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余珀日記⑧

どうして登戸でカフェを開いたのか、とお客さまによく聞かれる。その質問にいつもこう答えている。「そこに物件があったから」だと。導かれるようにここにたどり着いた。

昨年の10月下旬から11月頭にかけて、茶縁で結ばれた仲間たちと「遣欧茶節団」と名乗り旅をした。我々夫婦はパリでメンバーと別れた後、コペンハーゲンに向かい、そこである方々と出会う。この出会いがきっかけでスイッチが入り、帰国後すぐに物件を探し始めた。夫が情報を見つけ最初に内覧したのが後に余珀となるここだった。旅から帰って1週間も経っていなかった。

決めたというよりも決まっちゃったという印象。本人たちも驚くようなスピードであれよあれよと事が進んだ。他人事のようにこの流れを見ていたけれど、話が進むにつれて状況証拠が見つかるように次々とご縁がつながった。点と点が線になるたび、ここで合っているよと説得されているようだった。

まずドラえもん。内覧のため初めて登戸に降り立った時、駅にたくさんのドラえもんが描かれているのに気づいた。やる気スイッチを押されたコペンハーゲンでの出会い。あの方々と会った場所でも我々はドラえもんを見ていた。登戸駅に着いて真っ先にそれを思い出した。

そして物件のオーナーさんとのシンクロ。我々がコペンハーゲンを旅していた頃、オーナーさんも北欧にいたそうだ。昔住んでいた場所も4年前旅した国も泊まったホテルも、同時期に同じ場所にいたということが過去何度もあったことが分かった。すれ違いにすれ違いを重ねて今回ようやく出会えたようなのだ。

夫はもう17年、私も10年ほど、三軒茶屋のある美容師さんに髪を切ってもらっている。義理堅く温かい心をお持ちの方で、我々の結婚式には祝電をくださった。その美容師さんには「お二人は何かそのうち始める」「お二人だけの素敵な空間を作る」と長年励まされてきた。カフェを始めるなんて考えてもいない会社員時代からずっと、髪を切るたびに刷り込みのようにそう言われ続けてきた。

その美容師さんと余珀の物件のオーナーさんが小・中・高と同じ学校の同級生で、高校に至っては同じクラスであったことが判明した。言われてみるとお二人の話し方のイントネーションがそっくり。おかげで山形がますます身近な存在になった。

シンクロについて書き始めるときりがないが、登戸に来られて良かったと今、心から思う。不思議な場所だ。神奈川の端。橋を渡ると東京。昭和感漂う建物と更地のコントラスト。これからますます開発が進んでいくだろう。過去と未来のはざま。あわいの地。「登戸」という地名も登竜門のようでいい。何かにつながるゲート。どこでもドア。何より多摩川と抜けた空がいい。日の出日の入りがきれいに見えるところも気に入っている。

夫の髪がずいぶん伸びた。ライオンみたいだ。私も人のことを言えた頭ではない。できることならそろそろ三軒茶屋に行きたい。美容師さんの顔を思い浮かべながら今日もお茶を飲む。

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正垣文
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