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トチの実から栃餅を作るには、100日以上必要だった 〜第2話〜
トチの実には「干す」→「へす」→「あわす」の3工程が必須という第1話の続きで、「へす」→「あわす」をお届け。(2話で完結予定)
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水が冷たくなる「事はじめ」(12月13日)頃から行う「トチ仕事」で、一番地味で地道な作業が「へす」。
これは、圧力をかけて押しながら、皮と実をわける動作のこと。
「子どもの時分、よぅ手伝わされたわ。手が黒くなるし爪、痛いしなぁ」「冬になるとおばぁさんが、囲炉裏のところで毎晩のように、栃へしをしてはった記憶あるわ」との話にもあるように、機械化できない手作業領域なので、日々の夜なべ仕事だったというのもよくわかる
カンカラカンに乾燥させたトチは、そのままでは「へす」ことができないので、栃へしの1週間から10日ほど前から、川や谷水につけて戻す。
↑水に戻したトチ
「栃へし」をする時に、更にこのトチを温める。これは、実ばなれを良くするための工夫。熱すぎると茹だってしまうし、温すぎると上手くへすことができないので適温が重要(適温だと、スルッとへすことができる)。
「栃へし」(道具)をつかって「栃をへす」。利き手で、上の棒を動かしながら、反対の手で栃の実を回す(写真は左利きの人の様子)。
「栃へしを動かす時に上から押しつぶしたらあかん。トチの実ぃをまわしもってキュキュッと満遍なくチカラかけて、さいごはキューっと圧すわけや」
キュキュッとして、キューッと。
この擬音語の意図する動作は、写真や動画では伝わらない気もするが、習うよる慣れろ、で数をこなすうちに徐々にコツがつかめる。キュキュッとして、キューッと。キュキュッとして、キューッと。
コロナ禍でもあったのでイベント的に実施することはできず、調査協力いただいている京都大学芦生研究林の方々、地域住民と一気に3日間で行った。(やはり、夜なべ仕事で必要量だけボチボチやるのが、理にかなっている)
水に戻したトチは、ほっておけば腐ってしまうので、「ここまででやめよう」と投げ出すわけにはいかない。
BGMをかけながら和気藹々とやっているつもりだったけど、もはや、トチの実フィーバー♪と小躍りしていた頃のテンションは見る影もなく、写真からは必死さオーラが醸し出されている。
ひたすら目の前のトチをへす。へす。へす。へす。へす。へす。
ひたすら目の前のトチをへす。へす。へす。へす。へす。へす。
へした栃(写真右:)はもう一度ネットにいれて、川で1週間ほどさらし、いよいよ「栃シゴト」の真骨頂?「あわす」へと突入。
3.あわす
「あわす」というのは、へしたトチを木灰と一緒にすることで灰汁(あく)を抜く作業のこと。通称「灰あわせ」。
やることは簡単で、トチの量に応じて必要な灰を計り、合わせ、あとは3昼夜置くだけ。3日後、ドキドキと蓋をあけ「いい感じ♪」「やったー!」と歓喜の声を上げながら、灰を洗い流せば「あわす」は完了というわけだ。
ところがところが、とにかくこの「あわす」が難しく、灰の質・量、湯温、すべてがバチっと合わなければ、灰汁が抜けずにエグ味が残るか、反対に抜けすぎてトチの風味も色も物足りないものになるか、場合によっては溶けて跡形もなく消えてしまう。今までの苦労は水の泡。忽然と姿を消すのだ。
「昔はどこの家でも、おくどさんでご飯炊いてたし、いい灰がたくさんあったんやけど、今はいい灰を探すのが大変や」「うちとこは、◎◎さんに頼んでわけてもらってるんや」「◎◎地域では、薪ストーブの人たちに声かけて灰、持ってきてもらって、舌でねぶって灰をえぇ灰にするって聞いたで」
と、灰合わせに向く良い灰の調達はどこでも課題。
栃シゴトに精通されている方は、見ただけで灰の良し悪しがわかるようだし、灰を舐めて良い状態に調合するということもできる。21世紀の今、令和の時代にも現在進行形で行われているのだから、驚きを通り越してため息をつきそうだ。
※この木灰は広葉樹に限る。もっと言うと、ナラ・カシ・クヌギは良いがクリはダメのよう。クリが混じると色が抜け白っぽい仕上がりになり、トチらしい黄金色の輝きにならないと断言される方もある。
灰あわせ当日。1週間〜10日ほど水にさらした、トチを再び温める。 温めたトチを割って頬にあてた時に「あぢっ」となるくらいがいいらしい。
「あぢっ?」「あぢっ!」と言いながら、トチの実の中心まで十分に温まっていることを確認すると同時に、トチと同量程度の灰を計り、灰汁(はいじる)を作り、トチと良く混ぜる。
「熱すぎるんちゃう?」「いや、ちょうどいい 。これで行こ」「グルグルして、グルグル」灰を合わせる瞬間は、騒然となりながらも、うまく灰があいますようにと祈る気持ちでいっぱいになる
3日後、灰を洗い流すと黄金色の風味豊かな実が顔をだす。ほっとする瞬間。
灰を洗い流したトチは、冷凍保存。
もち米と一緒に蒸し上げ、餅つきをすれば栃餅の完成。
9月中旬〜下旬 トチの実拾い
9月下旬〜10月下旬 トチの乾燥(この段階での保存可)
12月初旬〜 トチを水に戻す
12月中旬〜 トチへし→水にさらす
12月下旬 トチ灰合わせ(この段階での保存も可)→餅つき→栃餅へ
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やはり、トチの実から栃餅を作るには、100日以上必要だった。
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芦生は今なお、トチノキが残されている(かつての村人が、残してくれた)のでトチの実を拾い、栃餅を食すことができる。とはいえ、かつてに比べ、収量は減少していると言われている(資源量については、調査中)。
手間のかかる作業、とてつもない時間の流れの先にある栃は、愛おしいし、素朴な風味――ほろ苦さがくせになる。
トチのことが気になる人・好きになる人が、あの町にもこの町にも増えたらステキだ。美味しいが広がるとうれしい。
そこで、
「ホームベーカリーでつくる お家で つきたて栃餅」
まもなくリリースです。
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