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LOUDNESS世代の新たな試練

2022年9月19日20時頃、私はZepp Hanedaで怒っていた。私はヘビーメタルバンドのLOUDNESS(ラウドネス)のライブに来ていた。このライブはコロナ対策でライブ中の声援は出来ない。だから私はライブの終盤、黙ってアンコールを求める拍手の手を力いっぱい叩きながら怒っていた。

なぜ怒っていたのか?単純な理由だ。観客のアンコールの拍手が小さかったからだ。ヘビーメタルファンには言わずもがなだが、ラウドネスというバンドは、今年40周年を迎える80年代を代表するヘビーメタルバンドである。このバンドの何よりも特筆すべきは、海外へ挑戦し人気を博していたことだ。今では海外でも活躍するバンドは珍しくないが当時は本当に珍しい存在だった。メジャーリーグでいう野茂英雄的存在というのが妥当だろう。だからラウドネスのファン層は80年代に青春を過ごした40代・50代がメインだ。この中年のファンがこの程度の拍手しかしないとは怠慢だと感じたのだ。

この日だけではなく、最近のライブ会場の多くでアンコールの拍手が以前より少なく感じる。これには様々な原因がある。会場との契約上の都合で時間管理が厳しくなったこと。フェス形式が多くなりタイムテーブル通りのライブが多いこと。最近のライブの曲順(セットリスト)はファンの間ですぐSNSで共有されてしまいアンコールで何を演るかも何曲やるかも分かっているという状態であること。アーティスト側も大きな遅刻や大幅な遅延はすぐさまSNSで叩かれることなどなど。だからアンコールを求めるファンは、特に気合を入れて拍手をしなくたって決まったアンコールが演奏される。つまり予定調和に慣れきってしまっているのだ。

だからアンコールを求める拍手に気合が入らないのは理解出来なくもない。だがちょっと待ってくれ。それで10代・20代のファンに示しがつくのだろうか?私たちが愛した文化を継承しなくて良いのだろうか?ライブは何が起きるか分からない偶然の代名詞ではなかったか?ある偶然と出会った時、その偶然をいかに事件にするかは、そこに立ち会う全ての人の腕にかかっているのではないだろうか?予定されていなかったアンコールのそのまたアンコール、逆にアンコール無しなど、やっちゃいけない事をアーティストと共にやってしまった共犯の感覚。あの感覚を10代20代のファンに継承しなければならないのではないだろうか?そのためには、無駄かもしれないがアンコールの拍手は精一杯すべきだと私は考えるのだ。そうじゃないと、音楽ファンの文化の継承が途絶えてしまうのではないかと危惧しているのだ。

何もそこまで気にする問題ではないという意見もあるだろう。今までだって古参ファンから新参ファンへの継承は出来ていたし、これからだって出来るはずと考える人もいるだろう。ただ私はそうは思わない。いや、思えないのだ。なぜなら、現在私の会社を見ていると、現代の文化継承の困難さを切実に感じるからだ。

私の会社は、今年15期目、社員数20名弱の零細企業だ。そこで最近困ったことが起きている。それは新人が居つかないことだ。これは様々に理由が考えられるのだが、最近辞めた新人たちが辞める前に漏らす不満は、「事務所の雰囲気に馴染めない。」「他の人に話かけづらい。」「輪の中に入って行きづらい。」というものだ。このような不満は以前はなかった。以前は、仕事内容や個人の事情で辞める人間がほとんどだった。会社の雰囲気に馴染めず辞めるという人間は少なかった。ところが最近はこの理由がほとんどだ。新人が馴染めなくなった原因はなんだろうか?決して社員人達が意地悪になったわけではない。私は、社員たちの社歴のロングテイル化だと考えている。社歴の同じような人間がおらず、社歴が古い人間から新しい人間がわすかずつにいる。さらに1部署に多くの人間が必要でないため1人ないし2人の部署ばかりだ。つまり同期的な存在がおらず、みな1人で仕事をしているのだ。このことにより新人が見本とすべき自分と同じ仕事をしている身近な先輩という存在がおらず、孤独感を感じてしまい退職してしまう。このことは、会社にとってとてもマイナスなことで、すぐに解消しなければならない問題になっている。

このことを、アーティストのファンに置き換えて考えてみる。現在のファンも同じような分断の問題を抱えているように感じる。このファン層の分断は2000年代ごろから顕著になり年々加速していると思われる。その原因はデータベース社会の拡大にあるのではないだろうか?我々80年代・90年代に青春時代を送った人間は、ファンの年齢層がある程度固まっていて当たり前であった。アーティストと共にファンも年齢を重ねていく。もちろん若いファンも獲得していくが、現代のようなファン層の広がりはなかった。アーティストはリアルタイムに経験したファンによって支えられていた。ところが現在の状況は全てのアーティストがデータベースの中で活動している。だから、リアルタイムでないファンの獲得も以前に比べ容易になっている。今回のラウドネスのライブでも象徴的な出来事があった。ライブの中盤に現れた11歳の野元ノア君だ。野元ノアくんは、youtubeでラウドネスの歌を歌い。その動画を見たラウドネスのボーカル二井原実氏に招待されたのだ。


このノア少年のような例は、多数ある。これはYoutubeやNetflixなど動画配信サービスやApple MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスに見られるいつでもアクセス可能なデータベースが、現在から過去のアーティストの音源・動画を「いつでも」「どこでも」体験できるようにしたことで、昔だったらありえないほど若い新しいファンを獲得出来るようになったということだ。そして今までアーティストと同時代があたりまえだったファン層を変貌させた。それがファンの年齢層・ファン歴のロングテイル化を引き起こした。そのロングテイル化は何を生み出したのか?一つは以前には考えられなかったファン層の拡大を生み出した。ノアくんのように全盛期を知らないファンがデータベースへアクセスすることでファンになる。このように+(プラス)に働いた面がある。しかしその一方でマイナス面もある。ファン層の分断が生まれたのだ。ロングテイル化は、以前のフォン層のような大多数の同時代のファンによる連帯を弱体化させた。また昔あったような少数派の新参ファンがコミュニティに入って大多数の古参ファンの流儀を真似をする、という状況を解体した。

このような分断が生まれたファンコミュニティをもう一度強固にし、文化を継承するために我々が出来ることはなんだろうか?予定調和に慣れることではなく、一期一会の精神をより感じることではないだろうか?事件の目撃者になるために全力で偶然を取りに行く姿勢なのではないだろうか?そしてそれを若い世代へ継承すべきではないだろうか?ちなみにラウドネスのメンバーたちの年齢は、60歳を超えている。それでも未だにニューアルバムを出し、ヘビーメタルという音楽の素晴らしさ、ライブの素晴らしさを継承している。だから我々ファンも後世に残るようなライブを、アンコールを、一緒に継承していく努力が必要なのではないだろうか?

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