映画『よこがお』感想
上映終了後、膝に力が入らなくなるという感覚を久々に味わう。恐ろしい作品でした。
いわゆる胸糞映画、鬱映画という括りがありまして、深田晃司作品も人によってはそこに含まれるのではないでしょうか。
端的にいえば「重い」。人の醜い部分を抉り出し、ズシンとくるような余韻を残す。
頭空っぽにして愉しめる作品も好きなのですが、たまにこういうのも観たくなる。ラーメン次郎食べに行く感覚と近いんじゃないですかねえ。知らんけど。
私が初めて深田作品にふれたのは2016年の『淵に立つ』から。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門他、数々の賞に輝いた傑作です。
贖罪をテーマとして扱っており、個人的には『聲の形』に通じるものがあると思ってます。テイストは全然違うんですけどね。
それから『海獣の子供』評でもふれた2018年『海を駆ける』。インドネシアを舞台にしたファンタジーで、一カ所すんごい胸糞ポイントがあって好きですね。
そして本作『よこがお』は、『淵に立つ』にも出演した筒井真理子が主演。
筒井演じる市子の復讐計画と、彼女がそうするにいたった過去が、交互に語られていきます。
いやもう、全編恐ろしいまでの緊張感と不穏な空気に満ちていて、体調のいいとき以外にはおススメできませんね。
でも、面白い。
シチュエーション毎に別人かと思えるほど様々な姿を見せる筒井真理子の演技がまず圧巻だし、本作で描かれている恐怖や絶望って、私たちの日常のすぐ隣にあるものなのがまた嫌なんですよね。ジャンルは違いますけど『ヘレディタリー』の怖さに近い。
人間の持つちょっとした弱さや不器用さ。ほんの些細なきっかけで地獄に転がり落ちていく様。人ひとりの人生が、いとも簡単に台無しになってしまうあっけなさ。
それが実に恐ろしい。
なんでも本作は『存在の耐えられない軽さ』で有名なミラン・クンデラの『冗談』が下敷きになっているらしいですね。
あれもまさに「冗談」のようなきっかけでとんでもない目に遭ったり、逆に窮地を脱したりする作品。思わず「原因と結果が釣り合ってねーよ!」と叫びたくなります。でも人生ってそういうものだから……
この手の話で思い出したのが『∀ガンダム』第11話「ノックス崩壊」ですかね。
これも、ある男のささやかな願いから発した行動が、巡りめぐってとんでもない結果を引き起こす。しかも、最初の行動で手にした報酬がまったくのムダになるというオチも利いている。全編でも屈指の名エピソードです。
『よこがお』の話にもどすと、まあ語りたいシーンはいろいろあるんですが、時系列でいえば現在にあたる復讐編の序盤。
市子の精神が平衡を失っていることを示す場面ですかねえ。観た人なら一発でわかるでしょうが、あえてぼかして「物真似」としておきましょうか。
そこに続く夢のシーンもまた凄くて。エンド・クレジットで「四足歩行指導」とあったのには笑いましたが。
鑑賞後の「重さ」ではこれまで観た深田作品のなかで一番でしたし、現時点での最高傑作といって差し支えないのではないでしょうか。
まあ、人死にの数だけなら『海を駆ける』がぶっちぎりなんですけどね。気づかなかった人も多そうですけど、主要人物の一人もさらっと殺されてますからアレ。
あと、誤解を与える言い方というかむしろ誤解させたいんですけど、素晴らしい百合映画でもあります。タイトルの『よこがお』とは、「強い執着をもって見つめるある人物の視線」という意味もありますからね。
市子を見つめる「誰か」が取った非道な行為も、「百合故に!」と思えばきっと心が温かくなることでしょう。
本作を人に勧めるときは、是非「いい百合あるよ!」と極上の笑みを浮かべてあげるといいと思います。
★★★★★
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