「おかえり」の裏側
1歳9か月の娘にとって、少し前までは、言葉は単なる音だったのに。
いまや「あか」という音が「赤」で、トマトやりんごの色を指す言葉だと理解している。
ブルーベリーを食べたときに、自分の指先を見て「むらさきー」と言ったりする。
初めて冷凍ブルーベリーを1粒つまんで食べたときに、自分の指を見つめて「なにー?」と聞くので、「(ブルーベリーの果汁が指について)むらさきになっちゃったねぇ。む・ら・さ・き」と教えたら、それ以来、ブルーベリーを食べる度に「なにー?」「む・ら・さ・き」のやりとりをするようになった。
そして、ついに自分から「むらさきー」と言うように。
自分の発する音が意味を持つ、ということを理解している模様。
そんな娘。
ある時から、「おかえりー」を言ってくれるようになった。
夫が休みで、保育園に娘をお迎えに行ってくれた日。
私が会社から家に帰ると、夫に晩ごはんを食べさせてもらっていた娘。
玄関で私がドアを開ける音に気づき、
「おかえりーー!!」
全力で叫ぶ。
「ただいまーー!!」
私も全力で返事を返す。
もちろん、私が娘を保育園にお迎えに行き、家で2人で夫を出迎える時には、同じように夫にも「おかえりー!」を言ってくれる。
全力の笑顔。
ぱぁぁっと明るい声。
かわいいな、と単純に思っていた。
仕事の疲れもその日ToDoが達成できなかった悔しさも、吹き飛ぶ気がした。
・・はずなのに。
ふと、「そういえば、娘は『ただいま』は言わないな」ということに気づいた。
たとえば。
保育園にお迎えに行って、「おかえりー」と私が声をかけても。
保育園から一緒に帰ってきて、家に入るときも。
「ただいま」って言わない。
発音しにくい??
いやいや、もっと難しい言葉もしゃべってるし。
もしかしたら。
もしかしたら、私はいつも娘を「待たせている」のだろうか。
平日は、朝7時半頃、保育園に娘を送り、お迎えは17時半~17時40分頃。
休日は一緒に過ごすものの、美容院とかピラティスとか、私自身の用事で夫と娘にお留守番をお願いすることも少なくない。
娘からしたら、平日も休日も「母を出迎える」というシーンが、実はとても多いのではないだろうか。
だから、「おかえり」という機会も多い。
自分が「ただいま」というよりもずっと。
娘は、すごくすごく頑張ってくれているのだ。
4月の慣らし保育から、あっという間に保育園に慣れて、元気に通ってくれていて、今のところ一度も「いやだ」と行き渋ったことがない。
娘はいつも、私を待ってくれている。
私が、かならずお迎えに来ると知っているから。信じてくれているから。
助けてもらっていたのは、私のほうだ。
私は「おかえり」と言ってもらって、娘の優しさに甘えていたのだ。
1年半の育休から復職する際、娘に「ごめん」って言わないと決めていたけど。
初めて、娘に「ごめん」と思った。
毎日10時間も、待たせてごめんね。
保育園が楽しくて、喜んで行っているのもそうだと思う。
だけど。
やっぱり、「ごめん」と思わずにはいられない。
いつも、本当にありがとう。
心から感謝してる。