コラム : 陳言の中国「創新経済」グーグル、アマゾンの中国からの撤退
每日新闻亚洲商务报告--创新经济专栏
ロイター通信は4月17日、「アマゾンが7月中旬までに中国本土でのE・コマース業務を閉鎖する」と報じた。アマゾンは翌日、これを受けて「中国における発展の意欲は依然として強いが、将来的には越境E・コマースやクラウドコンピューティングサービスなどの分野に焦点を絞る。Kindleや電子書籍の販売は継続する」と述べ、中国でのECの中心的な業務から撤退することを、事実上認めた。この日はアマゾンが中国に参入して15年の記念日だった。
グーグルは2010年3月23日、中国のネット環境を厳しく批判し、毅然として中国での検索エンジンを閉鎖。Gメールも中国では基本的に使用できなくなった。ちょうど、通信を含むIT事業が中国で爆発的に発展する前夜のことだ。
米国のIT企業が中国から敗退する原因は何だろうか。アマゾンの撤退を契機に分析してみたい。
中国で撤退しないグローバルIT企業は存在しない
北京・中関村に建つグーグルが入居するビル =清宮克良撮影
アマゾンの中国からの撤退については、多くの分析がある。たとえば、中国では経済分析で定評がある秦朔朋友圏というWeChatパブリックアカウントは5月2日、「傲慢と偏見 国際IT企業の巨頭が中国で敗退した物語」を公表。アマゾンについて、中国のユーザーエクスペリエンスを重視していない▽中国エリアでの決裁権が不足している▽競争相手が強すぎる――などと指摘した。
「国際市場で向かうところ敵なしのアマゾンが唯一、中国市場においては上記のような問題を起こすのは何故か」ということだ。最も投資価値のあるハイテク企業の一つとして、アマゾンの経営陣の先見性、チームの執行力、資源の調達能力は悪くないはずだ。15年という時間も決して短くはない。記事は「アマゾンは、問題に対して目標を定めて解決することもできたはずなのに、なぜ今日の結果を迎えてしまったのだろうか」と問うた。
実のところ、アマゾンにとどまらず、今日まで中国市場で成功を収めたグローバルIT企業は存在しない。多くの企業は中国に参入して2、3年で落胆して帰るか、明らかな劣勢になる。アマゾンは15年間持ちこたえたのだから、我慢強い方だ。ヤフー、Google、MSM、eBay、Groupon、カスペルスキー、Uber、LinkedIn、Airbnb……。いずれも中国市場で悲惨な失敗に終わるか、あるいは鳴かず飛ばずで存在感を示すことができなかった。
eBayはジャック・マー(馬雲)の「タオバオ(淘宝網)」に正面から敗北した。ジャック・マーには、eBayと戦う前からすでに勝算があった。「eBayは海にいるサメであり、私は揚子江にいるワニだ。私は海で戦えば負けるが、川で対峙すれば勝つ」
eBayのみならず、海外の巨大インターネット企業はいずれも「サメ」であり、中国本土のIT企業は「ワニ」だ。サメが揚子江でワニに負けるというのが一定の法則となった。MSNはQQに破れ、Grouponは美団に破れ、カスペルスキーは360に破れ、Uberは滴滴に破れた。LinkedInとAirbnbはまだ完敗を宣言してはいないが、市場シェアは中国企業の相手にはならない。
その理由とは一体なんなのか?
