続 Lemonade(その3) 〜従来型保険会社は顧客との利益相反がある? 〜
またまたレモネードの話だ。どうしてもレモネードの主張が腹に落ちなくて以下にまとめてみた。その主張とは、
「レモネードは、従来型の保険会社と異なり、顧客との利益相反がなく、保険金請求を拒絶することで利益をあげたりしない」
◯再保険への依存
レモネードの特徴の1つである「チャリティ団体への寄付」という仕組上、1年間の保険料の余剰資金を蓄積していくことができない。ということは、長い時間軸で資本を安定させていくことが難しく、保険金の支払いが一定額を超えた場合の「再保険への依存」という問題がついてまわる。再保険会社も当然営利を追求している「いち企業」であるため、再保険の引受による利益を求める。つまり、レモネード自体は、「余剰資金をチャリティ団体へ寄付します」「既存の大手保険会社のように余剰資金を内部に留保しません。」とうたっているものの、保険引受による余剰資金の一部は、再保険会社に流れ、そこで大手保険会社と同じことがまた行われていると考えることができる。もちろん、再保険会社も保険金請求を拒絶することはないと思うが、当然支払い案件が少ないほど自社の利益となるため、レモネードを介して間接的に顧客との利益相反関係が成立するのではないだろうか。ここに、このスキームの矛盾を感じてしまう。
◯そもそも利益相反関係なのか?
レモネードは、上記の通り「従来型の保険会社と異なり、顧客との利益相反がなく、保険金請求を拒絶することで利益をあげたりしない」と主張している。ここで考えたいのは、
そもそも従来型の保険会社と顧客は利益相反があるのか?
ということ。このレモネードの主張はある意味正しそうだが、顧客がこの主張を勘違いすると、保険ビジネスにおいて大きな問題が起こる。保険会社は、保険契約者および自社を保護するリスクマネジメントがその大きな仕事の一つなのである。契約者から預かった保険料を、本当に保険金の支払いを必要とする人に「公平」に届ける必要がある。この「公平」という観点が重要だ。つまり、保険金支払においては、保険金詐欺を排除する強固なプロセスを持つ必要があるということだ。(保険金詐欺を働くのは、保険契約者だけではない。自動車保険では修理事業者が、住宅保険では建築・修理事業者が、医療保険では病院や医師が関与する可能性だってある。)
「公平」を保ち、相互扶助の健全な集団を守り、拡大させていく。そして、正当な支払い案件があれば、迅速に保険金の支払いを行なっていくこと。この機能を契約者が1人でも存在する限り継続していくことが保険会社の責務と考える。この機能がなくなれば、いかに余剰金がチャリティ団体に支払われるといっても、そのグループはシュリンクしていく。それは、もはや保険ではなく、単なるチャリティだからだ。
従来型の保険会社も、自社の利益を増やすためだけに保険金支払を拒絶することはまずないだろう。「あの保険会社は、不当に支払いを拒否する」という風評被害が出れば、健全な集団を作っていくという目的が達成されず、回り回って自分の首を締めることになる。そんな風評被害がもたらすネガティブな影響の方が、保険金を支払いを拒否したことで生まれるキャッシュより、よっぽど大きいだろう。
つまり、保険金支払い時に約款というルールブックに則り、正しく審査することは顧客利益につながり、既存保険会社と顧客は利益相反関係にはないということだ。