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ドラストールの地誌(古代の宝物に関するファーンハン(Farnhan)の目録より)

・この文書は、第一期の文明として栄え、滅んだ土地を旅し、知り得たことについて説明・報告するものである。

・この地誌は、不変にして寛大、国土の守護者、魂の自由の護り手、天国への架け橋たる敬愛する陛下に捧げる。

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破滅の地

 ドラストールは、一様に、端から端まで混沌であると言われるが、これは大分に誇張されている。大まかに、ドラストールは北西から南西に長い中心線を引いた楕円形の領域である。東部ドラストールには、混沌はほとんど達しておらず、そう脅かされているわけではない。例えば、ドラスタの社(Dorasta Shrine)は、何世紀もの間、安全が保たれている。
 現在のところ、タラスターの民が保持しているオールドウルフ砦(Old Wolf Fort)は、第一紀の頃は、ドラストールに入る北の入り口だった。狼の民(Wolf Folk)は砦などを築くことはないので、この場所を古代のテルモリの城塞として紹介するような伝説は、ほぼ誤りである。過去に、毒茨のエルフ(Poisonthorn Elf)の警戒をかわして、ここまで達した混沌はほとんどいない。現在は、この小さな辺境の開拓植民地は、年2回のルナー交易探検隊の往来に頼りきっている。
 北西の高地は、毒茨の森(Posonthorn Forest)であり、部外者には閉ざされたエルフの領域である。ブラッドストーン砦(Bloodstone Fort)は、年に2回許可されるアルドリアミのキャラバンを除いては、部外者の侵入を許すことはない。森の植物のほとんどは、エルフ達の保護により混沌に汚されることを免れている。しかし、動物の多くは、エルフの熱心な巡回にもかかわらず、多くが混沌に汚染されている。北西の地域全ての交易道は、森の一部を通っているが、修羅森のエルフ(Hellwood Elf)と野生のブルーは、繰り返し、森の南の縁の広い領域を焼き払っている。狼の民は、食料を得るための狩りと毒茨の矢を盗むために毒茨の森を訪れる。この矢は、森で作られる最も価値のある生産物であり、ドラストールのブルーの支配者、ラルツァカークとの間にこのような矢について協定が結ばれている。
 毒茨のエルフと修羅森のエルフ、混沌、テルモリの間は、常時、戦争状態にある。一方、彼らは、ドラスタの社の住民と平和的な関係にあり、ラルツァカークとは相互不可侵の協定を結んでいる。
 ドラストール中部の北辺付近には、ナンタリ台地(Nangtali Plateau)が中央低地を200mの高さの切り立った崖により分断している。大地は狼の民の根城である。テルモリは、混沌に呪われたスンチェン人であり、獰猛な人狼として広く知られており、その凶悪さについての評判が、部外者がこの地域に足を踏み入れることを思いとどまらせている。景観は荒涼としており、トボロスの峰々の雪原から小川が水を運んでくるにもかかわらず、ほとんど雨は降らない。黒く滑らかな岩は、歪んだおとぎの国の丘や裂け目を形作り、巨大な丸石が至る所に転がって山を成している。
 ナンタリ台地の北の端には、トブロス山脈(Tobros Mountains)がナンタリ台地から更に300m~500mの標高でそびえ立っている。この山脈の尾根は、北はオールドウルフ砦、南はエリンフラース川(Erinflarth River)の渓谷で切れている。雷鳴山(Thunder Mountain)は、トブロスの峰々の中でも一際高く、オーランス信徒から神聖視されている、古代の伝承によると、何者であれ、雷鳴山の山頂に立つ者は、自らオーランスと直接言葉を交わすことができるという。
 ドラストールの中央低地は、北西から南東に向けてヘドロ川(Sludgestream)とその支流が流れる長い谷地である。ヘドロ川は、とても不快でぬるりとした流れの川で、灰の平原(Ash Flat)からリスクランド(Riskland)に流れ、エリンフラース川に合流する。
 川は、時折、その色を変え、しばしば、奇怪な「何か」が流れていくのを見ることができる。飲用にするには有毒であり、悪臭がして、そして知性あるゴープが繁殖する。
 毒茨の森のちょうど南に悪鬼の高原(Demon Plateau)を形成する高山台地が広がる。大地の西が、枯れ果てた森と緑地からなるイルランド(Illlands)である。悪鬼の高原の西の端の直下に、ブルーの王にして、ドラストールの支配者を僭称するラルツァカークの居城である憤怒の城砦(Fort Wrath)がある。
