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上野千鶴子、嶋守さやか、明日少女隊の対談!〜ナイナイ岡村氏の発言は何が問題か?〜


東京大学名誉教授の上野千鶴子先生、桜花学園大学の嶋守さやか先生と、明日少女隊の大学2年生の杉野芳子隊員と、20代社会人の佐多稲子隊員が対談しました!

内容は、ナイナイ岡村の発言の問題点と、セックスワークについてです!
ぜひ、ご覧ください。

長年、フェミニズムの分野で活動されてきた先生方と、対談の機会をいただけて、大変光栄でした!

対談は、WANのフェミニズム・リサーチ・ライブラリの一環で、動画は桜花学園特別研究費で制作させていただきました。

企画してくださった、WAN、嶋守さやか先生、上野千鶴子先生、本当にありがとうございました。

対談後記 匿名での活動について

さて、先日、明日少女隊の隊員たちで、対談をふり返るミーティングをしました。そこで話したことを、尾崎翠(明日少女隊)がまとめたいと思います。

まず、上野先生から、私たちが匿名でマスクで活動していることに対し、「私は叩かれ慣れているから顔出ししてやります」というコメントをいただきました。似たようなコメントを、他の先輩フェミニストからもいただいたことが何度かあるので、この機会にお返事したいと思います。

私たちは、叩かれ慣れていることと、顔出しすることは、全く別の話だと考えています。

私たちがマスクをかぶり、匿名で活動する理由の一つは、グループ内の、より弱い立場の隊員を守るためです。例えばDV被害やストーカー被害、性暴力被害にあっている人など、どうしても顔出しや実名での活動はできないけれど、フェミニズムの活動をしたいという方は実はたくさんいます。私たちはそのような若い女性を活動に歓迎したいのです。

社会的に弱い立場の人たちは、実名でフェミニストとして活動する以前に、すでに長年「叩かれている」状態なのであり、その上でさらに日本で実名でフェミニストとして活動することは、家族や友人を失ったり、仕事を失ったり、心身を危険に晒したり健康を損なうなどのリスクがあるのです。そのようなことになった時、どこにも逃げ場のない人もいるのです。

私たちは、実名で顔出しして活動されているフェミニストの方を、一切否定しませんし、実名で活動するのか匿名で活動するのかは、それぞれの活動にあった形でベストな方法を選べば良いだけのことだと思っています。

ただ、あらゆる差別が色濃く残る日本社会では、実名で、顔を出して、叩かれ慣れることができることは特権であるということも、多くの人に気がついていただけたらと思います。

また、日本におけるアーティストと学者の立場の違いについても考えていただけたらと思いました。日本には、アーティストに対する偏見が根強くあります。芸術系の大学に進学することを親から大反対されたという人はたくさんいて、中にはアーティストになることで親から縁を切られたという人もいます。社会に出てからも、日本では多くの場合、アーティストは社会的地位がとても低く、正当な賃金は支払われず、働いていても無職と呼ばれることすらあり、知的でない存在と扱われがちです。

どうして、アーティストや芸能人の多くが『芸名』を名乗っているのか。社会的に低い立場から声をあげるとはどういうことなのか。

バンクシーのような世界的な有名アーティストは、覆面で匿名でも誰も突っ込む様子もないのに、なぜ明日少女隊のような、バンクシーよりも弱い立場のアーティストは、「勇気がない」「正々堂々としていない」「叩かれ慣れていない」などと言われ、常に匿名であることの説明を求められるのか。

一度、みなさんに考えていただけたらと思いました。

対談後記 セックスワークについて

また、セックスワークの話題で、明日少女隊の隊員と、上野先生の意見がすれ違うことについても話しました。

私たちは、Sex work is work(セックスワークは仕事である)という観点から、セックスワーカーの多様さを認めて、セックスワーカーへの偏見をなくし、セックスワーカーがより安全に働けるような環境の整備が緊急課題だと考えています。と、いうのも、セックスワークを否定し、セックスワーカーに対する偏見を取り除く努力なくしては、セックスワーカー従事者が結局救われないということが、世界で長い間繰り返されてきたと学んだからです。(下記資料参考)

佐多稲子隊員が、「上野先生に、『じゃああなたはセックスワークをお友達におすすめできるの?』と聞かれたのですが、うまく答えられませんでした」と言いました。

そこで、「でも、おすすめできない仕事なんて山ほどあるよ」という話になりました。
「安全面の話だと、原発事故後の原発内部の後始末の仕事はおすすめできないし」
「いや、アーティストになるのはおすすめできないでしょ!全然稼げないし、日本ではリスペクトすらない。」
「うちのお母さんは看護師だけど、重労働すぎておすすめしないって言ってました。」
「うちの夫は弁護士だけど、長時間労働でストレスの多い仕事だから、息子には絶対に弁護士になってほしくないと言ってます。」