共通の「間違い」
少し観察してみると、いずれの外資系大手IT企業も中国で共通の間違いを犯していることに気付く。
①製品のユーザーエクスペリエンスが中国人に馴染まない
インターネットの最終的な競争は、製品のユーザーエクスペリエンスの争いだ。そして中国のユーザーは、ヤフー、Google、MSN、eBay、Uber、LinkedIn、Airbnbなどに、自分たちには馴染まないという問題があることにいち早く気付いた。これらのIT企業は「中国語版」を打ち出していたが、その製品はユーザーインターフェース(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UE)、業務ロジックのいずれも米国の製品のフレーム、理念、ロジックを踏襲していた。
中国から撤退するようになるまで、アマゾン中国のオフィシャルサイトは相変わらず米国のユーザーの習慣にならってデザインされていた。多言語展開するGoogleの中国語のサーチエクスペリエンスは、中国語に特化している百度に劣る。eBayにはタオバオのアリババのようなチャットツールがなく、顧客との連絡には電話番号が必要だった。Uberのインターフェイスは立派であったが、実際には使いにくかった。中国語版LinkedInは英語が多すぎて敷居が高く、ツッコミどころが多すぎたた。Airbnbの中国語名は音に漢字をあてた「愛彼迎」だったが、中国人には意味が伝わらない名前だった。
テンセント(騰訊)のポニー・マー(馬化騰)は当時、「中国のインターネット企業は『マイクロイノベーション(頻繁にユーザーと交流し、一歩ずつ改善する)』に長けているから、ユーザーエクスペリエンスが国際企業より優れていても不思議ではない」と語っている。
②ローカライズされたマーケティングの不足これは、マーケティングに大きく依存するEC市場において特に顕著である。
アマゾンが中国に参入したばかりの頃、「EC業務には広告を打たない」という世界の伝統を引き続き受け継ぎ、低価格、サービス、口コミなどで新たなユーザーを獲得しようとしていた。しかし、タオバオは「11月11日(独身の日)ショッピングフェスティバル」というイベントを強引に作り出して大量のアクセスを稼ぎ、中国人ユーザーにネットショッピングを習慣づけることに成功した。毎年「11月11日」が来るたびに、アマゾン中国は徐々に隅に追いやられていった。
③中国本土の競合と勝負にならないビジネスモデル
最も典型的なのがebayの手数料パターンとカスペルスキーの料金徴収パターンだ。それぞれがタオバオと360の無料パターンに負けている。
Googleは現在に至るまで、未だに独自の内容を持つプラットフォームを打ち出してはない。自社のウェブページのユーザーの滞在時間ができるだけ短いことを望んでおり、それによって検索結果の精確さが明らかになると考えている。
しかし、検索エンジンの本質はユーザーと情報の接続効率を高めることにあり、情報が第三者から来たか検索エンジン自身のプラットフォームから来たかは重要ではない。百度(バイドゥ)はこの道理に精通し、アクセス数を効果的に引きつけた。
④独自で意思決定ができない
多くのグローバルIT企業は、本部と支部の意思の疎通に問題がある。最も普遍的な問題は、支部に十分な意思決定権を渡さないという点だ。米国本部が戦略を決定して中国支部に命令を下すモデルでは、フレキシブルに展開して新鮮なスタイルを持つ中国のプレイヤーと競争することが非常に難しい。
中国の巨大ECグループ「京東グループ」の創設者・劉強東氏は2011年、公の場で次のように述べている。「中国エリアの責任者が何ひとつとして独自で決定できなければ、いったい何を執行するというのか。漢華(当時のアマゾン中国CEOの王漢華)に聞いてみればいい。自分がやりたいと思うことを、彼は絶対に実行できると言えるだろうか。彼にはできない。だが私にはできる」
⑤「プチブル文化」で戦闘力が低下
「996」(朝9時出社、夜9時退社、週6日勤務)は少なくない批判を受けている陳言の中国「創新経済」が、中国のIT業界の繁栄には不可欠だ。中国のIT企業の労働コストを低下させ、1分1秒を競って業務を前進させ、競争の中でイニシアチブを取るのにも役立った。
勤務中、シャワーを浴びてマッサージを受けて、作業場をいつでも自由に離れて良いというシリコンバレーのIT企業のやり方は、中国の人的資源体系とはまったく合わない。IT人材の労働力コストは頭一つ抜けたレベルにあり、仕事と生活をきっちり分けていたら、「996」や他の勤務体系の中国のIT企業では働けない。
⑥法律の「目」を逃れるのが苦手
