悪魔はスタミナ制で活動する? 映画『アナベル 死霊博物館』評および『死霊館』シリーズ解説
どーも! 好きなホラー映画は『キャンディマン』と『ウーマン・イン・ブラック』、葦原です。
というわけで、今回はホラー。アナベル人形の強烈なビジュアルで新時代ホラーとしての地位を確立した感のある『死霊館』シリーズの第七弾『死霊博物館』です。
このシリーズは実在する心霊研究家ウォーレン夫妻が関わった超常的な事件、およびそのスピンオフから成る作品群で、これまで八作品が製作され、現時点までに日本で公開されたものが七作品となります。
ちなみに藤田和日郎『双亡亭壊すべし』にもウォーレン夫妻をモデルとしたキャラが登場します。
お話としては、まずどこかで怪現象が起こり、そこにウォーレン夫妻が調査に訪れる→解決というのが基本パターン。
傾向としてはグロ描写はほとんどなく、怖がらせ方は主にビックリ系(大きな音や怪物が突然現れて脅かす)、一部の作品を除いて死者はあまり出ず、鑑賞後は割と爽やかな気分で劇場を後にできるシリーズです。
観客を嫌な気分にさせる気満々の『ヘレディタリー』とは対極ですね。これはこれで好きなんですが。
感覚としては遊園地のお化け屋敷に近い、気軽に楽しめる良質のエンタメ作品と言えます。
ホラー映画にこの表現はどうかと思うのですが、いまや「実家のような安心感」すらあるシリーズですね。
また、年月を重ねて作品数もそれなりの数になっていますが、基本的にどこから観てもまったく問題ありません。
個人的にお気に入りなのは『エンフィールド事件』ですね。エド・ウォーレンが子供たちにギターを弾いてあげるシーンがとても良いです。
さて、今回の『死霊博物館』は、これまでの事件でウォーレン夫妻が集め、災厄を防ぐために地下室に保管されている数々の呪いの品が解放され、てんやわんやの大騒動となる一晩の顛末を描いたもの――ああ、この表現からしてぜんぜん怖くないw
ホラー映画に登場するベビーシッターといえば、よけいなことしかしないでお馴染みですが、本作でもその期待をまったく裏切りません。
呪いの中心となるアナベル人形もしっかり不気味で存在感があり、もはや千両役者の風格すら。また、一瞬ですけど「本物」のアナベル人形も登場しているのもポイントですね(さすがに複製というか、同型の人形でしょうが)。
他にも友情あり仄かな恋愛ありとツボを押さえた作りで、もちろん怖いシーンはちゃんと怖いです。
ところでこのシリーズ、災厄の元凶となるのはだいたい悪魔か悪霊なのですが、シリーズを見続けていて気がついたことがあります。
この場合は特に悪魔なんですが、彼らは最初のうちは大した悪さはせず、時間経過にしたがってだんだんとその規模をエスカレートさせていくという特徴があるんですね。
単なるお話の都合と言われればそれまでですが、納得できる理由を探しているうちに思いついたのが、「悪魔は行動ポイントで動く」仮説です。ソシャゲなどをする人にはスタミナ制といったほうが通りがいいかもですね。
彼らは一日毎にこの行動ポイントを獲得し、それを消費することで霊障(物を動かしたりラップ音を鳴らしたりする)を引き起こします。
霊障は規模や殺傷力が増大するものほど消費ポイントが大きく、最初のうち、つまりは悪魔が地獄なり魔界なりから限界していない状態ではささやかな現象しか起こせません。
また、その段階で悪魔のしわざとバレてしまっては簡単に退治されてしまうため、変なことが起こっても「気のせいかも?」「運が悪かっただけだろう」で流してもらうほうが都合がいい。
なので、序盤は小さなものを動かしたり、コンロの火を勝手につけて大きくしたり、といった小技で攻め、人々を怖がらせて経験値をためます。
そうして悪魔としてのレベルを上げると、行動ポイントの最大値が増え、人間をブッ飛ばしたり憑依するというような大技が使えるようになり、最終的には人間界で活動できる肉体を獲得するに至るのです。
また、悪魔が人間を怖がらせるのには、もうひとつ大きな目的があります。
それは魂を手に入れること。
おそらく人間の魂には信仰心というガードがかかっており、ただ殺しただけでは手に入らない。
そこであの手この手を尽くして怖がらせ、SAN値を削ることで信仰心を失わせる。
「こんなに酷い目にあってるのになぜ神様は助けてくれないんだ!」って感じでしょうか。
だから、いつでも殺せそうなのになかなかとどめを刺さないんですね。
まあ、あくまで仮説ではあるのですが、このように考えながら観てみると、いろいろと腑に落ちるところがあると思います。
弊害としては、悪魔系のホラー映画が(若干)怖くなくなることでしょうか。
もちろん例外もあって、狂気の果てに自殺した女の霊であるロヨーナなんかは、いきなり殺しにくるので油断がなりません。
これを踏まえて改めて『死霊博物館』を観てみると、いきなりフルスロットルであることがわかります。
ただしこれは、本作が「一晩の出来事」であることと関係していると思われます。
「時間ないから巻きでいくよ!」「なに、レベルが足りない? そこは数でカバーだ!」
幸いにして呪いのアイテムを率いるのは経験豊富なアナベル人形です。
熟練の技の数々で、観る者にとって満足のいく恐怖を体験させてくれることでしょう。
★★★☆☆