ありがとうJリーグ(一先ず)。個人的スタグル選(暫定版)
長い前置き(スタジアムグルメ黎明期のこと、そして全国への旅)
"スタジアムグルメ"っていつからあったのだろう。私が熱心にスタジアムに通い始めた、ゼロ年代前半は、スタジアムの売店と言えば、焼きそばとかその程度のもので、私は(当時まだ小~中学生だったのもあるが)母の作ったおむすびを持ってスタジアムに行っていたし、どちらかというと、お菓子(じゃがりことか)を楽しみにしていたような気もする。
スタジアムグルメという言葉がまだ市民権を得なかった頃にその走りとなったのは、水戸ホーリーホックのホームゲームにおける「笠松グルメ」だったのではないかと思う。水戸の当時のホームスタジアム、笠松運動公園陸上競技場に由来してこう呼ばれたわけだが、スタジアムのラーメンといえばカップラーメンだった(旧国立競技場しかり)時代に、生麺から茹でたラーメンが提供されていたのは衝撃的だった。冷やし担々麺がおいしかった。
笠松グルメが話題となり始めた同時期に柏で始まったのが「フードコート」。その名の通り、日立柏総合グラウンドのテニスコートを会場に始まり、キッチンカーなどが集まった。フードコート以外にも飲食売店の充実が図られ、チーム懇親の場で選手・スタッフに振る舞われていた、当時の石崎信弘監督レシピのお好み焼きまでもが登場した。石さんは広島出身なので、当然、広島のお好み焼きである。
日立台での飲食売店を含む場内イベントは、2006年以降、「レイソルホームパーティー」と銘打たれ、ファン・サポーターとクラブの結束の機会、対戦相手サポーターとの交流の場として機能していたが、それに水を差したのが鹿島の愚行である。
2008年9月20日の日立台での鹿島戦、鹿島サポーター(サポーターなのか?)が観客席から旗竿で選手を攻撃。その他、スタンドの外でもサポーター同士のトラブルがあったという。この件を受け、警察の指導もあり、日立台のホーム、アウェイの動線は完全分離され、この状態をほぼ維持したまま現在に至っている。
日立柏サッカー場での試合運営変更について|Reysol News
こうした許しがたい暴挙の発生は置いておいても、水戸や柏を含むいくつかのクラブの先駆け的な取り組みから、充実したスタジアムグルメはどこに行っても当然のものになったように感じる。スタジアム常設売店だけでなく、場外に飲食店の集まるエリアをつくり、再入場可の運用も当たり前になりつつある。そこでは、今の日立台の光景とは異なるが、ホームとアウェイのファン・サポーターが、それぞれのユニフォームを来て行き交うのが普通だ(だからこそ、先駆的取り組みながら、今日まで完全分離を貫くことになっている日立台の現状には複雑な気持ちになる)。Jリーグは着実に進化している。
例えば、2006年、山形ベスパ(とあえて呼ぶ)初訪時は、炎のカリーパンとか玉こんとかの印象しかなかったが、2022年に久しぶりに訪問したところ、場外飲食店の充実ぶりにビックリした。
さて、私は2018年に、仕事の都合で出身地の千葉県柏市を離れ、岩手県盛岡市に転居したことをきっかけに、いわてグルージャ盛岡を応援するようになった。さらに、新型コロナ禍を経て、2022年ごろから、高校生の頃以来久々に、"アウェイ遠征"を本格化させる。というのも、コロナ禍でさまざまな活動が制限される中、Jリーグは制限を課しながら、それを徐々に緩めつつ、かつ継続してきたことで、私のそれまで勤しんできたエンタメやコミュニティ活動と完全に取って代わる存在となってしまったのである。元来の旅行好きが、アウェイ遠征と組み合わさるのは自然な成り行きであった。
結果的に、2022年以降、岩手の試合を中心に、柏の試合も含めて、国内37のスタジアムを訪れることとなった。
いわてグルージャ盛岡のJリーグの旅は、残念ながらJFLへの降格により一休みとなったが、こうして約15年ぶりに遠征を楽しんで、全国のスタジアムに行けたことには感謝している。ありがとうJリーグ。
ということで、前置きが長くなったが、しばしのお別れとなるJリーグのスタジアムで、個人的にうまい!と思ったスタジアムグルメをいくつか取り上げてみよう、というのが本稿の趣旨である。
個人的スタグル選(2024年暫定版)
地エビと季節野菜のかき揚げサンド(アシさと)