 ドラストール宿場(Dorastor's Inn)は、交易道をヘドロ川の浅瀬を渡った先の街道脇にある二階建ての宿屋である。この宿屋は、エティーリズがカルトとして直接経営しており、協定によりラルツァカークの保護下にある。ルナー帝国は、ラルツァカークと毒茨のエルフから年2回、ドラストールを抜けてタラスターとラリオスを往来するキャラバンを通す許可を得る協定を結んでいる。2つのエティーリズキャラバンのうち、1つはドラストール宿場を、もう1つはアーカット最後の砦(Arkat's Last Fort)を経由し、ドラストールを通る全ての交易は、この2つのキャラバンが独占している。
 悪鬼の高原は、ドラストールで最も混沌がはびこる地である。アーカットが山の頂上を切り払った際に、悪鬼がその表層に封じ込められ、限られた力しか外界に出すことができなくなった。「吠え猛るもの(Howler)」、「イェーチ(Yeachi)」、「物(Thing)」と呼ばれる存在も含めて、多くの混沌の生物が、少なくともその一部分については、この悪鬼により創造された。古いウロックスの伝承によると、巡礼者として悪鬼の高原を訪れる信徒は、その死後、英雄の列に加わることが保証されているという。
 悪鬼の高原の東にある灰の平原は、アーカットが奇跡の都(City of Miracles)を滅ぼした際にできた荒廃した地域である。この地の表層は、ただの灰の厚い地層で覆われ、どこまでも平坦である。灰の下には、軟泥の溜まり、軽い灰による深い空洞、あるいはいまだ知られていない何かが隠されているだろう。風に運ばれている灰を吸い込んでしまうと、ひどい痛みや、死ぬことさえ(特に嵐の間に問題が起きた場合)あり得る。毒茨の森から灰の平原へと流れる小川は、どれも灰の平原に流れ込む前は、澄んだ水である。これらの水流は、灰の平原から抜けると南東からヘドロ川に流れ込む。
 灰の平原とナンタリ台地の間が、崩れ、捻じれた地である死霊ヶ原(Ghostdirt Plains)である。ドラストールで唯一広く狩られる獲物は、ここで繁殖する灰色鹿である。混沌の捕食者である狼の民やブルーは、皆、ここでお互い食い合うか、灰色鹿を狩りにここに来る。この地域は、さらに加えて死霊の危険もある戦場である。
 死霊ヶ原の南東の端、トボロス山脈から主に流れ出る黒洗い川(Blackwash River)に沿った地域が、第1期の首都であったドーカット(Dokat)の廃墟である。目に付く唯一の遺跡は、いくつかの散らばった石くれと方形の広場だけだが、伝説に名高い富と魔法の宝物は、この地下に眠っていると考えられている。ここの強大な幽鬼の物語の数々は、この都市の古代の忌まわしい創設者の精霊の存在を示している。黒洗い川が注ぎ込むドーカットの南の沼地は、腐れの庭(Rotground)、あるいは混沌の沼沢地として悪名高い。この地域は狂気の総督(Mad Sultan)とその堕落した廷臣達が住む地と考えられている。死霊ヶ原の灰色鹿は牧草を食みにここに来るが、それを狩るために、テルモリや混沌もうろついている。しかし、腐れの庭に潜む危険は、最も注意深い現地の住民で会っても命を落としかねない。
 スライム岩(Slimestone)の廃墟は、巨大ゴープで覆われている。スライム岩より下流のヘドロ川は、蛇行しながら大きな沼地を幾つも抜けていく。この地域は汚れの谷間(Foulvale)と呼ばれる、ドラストールにおいても最悪に壊れ、捻じくれた地域である。混沌の裂け目が地面に現れたり消失したり、地形が変貌したり、気候が致命的にまで荒れ狂ったりする。混沌と混沌の生物が、汚れの谷間を支配している。
 汚れの谷間の南が修羅森であり修羅森のエルフの根城である。彼らは、伝統的なアルドリアミの習慣と信仰を守っているが、実際には、彼らは混沌の汚染により歪み、邪悪に染まっている。このエルフ達は、グバージとも呼ばれるナイサロールの啓発を探し求めている。このエルフの支配階級は、「カージョルクのエルフ」または「カージョルク」として知られている。彼らは、そのような名を持つ、あまり世に知られていない混沌のカルトを密かに信仰していて、意のままに獣と化す恐ろしい祝福を授けてもらっていると信じられている。七つが丘(Seven Hills)は、修羅森のエルフの隠された砦に付けられている名である。毒茨の森のエルフと修羅森のエルフは、双方とも相手に対して古代からの憎悪を心に抱いており、相互に無慈悲で残忍な襲撃を繰り返している。