「おすすめできない」「安全じゃない」仕事は、ある程度は主観的な問題で、世の中、セックスワークに限らずたくさんあるのに、セックスワークだけは極端な差別と偏見にさらされており、それが暴力や搾取の原因にもなっていて問題であると思いました。

また、上野さんは繰り返し、セックスワークが「履歴書にかけない仕事」とおっしゃっていました。

しかし、考えてみると、履歴書に書けない仕事は、世の中にこれまたたくさんあります。世界的に有名な例(!?)は育児、介護、家事。

また、誰に提出する履歴書なのか、という視点もかけていると感じました。
セックスワークの業界で働くなら、セックスワークの経験は履歴書にかけるのではという気がします。

余談ですが、アートの仕事も履歴書に書くのは大変です。XX年〜XX年は絵を描いていました、というのは履歴書にかけないので、みんな必死で、無理やり展覧会をしたりするなど、履歴書にかけるような形になるように努力します。それでも、展覧会の履歴があるからと言って、雇ってくれる会社はまずないわけで、展覧会の履歴が書いてある履歴書が通用するのもアート系の公募や助成金申請の時くらいではないでしょうか。

日本で画家として長らく活動している別の隊員は、こんなことを言っていました。

一般企業への就職活動の時は、履歴書にアーティスト活動の記載はしません。職安でも書くなといわれたような。
アーティストは身勝手、協調性がない、すぐ辞めると思われている気がします。
仕事する時はアーティスト活動を隠し、アーティスト活動の時は就職してることを隠し・・な感じですねぇ

子育て中な上に、アーティストである私としては「私も履歴書に書けない仕事ばかりだな、こんなに毎日朝から晩まで働いているのに。でも、だからと言って、労働と認められないというのは違う」と思いました。おそらく、上野先生は履歴書にかけない仕事をほとんどされたことがないのかもしれないと感じました。

セックスワークでは、人身売買などの深刻な人権侵害が行われている現場もあり、それは許すことのできない暴力だと思います。生活苦から、仕方なく、セックスワークをする方も多いことを考えると、低賃金の問題や、社会のセーフティーネットが機能していない問題を改善していく必要があるとも思います。しかし、そのような、自分の意思に反してセックスワークに従事せざるをえない方たちのことを考えても、セックスワーカーに対する偏見を強めることでは、この問題は解決しないのではと思いました。

すれ違いはあったものの、このような議論ができたこと、世代を超え、アーティストと学者というジャンルを超えて対談できたことは、本当に素晴らしいことだったと思います。上野先生、嶋守先生、ありがとうございました!

参考資料

岡村の謝罪

相方矢部の発言

この問題に対して始まった2つの署名運動

海外の女性蔑視発言による降板の例

岡村の発言後にリツイートを大幅に伸ばした、ジュリア・ロバーツの発言

セックスワークについて

アムネスティがセックスワーカーの人権擁護決議を採択
https://www.amnesty.or.jp/news/2015/0819_5525.html

アムネスティ【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関して
https://www.amnesty.or.jp/news/2016/0526_6062.html


日本の女性の貧困について

明日少女隊が、2015年に制作した、シングルマザーについての動画をご紹介します。

この動画は、日本の化粧品会社のCMのパロディーです。CMでは、シングルマザーを美しく描き、その後に、高額な化粧品の宣伝をします。

日本のシングルマザーは、仕事を持っているにもかかわらず、実にその半数以上が貧困という、世界的に見ても異常な状況が続いています。

多くの国では、仕事を持っていれば、シングルマザーでも貧困にならないラインを保っているにもかかわらず、日本は、そもそも女性への賃金が低いこと、マタハラ、マミートラックなどの影響で母親が仕事を続けることが困難なこと、多くの父親が養育費を払わないことなどから、シングルマザーは厳しい生活を強いられています。

私たちは、そのような社会的背景があるにもかかわらず、化粧品会社が自社の利益のために、シングルマザーをCMの中で「心温まる美しいエピソード」と消費していることに疑問を持ちました。日本の広告業界には、頑張っているシングルマザーのストーリーを消費するのではなく、支援する方向のCM作りに期待します。

2015年制作 明日少女隊




嶋守さやか先生からの、明日少女隊の発起人、尾崎翠へのインタビューはこちら


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