特に順位というものはないのだが、私の中で強烈な印象があるので、一番に取り上げたいのが、2025シーズンからJ2へ昇格するFC今治のホームスタジアム、アシックス里山スタジアムに出店するフィッシュバーガーのkaberi。私が食べたのが、一番人気らしい地エビと季節野菜のかき揚げサンドである。
アウェイ遠征して、地のものを食べたい!と思っても、横断幕の事前搬入から試合後の片付け、そして強行軍で月曜日の出勤に間に合わせたりと余裕がないこともまた事実。そんななかで地元の食材を使ったスタグルは個人的にうれしい。
kaberiのこのかき揚げサンドは、今治のエビや野菜をかき揚げにして、味付けはぱらっとお塩くらい。とにかく素材のおいしさを楽しめて、パンとかき揚げの食感の違いもおもしろい。おそらく訪れる季節によって、内容も変わるのだろう。何度行っても楽しめそう。
なかなか十分なレポートになっていないが、なんというか、他では明らかに食べられない代物である。スタジアムでこんなおしゃれでおいしくて、地元の素材を使ったものが食べられるのね…という感慨。
おでん(愛鷹)
おでんといっても静岡おでん。その名の通り静岡のおでんだが、具材が串に刺さっている、黒い出汁、青のりや削り節がかかっている、などの江戸的なおでんとは異なる姿をしている。さらに、特徴的なおでん種として、黒はんぺん(青魚で作ったはんぺん)がある。アスルクラロ沼津のホームスタジアム、愛鷹広域公園多目的競技場に出店する静岡おでんごっちゃんのおでんは、行ったら必ず食べる。暑くても食べたい。動物的な味わいの出汁と削り節が合わさるとこんなにおいしいものができるんですね。串に刺さっている静岡おでんの特徴がスタグルにベストマッチ。食べやすい。カップで提供されるのもよい。
富士宮焼きそば・厚木シロホルモン丼(ギオンス)
B級グルメ詰め合わせのようなミニ丼セット(富士宮焼きそば+ハーフ厚木シロホルモン丼のセット)を提供するのはSC相模原のホームスタジアム、相模原ギオンスタジアムに出店する吉田商店。
厚木シロホルモン、あるいはシロコロホルモンというのは、相模原市に隣接する厚木市のご当地グルメで、豚の大腸(通称シロ)を焼いたものである。富士宮焼きそばはいわずもがな、静岡県富士宮市のご当地グルメ。どちらもB-1グランプリでグランプリに輝いている。
あえて積極的な期待を持って買ったわけではないのだが(ここ神奈川だけど、静岡のものじゃん、くらいの感じ)、噛むほど旨いシロホルモンと汁を吸ったその下の米。焼きそばも、その特徴である肉かす(豚からラードを取った後の残渣)のうまみが効いている。不思議と満足度の高い一皿であった。
パステル(長野U)
ブラジルのファストフードパステル。小麦粉の生地で具材を包んであげたもので、揚げ餃子とか、春巻きとか、パイのようなものである。どうやらブラジルでは一般的な"スタグル"でもあるらしい。このブラジル版スタグルを、ブラジル屋台がAC長野パルセイロのホームスタジアム、長野Uスタジアムで提供している。
私が食べたのは、ひき肉の具だったが、まあ、おおよそ予想の付く味ではある。だが「こういうのでいいんだよこういうので」(cf.『孤独のグルメ』)である。とにかく食べやすいし、安心できる味だし(油と肉)、腹にもたまる。スタジアムの設備や客の量によっては、落ち着いて食べられる場所を確保できないこともあるが、片手で食べられる品は偉大である(J3のアウェイ席はガラガラなことが多いが)。
カレー枠
スタジアムで本格的なカレーをいただけることも増えた。ということで、印象的な2店舗をまとめて紹介。
福島ユナイテッドFCホームスタジアム、とうほう・みんなのスタジアムからはスパイスカレーの笑夢。
2種のカレー、そのあいがけが選べた。そこはよくばりにあいがけでしょう。うまい。OK。
あいがけと言えば。味の素スタジアム(東京ヴェルディホームゲーム)を中心に出店するmahana。岩手サポーター的には中野雅臣(現大宮アルディージャスクールコーチ)のお兄ちゃんがやっているお店である。
定番メニューは小麦粉不使用のmahanaカレーと白ごま担担ポークのあいがけ。あいがけと言っても、白ごま担担ポークは公式にはカレーではなく、トッピングのような位置づけ。だが、練りごまとラー油の絡んだ豚がカレーと合わさると、味変効果で少しエスニックな新たなカレーになるかのような趣。