 修羅森にあるヘルワストの川岸に立つネバ―デッド(Neverdead)に、伝説にある生ける屍の園(Zombie Zoo)がある。修羅森のエルフによると、そこでは、ゾンビの農夫が、勤勉に穀物を世話し、収獲しているという。
 汚れの谷間の北は、孤立した高地に蜘蛛の森(Spider Wood)と言う一風変わった森があり、森の中央にそびえる導きの塔(Tower of Lead)と、そこに生息すると噂される巨大な蜘蛛の一群により有名である。死霊ヶ原の灰色鹿は、時折、この森に牧草を食みに来るし、テルモリや他の混沌の存在も、しばしば、この森の郊外にやってくる。それは、ここがドラストールで薬草が見つかる場所で唯一、エルフによって見張られていないからである。
 蜘蛛の森の東にドラストールにおいて目立った人間の居住地が二か所ある。一つ目は、ドラスタの社であり、人間が住む地としては最も古く、東の端にある小さな村である。それは、混沌の大海に浮かぶ安寧の小島のようでもある。混沌は近傍まで迫っているが、勇敢な入植者達が、何十年もの間、ゆっくりとではあるが混沌を排除し、この地域一帯を人の住める状態に保っている。村の人々は、平和的であり、第一期のドラストールの大地の女神ドラスタを崇拝している。ドラスタの裂け目(Cleft of Dorasta)は、近郊にある一風変わった地形だが、その不吉な評判にも関わらず、しばしば、古代のドラストールの失われた宝が隠された場所として語られる。二つ目は、より最近にできた入植地で、蛙川に沿ってその上流の峡谷に築かれたリスクランド(Riskland)と呼ばれる場所である。赤の皇帝は、“泳ぎ手”ハコン王の息子、レネコットにこの地に新しい氏族を建てること、又、オーランスへの信仰の自由を保障することについて、特許状を下賜した。頑なにルナーの権威に逆らい、処刑するには有名すぎる反逆者もこの地に追放のために移送される。結果として出来上がったのは、勇敢な開拓の理想と粗野で野蛮で素朴な実用主義が混ざり合った一風変わった社会である。リスクランドの主要な居留地である、ハザード砦(Hazard Fort)もまた、ドラストールの古代の宝物を奪取しようとする冒険者や混沌を八つ裂きにしようと意気込む殉教者的な戦士たちの格好の拠点となっている。
 ドラストールの南の境界を囲むのは、頂点に雪を頂くボリニ(Bolini)の峰々からなるロックウッド山脈(RockWood Moutains)である。険しい山脈を抜けるのは、唯一、カートリン峠(Kartolin Pass)のみである。この峠は、冬の間は閉ざされており、一年を通じて、東は最後のアーカットの塔、西はカートリン城(Kartolin Castle)により守られている。
 峠の東の終わりは、イルランドの端であり、そこには、巨大な塚とアーカットの最後の塔として知られる砦が建っている。グバージ戦争以降、混沌を憎悪するカルトが、この砦の不寝番を務め、不浄な存在は何者であれ、ドラストールからラリオスに抜けるのを許さなかった。今は、ここの守りは帝国軍の志願者が務めている。エティーリズは、この砦を生活の場として維持しており、砦の安全は、ラルツァカークとの協定によって保証されている。
 カートリン城の創建は、第一期のナイサロールの時代のことであり、当時、叫びの城の一つであった。この避難所は、オールドウルフ砦から始まるルナーの交易探検隊の終着点である。亡霊の軍団が、峠を脅かそうとするドラストールの混沌から守っていると言われている。第一期にあった他の城は、ロックウッド山脈を抜ける失われた間道を守っていると言われているが、その場所を知る者はいない。

近隣諸国

ベンクスランド(Benksland)とスカルスランド(Skaisland):修羅森の東にあるのがベンクスランドとスカルスランドであり、起伏の多い丘陵が国土の大半を占めているが、時折、中央低地の混沌の沼地から起こる定期的な洪水にさらされている。スカルスプリッター川(Skalsplitter River)は、ロックウッド山脈とボリニ山脈から流れ、その水は澄んで新鮮である。しかし、黒油川(Oilstream)は、どろどろとした黒い流れであり、明らかに飲用に適さない。スカンス(Skanth)の山岳民によると、その水は藁と混ぜるとよく燃え、荷車の車輪の廻りを良くするにも使えるという。それは、山中にあるドワーフの廃墟から流れ出しているという、根強い噂がある。 この辺りは、公的には無主の地とされており、乗り出した者が自分の思う通りにすることができる。あるいは、そこは未開の地とみなされ、スカンスと同じように現在そこを占拠しているオーランスを信仰する小部族のものになるだろう。

