治学」「ニコマコス倫理学」で<貨幣論>を論じている。
 経済学者の岩井克人氏はNHKの番組「欲望の資本主義」でアリストテレスの<貨幣論>に言及している。
 『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』(丸山俊一、NHK「欲望の資本主義」制作班著、東洋経済新報社刊)によると、アリストテレスは、「他者とともによく生きる」ために、一部の人間が独善的になることを防ぎ、公平公正な国家的な制度を発展させた共同体を「ポリス(都市国家)」と呼んだ。ポリスが維持されるためには、貨幣が不可欠だったという。職人、農民、医者などあらゆる職業の市民同士が、「自分が提供できるモノ」を「自分が必要とするモノ」と交換して生きていくためには、貨幣という「媒介物」が必要だったからだ。例えば、靴職人が家を建てたいとき、物々交換の世界では、家1軒に見合うだけの数の靴を欲しがる人を見つけなければならない。だが、そんな欲求はマッチしない。そこで、貨幣を媒介とするわけだ。だがアリストテレスは、この貨幣こそが、ポリスの「自足性」を破壊するということも述べていた。貨幣交換が拡大するにつれ、本来はモノを手に入れる「手段」だった貨幣が、貨幣それ自体を「目的」とする、つまり、金儲けだけを目的にし始めるというのだ。これは、資本主義の不安定性とも重なる。
 「手段」から「目的」に転化したとき、人間は「このお金であらゆるモノを手に入れられる〈可能性〉」を見るようになる。貨幣と資本主義の本質を、すでに約2400年前、アリストテレスが思想していたのである。
政治の新しいうねりになるか
 政治の目的は、「手段」を検討し社会実装するとともに、その本来の「目的」である最高の善、よく生きることのできる<共生社会>を実現することである。デジタル経済の未来を考えた時、塩崎氏らの取り組みが政治の本来の「目的」を達成するきっかけになるのか。新たな政治のうねりとして注目していきたい。

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