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【創作】結婚祝い

「テーブルランプがいいわよ。小ぶりなスタンド。きっと奥さんが喜ぶと思う。」

結婚祝いに何を贈ったらいいのか皆目検討がつかない僕は、まず妻に聞くことにしている。
センスの良い奥さまでいいですね、何度言われたことか。

「テーブルランプってさ、場所とらないか?置くところに困りはしないかね。」

「だから小さめのにするのよ。どんな部屋にも合う無難なもの。個性的なのじゃなくね。照明っていうよりは明かりとり。寝室に置けるようなのだといいなぁ。」

親と出かけるなんて面倒、休みの日くらい家で好きなことしたいという姉妹は留守番。
中学生と小学生、ようやくこんな日が来たなと思う。

土曜日の自由が丘、午前のこの時間帯は、まだ人出はまばらだ。
一人で入る事は決してないような、洒落た雑貨が並ぶ店。
蒼衣あおいの後ろについてまわり、こんな場所に居る自分に違和感を感じてしまう。

丸みを帯びたモダンなテーブルランプが5色、白、赤、緑、金、青と色違いで並んでいた。

小ぶりでクセのない傘と太く短い脚。
ベットサイドに置いても圧がなく、床や畳に直置きしても良さそうだ。

「きれいな青。洋室にも和室にも合いそう。」
うなずきながらも、僕は乳白色のそれがいいと思い、手に取る。

「白ね。うん、いいと思う。こんなの寝室に置いたら素敵よね。」

新婚の頃、夫婦の寝室にあった小さなテーブルランプ。
蒼衣の元職場の同僚達から、結婚祝いに贈られたもの。
布張りの傘に、にじんだようなタッチで描かれた紫陽花。
アイボリーの布地に浮かぶ、幾つもの青紫の花と葉。
布越しのやわらかな明かりは、どんな夜もいつも、僕らの寝室を静かに照らしていた。  
今は子供部屋に置いている。

「うちのは柄がついてるけど、無地もいいな。」
微笑む蒼衣を見て、購入を決めた。


「タカハシさんはどうして彼女と結婚しようと思ったのかしら?」

二度目の結婚になる後輩の最初の結婚式、僕らは二人で出席していた。

「さあね。今度はうまくいくと思ったんじゃないかな。」
「うまくいくかどうかなんて、やってみなきゃ分からないものね、ダメならやり直せばいいんだし。何度でも。」
「何度でも?」
「そう、何度でも。離婚しなくても、心のなかでやり直すことも出来る。選べばいいのよ、自分が。いつだってね。」

彼女はタカハシを選んだのだろうか。
僕は蒼衣に選ばれたのだろうか。
寝室に灯るやわらかな明かりの中で、蒼衣はどんな思いを抱いていたのだろう。

「珈琲でも飲んで帰ろうか。」

普段そんな事を言わない僕の申し出に、蒼衣は一瞬驚いた表情を浮かべ、直ぐにこくりとうなずいた。

「あの子達へのお土産はケーキがいいよね。美味しいケーキがある店で、お茶しよう。」

どこか心当たりがあるように見える妻は、僕の半歩先をぐんぐんと歩く。

僕には皆目検討がつかない店選びは、彼女のセンスにまかせよう。

(本文1164字)

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お読みいただき、ありがとうございました。
冬ピリカグランプリに参加させていただきます。
どうぞよろしくお願いします。ドキドキ。

※見出し画像は「みんなのフォトギャラリー」よりソエジマケイタさんの作品「(イラストAC)クリスマス211205(みんなのフォトギャラリー)」をお借りしました。ありがとうございました。

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