見出し画像

いってらっしゃい

今日から一泊で、長男(中1)が移動教室に行っている。

行き先は隣の県で、近い。

新聞博物館や帆船を見学したり、大きな公園を散策したり、少し豪華なホテルに宿泊するようだ。

本当は今年5月に予定されていた行事だが延期になり、更にもう一回延期になり、ようやく今回の決行となった。

延期になるたびに落胆していた長男は、この移動教室を心待ちにしていた。

◇◇◇◇◇◇

「中学生にもなって……」

と思われることが分かっていながらも、書かせていただく。

彼の荷づくりが、限りなく不安。

学校から配布されたしおりには「大きなバッグ(キャスター付きのものは不可」と「リュックサック(ショルダーバッグでも可)」が荷物リストのいちばん上に書いてある。

そして各々、そこに入れるべきものの項目。

例えば、「大きいバック」の下には
・パジャマ
・部屋着
・タオル類(ホテルに貸し出し用あり)
・体温計
・歯ブラシ、ヘアブラシなど(ホテルに貸し出し用あり)
・二日目に着る制服
など

リュックサック」の下には
・筆記用具
・しおり
・水筒
・弁当(使い捨て容器に)
など

どう考えても、大きいバックは出発前にバスの収納部分に入れホテル到着後に取り出すものだろう。
リュックサックは車内に持ち込み、常に手元に置くものなのだと思った。
が、彼の解釈は違ったようだ。いや、思いもしなかったようなのだ。

昨晩、あれほど早くに準備するよう促しても、なかなか着手しないことにしびれを切らした私は、ざっと荷物を詰め、リビングに置いておいた。

時計は10時半をまわり自室でウトウトしていると、ガサゴソと音がするので行ってみると、荷造りをし直している。

「え?パジャマは、ホテルでしか着ないよね?リュックサックに入れなくていいんじゃない?」

「あー、そうか、そうか。お母さん、もう寝ていいよ、ここまで詰めておいてくれてありがとう。」

「う、うん。あとさ、体温計は小さいから、紛れ込まないように透明なビニールポーチに薬と一緒に入れたんだ。直にバックに入れると、他の荷物を出す時に体温計が飛び出ちゃうんじゃない?」

「ああ、なるほど、なるほど。そういうわけね。ありがとう。」

「あっ!二日目に着るシャツ、そんなくしゃくしゃに突っ込まないで欲しいのだけど……」

「いいの、いいの、細かいことは気にしない男だよ、オレは!」

「シャツは、リュックサックに入れなくていいんじゃない?」

「そうだね、じゃあバックに入れるわ。お母さんにお願いするのは、朝、お弁当を作ってもらうことだけ。だから寝ていいよー。」

そういってシャツを思いっきりバックに突っ込み、
「明日の見学コースをもう一回、見ておこう。あと、オレが『はじめの言葉』の係なんだ。何しゃべろうー。おやすみー」

子ども部屋に入っていった後ろ姿を見送って、速攻でシャツをたたみ、入れなおした。大きいバックの中に。

◇◇◇◇◇◇

今朝、次男(小4)は起きたときから不機嫌で

「おまえなんか、バスでゲロ吐いてしまえー」
「お弁当のサンドイッチが海の中に落ちますように」
「オレにお土産買ってこいよ!!!」(お土産禁止である)

ののしりの言葉をぶつぶつ唱えていた。

「かわいそうでちゅねー、小学校でお勉強、がんばってくだちゃいねー!」

朝から取っ組み合い喧嘩をしている兄弟を視界の端っこにとらえつつ、冷ましたおかずをケースに詰めた。
久しぶりに作るお弁当。
段取りが悪すぎて、あきれてしまう。


サンドイッチ(ハムとチーズ、サーモンとツナとアボカド、ツナ)
唐揚げ
ブロッコリーとマカロニをオリーブオイルで炒めたもの


「食べる前はよくよく手を除菌シートで拭いてね!酔い止め飲んだから、たぶん平気だよ。気持ち悪くなったら早めに先生に言うんだよ。エチケット袋はリュックのここに入れたよ!」

矢継ぎ早に伝える。

玄関で見送る夫と私にひらひらと手を振って、リュックを背負い、バックを肩掛けし学校に向かっていった。

楽しんでおいで。
みんなで楽しんでおいで。

◇◇◇◇◇◇

「ずるい」「あいつだけなんで」と不満でいっぱいな次男に提案する。

「お父さんは今日お友達とお外でごはん食べるからさ、お母さんとふたりでどこか行って食べない?」

「え?外で?いいの?じゃ、フレッシュネスバーガー。ぼく、テリヤキ。」

よっしゃ、決定。
今晩はふたりでフレッシュネスバーガーね。

次男の顔が少しやわらかくなって、小さな声で「いってきます」

いってらっしゃい。
気をつけて。

兄弟を送り出した後に夫と、やれやれ…と笑いあう。
いってらっしゃいをいう時は、元気に帰ってきてねの気持ちをぎゅっと込める。
言葉は、お守りだと思っている。文章も、声も、私にはお守りと同じ。


帰ってくることはすごいことだなと思う。
この家に、自ら帰ってくること。
私は、それをあたりまえに思いたくない。
毎日の繰り返しではあるのだけれど、家族の「いってらっしゃい」と「おかえり」がつながっていく事が嬉しい。
きっとこの先、そのかたちは変わっていくから、今をしっかり刻んでおきたい。

長男は今頃ホテルに着いたはず。
どうかシャツがくしゃくしゃになっていませんように。



お読みいただきありがとうございました。
※見出し画像は長男のお弁当に詰めたものの、余ったものです。
朝ごはんに自分がいただきました。これだけではまったく足りないので、納豆ごはんとお味噌汁と一緒に(;^ω^)