そうだ時計を買おう
衝撃的なニュースを知ったのは、デパートの時計売り場だった。
修理を重ね使ってきた腕時計は限界をむかえ、一昨年から静かに止まっている。
一昨年去年と、外出時はスマホで事足りていた。
が、今年度が始まり、人と接する機会が急に増え、腕時計が必要と感じる場面が増えてきた。(誰かと行動を共にしている時や話し合いの最中、出来るだけスマホを触りたくないのだ)
今日こそは腕時計を買おう。
そう思って売り場を物色していた時だった。
売り場に一人きりの店員さんが接客中で、私以外にもう一人、彼の手が空くのを待っているお客がいた。
子どもが帰宅するにはまだまだとわかりながらも、時間が気になりスマホを触る。
その時、画面に出たTwitterの通知に慄いた。
にわかには信じ難く、老眼鏡をかけて、もう一度その速報を読む。
心臓の音が大きくなる。
この日本で白昼に銃?
接客はまだ続きそうだった。
待ち人数がもう一人増えてきたのをみて、日を改めて来ようとその場を後にした。
下りエレベーターに乗っていると、心臓の音がやけに大きくなってきた。
マスクの下でゆっくりと息をする。
向かったデパ地下は、ランチタイムのお買い得品が並び、店員さん達の活気で満ちていた。
美味しそうなお惣菜をいくら見ても、いま自分が何が食べたいのかわからない。
笑顔で呼び込みを続ける店員さんに、思わず話しかけてしまいそうだった。
「ねぇ、ご存知ですか?安倍元首相が撃たれたそうです」
◇◇◇
「繊細なのね」
言われるのに慣れた。
言われても何も言葉を返さないで微笑む。
「そうです、私が繊細なおばさんです」とギャグで返してみようか。
滑ったうえによけい心配させてしまうだろうか。
暗い渦や不安を感じても、突然に奪われた命に涙が出ても、それは全くわるくないのだ。
そのままを臆せず受けとめていこうと思う。
支えてくれるものがある。
幸いなことに、こんなにたくさん。
いま、私がいるところに。
それは、
美味しさと作り手の真心が詰まった果物だったり、
乳腺外科の定期検診で「異常なしでした」と伝えてくれるお医者さんの笑顔だったり、
子ども達が塾帰りに「お母さんのぶん」と買ってきてくれる飲み物やアイスだったりする。
弱虫な私だが、家族や大切な人たちの「ホーム」※の小さな欠片になれたらいいと思う。
(※「ホーム」は、文末に貼ったくまさん noteの中に出てくる「ホーム」を意図して使いました)
心臓はいつものように、穏やかにリズムを刻んでいる。
そうだ、今度こそ時計を買おう。
小ぶりな皮ベルトと決めている。
くまさんのnote、まだの方はぜひ読んでみてください。
お読みいただきありがとうございました。
見出し画像は、みんなのフォトギャラリーより、はやしももさんの作品をお借りしました。ありがとうございました。