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ネーミングセンスとは
物事はすべて積み木のように土台の構築こそが全てであり、その根底から連想される立て板に水を流すかのような組み方があって、結論とはその頂きに厳然として存在するために、ある程度の根気と基本的な手順さえ踏めば誰でもその光景を視野におさめることが出来る――というのが私の考え方です。然し乍ら、その本来は単純作業である積み木に別の要素が入ることによって、誰でも気軽に挑戦できるハイキングコースがたちまち前人未到の霊峰に姿を変えるというわけで、なんともものづくりとは難しいという話をしようと思っています。
たいていの場合、その積み木という作業には制限時間があります。
まだ2つの足で立てぬ幼児であっても、例えば昼寝の時間までであったりとか、夕飯の時間までであったりなど、わかりやすく言い換えれば締め切りというものですが――まだみぬ社会規則のようなものを育て親に押し付けられています。
もう一つは、要素というよりは普遍的なものですが「公式」というものがあります。私は昔、生徒時代における数学課程が、たいへん苦手でした。
実のところ、この数学こそ「積み木」作業の最たるものであると私は考えていて、その苦手の克服のために多大な心労を重ねました。
今思えば、私は妙に聡かった。なぜなら、中等教育の初段階にてすでに
「俺は数学は出来ない」と決め打ちし、そのための準備をしていたからです。今でも家の中を探せばどこかから出てくる気がしますが、私は公式ノートというものを作っていました。開けば、教育課程順に習った公式が加法定理やら区分求積法――それは高等だったような記憶ですが、というものが公式の名前と解法とともに記されていて、また察しの悪い読者のため(この場合、私自身のことです)を思って、いくつかの使用例まで書いていました。
急な余談ですが、私の勉強法といえば、そういった自分流の教材と問題集を製本することでした。実践は、その後です。こと勉学に関して、音読し、書き記し、学んだ内容を誰かに話し、内容を修得できているかどうか試せるものを作り、ようやく試す――までやればどれだけ苦手なものでもある程度は会得することができました。まあ、何事も使わなければ劣化するので、今となっては残ったものはその勉強法のみではあるのが寂しいことですが。
積み木の話に戻ると、積み方には必ず法があります。
その法を構成している要素は、先の理法に即した公式を除けば、積み木を積んでくれと依頼してきた他者(或いは自分)の希望的な式も含まれます。
というわけで、積み木とは「時間」と「公式」と「希望」に依って組み上げられる代物であるということだけを言いたいがために、このような取るに足らないことを書いてきましたが、さて今回の場合、積み木としての題材は「ネーミング」ということになっていて、これはつまるところ分野としては「文章」になると思いますが、当分野は橋を架けること、飛行機を大空へ羽ばたかせること、酒を造ることというような物理学という過去の叡智によって支えられている水も漏らさぬ堅牢な分野とは違って、それこそ空を掴むような漠然とした分野である、と私は感じています。
故に「センス」――感性のことですが、それが要ります。
この分野に於いて感性は、ときに公式を上回る重要性を示します。
いくつか例をあげますが「格好よく、或いは可愛らしく」や「誰にでもわかりやすく」や「少し捻った感覚」や「問われたときに、相手になるほどと思わせる意味合い」など、どの要求ひとつとってもその答えに正答はありません。これはなぜなら、提示されている法は、方向のみであって目的地ではないからです。
飛行機が空を飛ぶ――というようなギミックを構築することは目的地が明確だし、故に開明的で天啓的な閃きにも似たセンスはそれほど必要ではないだろうと私は思うし、それよりは先人たちの仕様書をより深く理解し、忠実に創り上げることのほうが重要度は高いだろうと思います。
だからというわけではないですが、プレインメイキング・センスなどとは言われません。まあ、これはへんな着地点ではありますが、答案がはっきりしている分野に感性は必要ないし、また場合によっては邪魔にもなりうるということを書いています。
なにが書きたかったのかよくわからなくなってきましたが、要は自由とは制御しにくい難物ということなのです。ある程度、制限や縛りがあったほうが人はものを作りやすいのです。
ゆとり――自由。自由と制限は、釣り合いをとらねばならないのです。
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