ノンフィクション連続小説第③話 『妖怪の棲む家』
その家の中はまるで迷路だった。変人がおもしろおかしく作った家とでも言おうか。途中で増改築した痕跡がそこらここらにあり、家の中は水平ではない。平衡感覚と、まともな精神が傷つきそうな家。
その日も母と二人で旧家に行き、私はぶらぶらと一人で家の中を探検することにした。じっとしているといやな気配を感じて怖いから何かしている方が気が紛れる。
一人で二階へ行き、階段を上がってすぐの扉を初めて開けた。静かに電気をつけてみる。
屋根裏部屋だ。天井が低くてとても狭い。日の光がほとんど入らず湿っぽくて、オレンジ色の電球はすごく薄暗い。何やら小さな置物がたくさん並べられている。小人の部屋、という言葉が頭をよぎり、白雪姫のシーンを思い出すような部屋。
突然、犬の吠えている声が聞こえてきた。獰猛な鳴き声。すごく近い。
見わたすと部屋の奥に細いドアがあり、擦りガラス越しに白い動くシルエットが映っていた。
胸がばくばくする。私は恐る恐る近づきドアを細く開け、そっと外を覗いた。
一畳ほどしかないベランダに、鎖に繋がれた中型の白い犬。ウォンウォンと大きな声で激しく吠えていた。
「ここから出してくれ!鎖を外してくれ!」私にはそう聞こえた。
怖くなってすぐに閉めた。
監禁‥そんな言葉が頭の中をよぎった。
祖父母は動物が嫌いなはずだ。なぜ白い犬を飼っているのか。心の中にまたどんよりとした疑問が一つ増えた。私は胸の奥の方にその思いをしまいこんだ。
その部屋は、足の悪い親戚が大人になるまで住んでいた部屋だった。義足が転がっていた。
「深く悲しい。」
そんな想念を感じた。長居はできなかった。
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第3話はここまで。次回も家の探検は続きます。ご期待ください。