8/4の日記──覇王別姫・偕老同穴・悪酔強酒
覇王別姫
『さらば、わが愛/覇王別姫』を観る。11:15の上映時間の5分前に着いてチケットとスパークリングウォーターを買う。レモン汁を絞って劇場内へ。シネ・リーブル梅田は、比較的スクリーンが小さく座席の傾斜が小さいので、前の方の座席がいい。列でいうとDかE(4か5列目)くらい。火照った身体がほどよく冷えたところで上映が始まる。
映画を観たあとの余韻に浸る時間が好きだ。同行者がいない場合はたいてい喫茶店に直行。コーヒーアンドシガレッツで、ぼんやりとした想念をくゆらす。今日は中崎町にある喫茶店いちご。ランチ付きでも安くて、こちら方面に用事があるときはよくお世話になる。物腰の丁寧なおかみさんに「日替わりランチにアイスコーヒーを付けてください」と頼んで着火。
立ち上る紫煙。
素晴らしい映画だった。1993年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞している本作は、中国近現代史の激動に翻弄される京劇役者たちが主役。主役の程蝶衣の美しさはまるで時を止めてしまうかのようで、おそらくわたしの呼吸も本当に止まってしまっていたと思う。その美しさが果敢なくも政情に流されていく様はどこまでも痛々しい。
カツカレーが届く。それに小さなサラダとかきたまスープ、パイナップルにアイスコーヒーが付いて850円。コクの感じられるカツカレーが空腹を癒やす。
偕老同穴
シガリロを吸い終えて店をあとにする。修理に出していたシルバーリングを受け取りに行くのだ。中崎町の路地裏には、舎利殿という路傍に小さく咲く花のような雑貨屋がある。移転前から数えて、かれこれ5,6年通っている。修理に出しているシルバーリングはカイロウドウケツという深海生物を模している。「深淵-abyss-」という作家さんのリングだ。装飾の赤珊瑚が取れてしまったので新たに付け直してもらった。左手の中指に嵌めたリングは磨き直してくれたこともあり、一層輝いている。この存在感がいい。
悪酔強酒
夜には会社のひとたちとの飲み会がある。休職している身でありながらも誘ってくれるのはうれしいが、社内制度に変更があったり、新たな動きがあったりという話を聞いてもいまひとつ乗っていくことができない。それらをよく知っていないからだし、そもそも関心を抱けていないからだ。彼女ら彼らとのつながりはせいぜい会社の同僚という範疇を超えないのだという、実は当然の事実を思う。そして、同僚たちに感じる距離感はわたしが抱く会社への戻りづらさとパラレルだ。
席を立って店の前で煙草を吸う。
休職して半分「会社員」ではなくなったわたしは、「会社員」の飲み会に退屈している。他のひとたちがするのは仕事や会社の話ばかりである。そんな話をしても心が触れ合うことはないが、それ以外にできる話もないので仕事や会社の話をすることになる。知っている社員たちの話をして時間が過ぎる。
またも煙草を吸いに出る。
楽しい飲み会がなぜ楽しいか。「外」の風が吹くからだ。なぜ退屈な飲み会は退屈なのか。「外」の風が吹かないからだ。「外」とは何か。もちろんテラス席やビアガーデンのことを言っているのではない。誰もが予想しなかった場が出来する可能性のことである。誰かが不意にいつもなら言わないようなことを言ったり、踊り出したりする。あるいは誰から始まるでもなく、不思議なノリが結実して思いもしなかった時空が現出する。そういった可能性をはらんでいるからこそ、飲み会はおもしろい。
アルコールをただの口の円滑剤にするだけではなく、おれたち自身が「外」まで滑り出てしまうようなものとして飲みたい。少なくとも、わざわざ大勢で集まって居酒屋に行くのならばそれくらいの愉しみがほしい。でなければ会議室でソフトドリンクでも飲んでいたら十分ではないか。
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「外」の風に焦がれたおれは痛い目を見る。
気づけば定期入れがなくなっている。定期券と保険証が入っていた。
どこかへ吹き攫われてしまったのだろうか。