スカンス:この地方は、未だに未開かつ野蛮である。この地域に居住するスカンスの部族民は、第一期に起源を持つ風習と信仰を飽くことなく繰り返す保守的なオーランス教徒である。蛮族ベルト地帯の標準的な文化水準と比べても相当遅れているにも関わらず、スカンスの丘人達は、自らの原始的、粗野とさえいえる物的、社会的状態について少しも恥じ入るところがない。スカンスは、幸運なことにあまりにも貧しいことから、帝国の同化主義的政策からも見放されている。この地域で記録に残す価値があるのは、10世紀以前にアーカットの軍が通ったとされる広い軍道の遺構ぐらいである。この地域には雑草しか生えないだろうし、亡霊や死霊は、毎晩のように出没する。

アガー王国(Aggar Kingdom):何十年のもの間、外国の訪問者を拒んでいる千人の魔術師の都で有名な、ルナーの属領地である。アッガー王国自体は、ルナーの属国の中で最も野蛮で文明化されておらず、領内の通行は、起伏の険しい地形や、東西に走る道路がないことから、かなり制限を受ける。

シリーラ君主領(Sylila Sultanate):領民は元々はオーランス教徒だが、ゆっくりとルナー文化の大きな流れに同化しつつある。サバナ(Thubana)が州都である。

リスト(Rist):このルナー帝国中心地の平和で実り豊かな属領地は、かつてはアルドリアミの部族の故郷の森だった。炎月と呼ばれる偉大なルナーの魔術が、森の木々を焼き尽くし、エルフ達をリストの地から駆逐した。今、彼らは修羅森のエルフと呼ばれ、ドラストールの南西に居を構えている。

タラスター(Talastar):この野蛮な国は、国土の大半が丘と岩で占められており、穀物を栽培するには向いていないが、丈夫な羊と頑強な山岳民が暮らすには適している。現地に居住しているのはオーランス教徒だが、ここ最近の数世代は、帝国からタラスターに移民しようとするルナー人により、同化の圧力が強まっている。人々とその指導者については、頑固で反抗的な伝統主義者と真面目で実利的な宥和主義者に分断されている。タラスターの大きな文化圏は次の3つである。アナディキ(Anadiki)は、北西に位置し、タラスターにおいては最もルナー化している。ビリニ(Bilini)は、中央を占める部族の連合体だが、内部の政治的状況により混乱している。スカンシ(Skanthi)は、南東に位置し、断固として保守的で伝統を墨守するオーランスを崇拝する部族である。

ビリニ王国(Bilini Kingdam):ビリニは規模の大きなオーランス教徒の部族であるが、近隣のスカンシと比べるとルナーの道にの方に傾いている。王国の統治形態は、ゆるやかな部族連合だが、その連合を支配する代々の王は抵抗に対する反抗と宥和を繰り返している。不満を持った伝統主義者達は、スカンシの荒野に住まう同族の元に逃げ込んでいる。

カリア(Karia):カートリン峠の西側にある広大な谷間である。ロックウッド山脈の孤立した突出部がカリアの南西の橋を区切っている。北西には、堕落したドラゴニュートが住み着いたオルムズランドがある。オルムズランド自体は、ベスモンストランの一部であり、かつては、モスタリ、アルドリアミ、ウズが住み着いていた、いわゆる「西方にある怪物の国」であった。南東には東部の荒れ地(East Wilds)が広がり、文化的には孤立したスンチェン人の少数民族であるオーランス教徒が住んでいる。

ロックウッド山脈:ロックウッド山脈は、神々の時代、争い合うペローリアとラリオスの人々の間を分かつために差し込まれた。その目的は、今も十分に果たされており、カートリン峠と呼ばれる険しい峠道だけが通行可能である。ボリニ山地(Bolini Range)の山頂はドラストールの南の縁に沿って走っている。エブロン山地(Ebkron Ranege)は北側の分水嶺になっており、神々が今でも住まうと言われている。山頂は、常に雪で覆われ、巨人が今も住み着いており、通行する者を殺すために、岩や氷塊を滑落させる。
 山脈の地下には、第2期に破壊され、今では放棄されている古代のドワーフの城塞が眠っていると言われており、伝説では、今も利用可能な古の隧道が間違いなくあるとされている。

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