ノンフィクション連続小説第⑤話 『妖怪の棲む家』
その日も、旧家にやって来た。母と買ってきたわらび餅を1階のピアノのある部屋できょろきょろと落ち着かないままに一人で食べた。
頭上を見上げてみる。ハエを取るテープ紙が何本も吊るしてありハエがいっぱいくっついている。天井にはカラフルなミラーボールが吊るしてある。だから誰の趣味なんだ。全然楽しくない。カオスだ。
わらび餅を食べ終え台所に行き母にトレイを渡した。今日もまた探検の続きだ。
2階へあがり廊下を抜けて父の昔の部屋を通り過ぎると、廊下は下り坂がしばらく続く。よくもこんな造りにしたものだ。廊下のサイドには洗剤の箱や貰い物であろうタオルの箱などがたくさん積んであるが、この斜めになっている廊下のせいで、箱は明らかに不格好に歪んで居づらそうだった。
しばらく進むと廊下が左右に分岐した。左は登り坂。右は下り坂。
しばらく眺めて、決めた。まず、左に行ってみよう。
登り坂はだんだん急な勾配になり靴下で滑りそうだった。だんだん箱やがらくたが増えて埃が増えて、靴下は真っ黒になった。どこまでこの迷路は続くのだろう。
突き当たりにドアが見えた。擦りガラス越しに日の光が見える。
私はドアを開けた。
そこは屋上だった。スリッパもなく私は靴下のまま外へ出た。
何にもない殺風景な場所だった。ずっと誰も上がってきていなさそうだった。日の光があるにもかかわらず、薄暗い。どんよりしている。ここに靴を持ってきて遊んでみようとは到底思わなかった。
ガサガサ。何か音がした。え...嫌な汗が背中をつたった。
音のする方向へそっと近づいた。恐る恐る顔を出した。目が合った。
ウォンウォン!ウォンウォン!!
大きく吠えられてまた全身の毛が逆立った。ここにも犬がいた!今度は真っ黒な中型犬が鎖で繋がれていた..!
..どうなっているんだ。祖父母のどちらかが毎日ここまで上がってきてご飯やお水をあげているとは到底思えない。祖父はゾンビ歩きだ。こんなところまで歩いてこられない。祖母は動物が大嫌いだ。だから、ありえないのに。
この黒い犬は鎖に繋がれたまま、ご飯も与えてもらえず餓死したら、その死体はいつ見つけてもらえるのだろう。もし誰も上がってこなかったら白骨化して、その白骨をいつ、見つけてもらえるのだろう。
やはりこの家はおかしい。私の中にまた暗い影を一つ落とし、恐ろしい気持ちになった。
-----
第5話はここまで。次回も探検は続きます。ご期待ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?