ついつい食べちゃうおつまみケバブ
ケバブ(ドネルケバブ)と言えば、キッチンカーの定番ではあるが、定番すぎるゆえ、あえてスタジアムで食べることもない。だが、ついつい食べてしまうのがいわゆるおつまみケバブである。肉と千切りキャベツをピタパンにはさんで提供するのが普通だが、おつまみケバブは、肉と千切りキャベツのみである。主食的でなく、つまみ的に食べたいときに最適。ピタパンで挟むよりも、肉のうまさを直接的に感じられるし、キャベツがあると罪悪感半減。最高。
こうやってならべると、やはり、ケバブサンドのように単品で完結せず、追加的なメニューとして機能するのが、おつまみケバブのよいところなのかもしれない。
楽しい枠
店舗、一品でなく、総体としてスタグルが楽しいと思えるのは、福島と沼津。スタグルというのは、店舗が少なすぎても困るし、あまり多すぎても、選べない、回れないで萎えてしまうところがある。福島と沼津は、買い回りにはちょうどいいくらいの出店数でありながら、地元のものが充実しているのが、遠征ジャンキー心をくすぐる。どちらも陸上競技場で、フットボールスタジアムが増えている中では、スタジアム自体の魅力に欠けるが、不思議と毎年行きたくなってしまう。
余談だが、愛鷹の場外ステージでは、アウェイサポーターを巻き込んだ対戦系イベントが開催されることもあり、私は2023年のわさびすり選手権に参加した。わさび1本をすりおろしてご飯に乗せて食べるまでを競う。私、寿司はいつもさび抜きなんですけど…。ただ、平和でフェアな場外ステージで、好感を持っている。
場外編・遠征グルメ
スタジアムの外の経済もガンガン回して帰っていくのがわれわれ遠征ジャンキーである。ということで、スタジアムの外で食べてうまかったご当地グルメも紹介。
唐戸市場 活きいき馬関街(山口県下関市)
このときは、レノファ山口FCの下関開催(普段は山口市で試合をしている)が当てられて訪問。唐戸市場のでは週末に"寿司バトル"と称して、各店舗が寿司や総菜、汁物を提供。寿司は一貫から注文でき、各店舗から好きなように買って、食べることができる。それが馬関街。
基本的には「楽しい」。一貫から頼めるのが気楽でよいし、ネタにも各店舗のカラーが出ている。例えば、マグロに強いところ、ふぐに強いところ。これを好きなように組み合わせられるのは楽しくてうれしい。当然おいしい。
寿司はなんだかんだで三陸岩手のものがおいしい。寿司が有名なところに遠征して、一応寿司を食べてみるんだけども、岩手に帰って食べなおしちゃうレベルで岩手の方がおいしいと、私は思っているのだが、唐戸市場の馬関街は楽しさが加わって、思い出深い。レノファの山口市域のサポーターにとっても、おそらく下関は小遠征の趣で、われわれアウェイサポーターと同じようにこの馬関街を(もちろんユニフォームを着て!)楽しんでいたのが印象的であった。
米子のさばしゃぶ(鳥取県米子市)
これも、メインのスタジアムではない場所の開催。ガイナーレ鳥取創業の地である、米子開催に合わせて遠征。
米子市が近年、新名物として押し出しているさばしゃぶ。その名の通り、生のさばをしゃぶしゃぶしていただく。脂乗っててうま!さっぱりばくばくいける。
だが、無予約で3連休の中日に突撃したので、なかなかありつけなかった。予約しよう。
アジフライ(静岡県沼津市)
三度の登場となった沼津。沼津港で食べたアジフライがうまい。
沼津港には早朝から開いている店も多く、このときは前泊したので、沼津駅から30分ほど歩いて、朝ごはんとした。
私が行ったのはせきのというお店。店主がワンオペでやっていたが、その割には意外と回転は早い。こんなにふわふわなアジフライがあるんですね。ぺらぺらのアジフライとは全く違う食べ物である。ちなみに刺身定食も捨てがたかったので、アジフライを単品で追加した形である。頼んでよかった。
終わりに
振り返ると、遠征楽しいな、と思う。各地の風土に根付いた食べ物をいただきながら、われわれの住む街を見つめなおす。遠征とはもはや比較文化学の一形態なのである!
Jリーグ60クラブ時代。北海道から沖縄まで。そしてJFLでの戦いがオレたちを待っている。また新しいところに行く。前向きに戦いたい。一先ず、ありがとうJリーグ。しばしの別れだ。また会おう。