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Afternoon Tea
お店は昔、池袋のサンシャインシティの中にもあった。
スイミングスクール帰りの父と待ち合わせて、家族でよく訪れた。
小学生の私には、ふわふわのシナモンシフォンケーキと添えられた甘くないクリームの組み合わせは、今まで味わったことない格別の美味しさ。
小ぶりなデザートフォークではなくて、大きなフォークで召し上がれ、なところも好きだった。
オレンジ味のアイスティーは、大人になったような気持ち。
どんぶりに注がれたカフェオレ。
これが雑誌『Olive』に載っているカフェオレボウルなのかと知った。
気がつくと、そのお店はサンシャインシティから姿を消していた。
が、そのあとすぐにいろいろな場所で見かけるようになる。
初めての街でも、グリーンのロゴマークに出あうと安心。
海外旅行中、街中でマクドナルド発見時の心強さと同類だ。
私はひとりで行くことが多い。
友達とふたりでも、悪くはない。
でもひとりでふらっと行って、ポットに入った美味しい紅茶をゆっくりいただく時間が好きだ。
ポットには、カップ三杯分くらい入っているのが嬉しい。
きびきびと動く、おしゃれな店員さんたちを眺める。
かつて、長男を出産した後にひとりで訪れた時、目の前に運ばれてきたティーセットやパスタを見たとたん、涙がとめどなくあふれてきた。
泣きながら息が苦しくなり、身体のあちこち痛くなってきて、急激に具合が悪くなってしまったことがあった。
「大丈夫ですか? お白湯、お持ちしましょうか?」
心配してくれた店員さんに、本当に本当に申し訳ありませんが今日は帰ります、まだ自力で帰れると思うので…とお会計をし、店を出てきてしまったことがある。
後から思えばそれは、産後鬱の症状だったように思う。
「赤ちゃんはみててあげるから、少し外に出て気分転換を」
家族の厚意には是が非でも応えなきゃと外に出てはみたものの、前後左右、一体どこに向かったらいいのか分からなくなった。
自分の身体が身体じゃない、容れ物のように感じた。
人々が行き交う駅構内で立ち尽くした時と、先述の店での出来事は似ていた。
お店に迷惑をかけてしまった後悔と、あそこに行ったらまた同じような事になるかも…という不安があったが、好きな気持ちが勝り、また行くようになった。
次男の妊婦健診の後に立ち寄った時、これが陣痛だろうなぁという痛みを感じながらパスタを食べ終え、食後の紅茶もしっかり楽しんだ。
(その日の夜中に次男は産まれた)
アフタヌーンティーに行くと、走馬灯とまではいかないけれど、思い出すことが多い。
ひとりでランチしているおばあさまを見かけると、自分もいつかそうなれたらいいなぁと思う。
先日は、子どもの学校PTA雑務の後に立ち寄った。
暑いなか、私はよくやったぞ、今日くらい外でランチしてもいいんだよと自分を労う。
アールグレイの紅茶は身体に染み渡って、オーガニックトマトのパスタは自分で作るより何倍も美味しい。
これからも頑張ったときのご褒美に。
私の好きな場所が、この先もずっとありますように。
お読みいただきありがとうございました。
見出し画像は、みんなのフォトギャラリーよりももろ Illustrator 絵本さんの作品をお借りしました。ありがとうございました。