【企画参加】通りの向こうから
ポングラッツ人形と呼ばれるものがある。
ドイツの人形作家エリザベス・ポングラッツ氏製作の木のお人形。
日本のみならず世界中にファンがいる。
ポングラッツ人形を扱う輸入玩具店があり、少しずつ置いてある。
身長は30㎝強。
素材は菩提樹の木で、関節には金属が入って動くようになっている。
我が家にいるポングラッツ人形。
父が母に贈ったもの。
いちばん最初にうちに来た女の子。
菩提樹の木で出来ているので、母が「ボダ」と名づけた。
ボダには友達が三人。
彼女彼らは、何枚かの服を持っている。
うちに来た時にまとっていた服。
それは布地だったり、毛糸で編まれたものだったり。
すべてが手づくりと聞き、デザインの愛らしさや繊細さに驚いた。
そしてうちに来てから、増えた服。
ニットのワンピース、セーター、カーディガン、帽子。
母が人形を見せたら、家の向かいに住んでいる方が編んでくれた人形の服。
気がつくと一枚、また一枚。
毛糸の服は増えていった。
「昔はよく、お父さんや子どものセーターやカーディガンを編んだのよね」
通りを挟み、我が家の向かい住む、手先が器用な方がいる。
掃除が大好きなその方のおうちは、いつだって整えられ、木の床はピカピカ光っている。
我が家と向かいの家との付き合いは、長くて深い。
住まいがずっと変わらない私は、年齢と同じだけの付き合いになる。
物心ついた頃から、向かいの家には、ご夫婦とふわふわな毛並みのスピッツが住んでいた。
私は実の孫のように可愛がってもらい、おふたりを「おじちゃん」「おばちゃん」と呼び、スピッツを撫でた。
私が小学生のとき、同居の祖父が吐血し倒れた。
その時、家には大人達が不在。
私が助けを求めたのは、おじちゃんとおばちゃんだった。
おじちゃんが亡くなった。
その数年後、父が亡くなった。
おばちゃんは、登校するうちの息子達に、
「いってらっしゃい」
と声をかけてくれる。
かつて小中学生だった私や弟にも、そう言ってくれていた。
挨拶を交わして、いただきものを分け合い、時をみておしゃべりをする。
母とおばちゃんと私は、とても仲が良い。
困ったときは、小さく助け合う。
近寄りすぎず離れすぎず。
家族でも親戚でもないが、年月を共に過ごしてきた大切な存在。
通りの向こうとこちら側から、互いの家を見守り合っている関係は、いまどき珍しいのかもしれない。
手芸が好き。
布も毛糸も好き。
編み物は楽しいわ。
長い時間を丁寧に生きている魔法の手。
母が大切に箱にしまう、おばちゃんからいただいた小さなセーターやカーディガンを見るたびに、可愛さだけではない気持ちが込み上げる。
手づくりのもつ魅力であろう。
美しい編み目をじっと見る。
つくり手が、どんな気持ちでこれを編んでくださったのかなと想像する。
一本の毛糸が編み込まれ、面を作り、かたちを作るように。
ほころび、ほどけていき、いつか一本に戻ることができるように。
心が震えるときは、毛糸のやわらかくてあたたかい感触が、そっと包んでくれる気がしている。
だから私は、編み物が好きなんだ。
通りの向こうよ、お元気でいてください。
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こちらの企画に参加しています。
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