帰阪して2日、行きつけのバーを訪れた話
大阪に帰ってきて2日経った。大学時代からお世話になっているK田さんと天満で飲んだ帰り、地元のバー「Bar Chet」に行った。何度も訪れているバーである。既に2軒ハシゴして、コンビニでも缶チューハイを買って飲んでいるのでかなり気持ち良くなっている。
8席のカウンター席が並ぶ薄暗い店内にはマスターお気に入りの音楽が流されており、じっくり酒と煙草を味わうことができる。
久々の訪問で、わたしも髪型を大幅に変えていたにもかかわらず入店と同時に気づいてくださって、席を案内された。覚えていてくれてうれしい。既に二人の「常連」さんが席についており、雑談に花を咲かせているようだ。
着席してラフロイグを注文する。ゴロワーズにはやはりこれだ。獣臭いゴロワーズと、草原や土、あるいは潮風を思わせるラフロイグ、これがあればわたしは原野を駆け抜けていくことができる。至福の瞬間である。
マスターのノブさんも黒煙草の愛飲者だ。わたしの好んで吸っているゴロワーズも黒煙草の一種なのだが、マスターはジタンを好んでいる。わたしがゴロワーズに引き続いてコイーバも日本での終売が決まったそうですよ、と伝えると驚いている様子だ。というのも、わたしが以前、ゴロワーズがなくなるのを嘆いていたときに、コイーバはゴロワーズに味が似ているよと教えてくれたのがノブさんだからだ。
「消えていく運命にあるもの同士」と言い、自分のジタンをわたしの前に置いてくれる。「好きなだけ吸っていいよ。」ゴロワーズはまだストックがあるけれども、ジタンはもう手元にはないので、本当に貴重な一本である。ありがとうノブさん。遠慮もしないでほんとうに「好きなだけ」ばかすか吸わせていただきました。
「常連」さんとの会話も弾む。二人に「よくこの店には来られるんですか?」と尋ねたところ、ノブさんが合いの手を入れる。「常連は頻度や回数ではなく、印象に残っているかどうかですよ。」数字的に考えていた己を恥じるとともに、その意見にとても納得した。
「常連」さんのひとりとの会話で音楽の話になった。好きなアーティストを聞かれたので、そこに立てかけられているキース・ジャレットは好きです、と答えた。その方はビル・エヴァンスが好きとのことで、マスターに流してもらうよう伝えている。
流れたのはWaltz for Debby(Take2)。わたしも大好きな曲だ。煙草が進む。ゴロワーズ、ジタン、ゴロワーズ・・・続けてTake1も流してくれる。煙草が止まらない。ジタン、アメスピ、ゴロワーズ、ジタン・・・。
この曲が終わったら勘定をしてもらおう。既にしっかりと飲んできたあとのラフロイグとカリラ(ロック)なので、すごく気持ちよくなっている。
好きな曲も聴けたことだし、とわたしが退店しようとしたタイミングで今度はキース・ジャレットの『The Köln Concert』(ザ・ケルン・コンサート)が流れ始めるではないか。わたしのキース・ジャレットが好きですという言葉を聞いていたのだろう。冒頭の数音で再び店に引き込まれるような思いがする。ああ、意地の悪いマスターだぜ。でも、そんなことしなくても何度でもわたしは来ますよ。
「今度はぼくがいるときに聴かせてくださいね」と言って店を後にした。休職中の身でありながらも、華々しい金曜日の晩を過ごすことができた。深い眠りに就けそうだ。
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