Google中国の撤退前の数年間も、百度は一貫してGoogleに対し優位に立ち続けていた。それは百度がGoogleよりも、中国の法律をある程度において「理解」していたからだ。
当時の百度の戦術はとても野蛮なものだった。たとえばMP3が主要な検索対象になると、多くのユーザーを引き付け、大量のアクセス数を稼いだ。当時の中国は知的財産権の保護システムが不十分であり、百度のそのような行為も違法とも言いきれなかった。そして、版権意識の強いGoogleは、中国で正規版の音楽路線を走る「巨鯨音楽網(Top100.cn)」に投資したが、コストが高止まりし、音楽リソースが不足し、すぐにもはや再起不能なほどに大敗した。
アドバンテージはなく、劣勢あるのみ
しかし依然として問題がある。上述のようなミスは従来の伝統的な製造業の外資系企業でも多かれ少なかれ存在する。だが、従来の製造業における多くの大手グローバル企業は中国市場において無視できない存在であり、中国本土の企業にはなかなか追い付けない地位にある。IT業界の大手グローバル企業のみが、中国で全面的に敗北しているのはなぜなのか。
それはおそらく、中国本土企業に対する大手IT企業のアドバンテージが、従来の製造業とインターネット業界では明らかに異なる存在であるからだろう。
従来の製造業における大手グローバル企業が中国に参入するようになってから現在までに、中国本土企業が40年近くを経て追いついたとしても、少なくとも技術とブランドという二つの分野ではグローバル企業にアドバンテージがある。この二つのアドバンテージは、数十年ひいては百年という歳月をかけて積み重ねられてきたものだ。グローバル企業がそのどちらかを有していれば、40年足らずの歳月で中国本土企業が徹底的に追い越すのは難しい。
だが、IT業界では事情は異なる。米国のIT産業は1990年代中期に始まり、現在、その名を轟かせている大手IT企業はいずれもその段階以降に登場している。中国のIT産業の開始時期は米国から数年遅れだが、米国の大手企業が市場で地位をようやく確立したばかりの頃に、中国の模倣者は登場している。
米国のIT企業は中国市場に参入した時、中国本土の競争相手と比べて自分たちは「大手グローバル企業」という名声があるだけで、ブランド、技術、資金力などの分野でアドバンテージと呼べるものはないということに気付いた。逆に、マネジメント、意思決定、人的資源、執行・効率の多くに先天的な劣勢があった。ITというユーザーエクスペリエンスに大いに頼る産業で、これらの劣勢はほとんど致命的だ。大手グローバルIT企業において、製品のユーザーエクスペリエンスが中国人に馴染まず、ビジネスモデルが中国本土の競争相手より効果的ではなく、ローカライズされたマーケティングの不足があるなど、一連の競争の劣勢は当然の結果である。
もちろん、他の理由もある。IT業界は人口とユーザーの規模に大きく左右される。素晴らしいことこの上ないビジネスモデルでも、人々が絶賛する製品のユーザーエクスペリエンスでも、十分な人口規模による基礎がなければ、独立したIT企業の運営を維持することは難しい。中国には10億のネットユーザーがおり、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)という世界レベルのIT企業を生み出すには十分であった。実際、この法則はその他の人口大国にも現れ、インドやロシアなどの人口大国のIT業界でも同様に本土企業がリードしており、米国企業はこの二つの市場でも全く大勢を占めてはいない。
そのため、外資系IT企業において、いかなる「大物」であろうと、中国に参入すれば負けてしまうのは逃れられない宿命であるということは、ほぼ間違いないであろう。
では、モノづくりの分野ではどうか。日本企業はアメリカのIT企業ほど硬直的ではないが、多かれ少なかれ同様の欠点が存在している。2012年4月27日、楽天は中国のEC市場が爆発的に発展する直前に中国から撤退し、その時の楽天が直面した問題はアマゾンとまったく同じだった。その後、日本の在中国企業はいずれも経営効率が高いとは言えない。IT企業の二の舞は、ほんとうに踏まないだろうか。
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陳言=ジャーナリスト、日本企業(中国)研究院執行院長
1960年北京生まれ。82年南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。今年1月から「人民中国」副総編集長も務める。
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