オカマの孤独と辛ラーメン

おれをいろんな場所へ連れ回しては
美味いものや綺麗なものを教えてくれたオカマのジイさんが、独りマンションの一室で食うものといえば「辛ラーメン」だった

「日本で買える韓国フードで1番美味しいねんで」
とまで褒めていたのにおれは食ったことがない

小金持ちの孤独なオカマが翳った部屋で惨めったらしく啜る音が聞こえてきそうで避けていた、という若さゆえの傲慢を認めるしかない

ジイさんからの連絡が途絶え、ジイさんの経営する店に行くと「死んだで、あの人」とチーママ(少し若いおじさん)がおれのボトルの栓を抜きながら言った

独りで死んで通夜と葬式は親族のみ
店はいつ行ってもジイさんを偲ぶ会みたいだった
「声かけやんでごめんなぁ」と客たちに口先で謝るチーママはジイさんの甥、だけど店は継がないらしい

いま、遠く離れたオーストラリアでアジアンスーパーに行くたび「辛ラーメン」を目にするようになり、その都度律儀に思い出してしまう

食ったらもうおれの中で終わったことにできる気がするのに、それをどうしても先延ばしにしたい、という気持ちがあることを認めるしかない

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