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傘を差すことが少なくなった
飛騨に戻ってからというもの、車での移動が多くなった。
雨が降っていようが、駐車場に車を停めて走って店内に入ればいい。
そして仕事柄、雨の中でも自身とカメラにカッパを被せて外にいることが多い。
傘がなくても、生活が回るのだ。
だから梅雨の東京に降りて、当たり前のように傘を持っていなかった自分にちょっとびっくりしてしまった。
お世話になった先輩から結婚式の二次会に呼んでもらい、前入りして仲間たちと好きな野球を観たり、かつての行きつけの店でボトルを空けたりした。
仲間たちは昔のように僕のくだらない話に大笑いしていたし、相変わらずスワローズは弱かった。
何も、変わっていないように見えた。
結婚式の二次会、お世話になった先輩は相変わらず髪が薄かったし、新郎なのに誰よりも大きな声でビールをたくさん飲んでいた。
変わったのは、隣に座るお腹の膨らんだ女性の姿。
「お前を驚かせようと思って」
近しい人には報告していたようだが、僕には当日会うまで黙っていたらしい。
基本的に毎日二日酔いで、バスケと合コンばかりしていた先輩が、父になる。
先輩の見た目は変わらなくても、彼を取り巻く環境が劇的に動いていて、それが内面にも影響してたりするのだろうか。
似合っていないスーツに身を包んだ先輩が、ふと僕の知らない人のように思えた。
かつて僕が付き合っていた女性も式に来ていたはずだが、目を合わせることもなく、それらしい後ろ姿しか確認することができなかった。
式が終わった後の三次会で話せるだろうと思っていたが、僕がタバコを吸ってる間にヌルッと帰ってしまった。
見たことがないブルーのワンピースを着ていた、かつて心を通わせたはずの女性。
なんとなくだけど、もう二度と会わないような気がしている。
ベロベロに酔っ払った帰り道、新宿のホテルへなんとなく帰りたくなくて、金麦片手に遠回りをした。
かつての仲間たちと、今の僕に流れている時間が、本当に同じ速度なのか疑ってしまった。
あえて言うなら、住環境と仕事が変わった僕のほうが、ちょっとリニューアルしているはずなのに。
仲良くしてくれていた後輩たちも、もうすぐパパになるって話を聞いた。
なんだか、本当によく分からない。
劣等感とか孤独感とかそういう話じゃなくて、僕だけが、別の世界線に分岐してしまったような感覚なのだ。
これから僕は、どうしようか。
ホテルまで近づいた交差点で、カップルが1本の傘を差している。
左手で傘を握る彼氏の右肩は、びしょびしょになっている。