AI時代に反復学習はいらない?小1からつくる「学びの土台」。 〜低学年向け学習塾・教材のススメ〜
みなさん、こんにちは。a.school代表/校長の岩田拓真(いわたく)です。今年度も残り1ヶ月をきりましたね。新年度の学習環境をそろそろ考えなきゃな、というご家庭も多いのではないでしょうか。特にお子さまの小学校進学を控えている保護者の中には、不安を抱えていらっしゃる方も少なくないかと思います。
「低学年の間はのびのびと遊んでほしいけれど、学習系の習い事に通わないのも・・・どうするのがいいだろう?」「受験塾に通うのはまだ早いけれど、基礎学力や学習習慣は身につけておきたい。低学年でどんなことを学んでおくのがいいのだろう?」
そんなお悩みを解決する参考になったらと思い今回は、『学びの土台作り』について考えてみたいと思います。
※最終的には、お子さまと個々の学習サービス・コンテンツとの相性がもっとも重要となるのはもちろんのこと、必ずしも学習系の習い事を推薦するものではありません。また本稿はあくまで個人的見解ですので、これをきっかけに、お子さまやご家庭にとってベストな学習環境を探究してみてください!
学習サービス・コンテンツの4分類とは
小学生低学年向けの「学びの土台作り」には大きく4つの選択肢があります(図表のA〜Dを参照)。以下、1つずつ詳しく述べていきます。
読み書き計算なら、王道の「A.プリント教材型」
低学年向けとして一番有名なのはなんといっても、「公文式」「学研教室」などプリント教材を中心にした自学自習式の教室です。特有のフランチャイズ・モデルを基盤に全国津々浦々で展開することに成功し、大手2社はいずれも国内15,000以上の教室を構えています。(海外進出を果たしているところも!)
教材の最大の特徴は、個々のレベルにあわせた「反復学習」。算数・国語・英語など科目の学習範囲が体系的に細かく整理されていて、学年に関係なく自分のレベルにあわせて、好きなところ・必要なところから学ぶことができます。自分のレベルにあった問題を何度も解くことで学習効果が定着する設計になっており、基本的な計算力や読み書きの力を磨くには最適。通常教室には週に2回程度通うため、自然と学習習慣が身につきやすいのもポイントでしょう。
今や低学年ならばプリント教材で基礎力を、と定番になりつつありますが、一方でデメリットも。まず、問題を与え続けられることに慣れてしまって、自ら主体的に学ぶ意欲(発問する力)が育ちにくいということ。そして基礎的なスキルの反復学習を続ける副作用として、自分の頭で考える力が育ちにくいということ。
これまでは、文部科学省の学習指導要領でも「知識・技能」の習得が中心に据えられていたので、この2つはそこまで大きなデメリットとは捉えられず、むしろ全国的な学力の底上げに寄与してきた側面のほうが強かったと思います。しかし時代は変わり、誰もが同じ「知識・技能」を持っていることの価値が大きく下がり、2020年の教育改革によって「思考力・表現力・判断力」「主体性・多様性・協働性」をあわせた3つの要素すべてが重要だという共通認識ができつつあります。「知識・技能」が不要になったわけではありませんが、相対的な重要度は下がり続けています。
プリント教材が得意とする基礎的な読み書き計算は、AI(人工知能)によって代替されやすい領域でもある、という点も見逃せません。学びの波及効果は長期にわたるので、未来から逆算して今の学びを選びとることが大事ですね。
家庭学習を習慣化できるなら、「B.通信教材型」
プリント教材型と同様、基礎的な読み書き計算の習得に適しているのが、通信教育の教材です。従来の紙タイプだけでなく、時代にあわせてタブレットタイプの教材も多数出てきています。
また、国・算・理・社・英・プログラミングと全科目を網羅するベネッセ「チャレンジ」(タブレット版「チャレンジタッチ」含む)や「スマイルゼミ」に加え、算数に特化した「RISU算数」や、思考力の養成に力を入れた小学館「まなびwith」など、教材の幅も広がっています。
プリント教材と比べると、
①マンガやアニメーション映像、ゲーム性、など「楽しさ要素」を多く取り入れていて、学習意欲を高めやすい
②読み書き計算など基礎学力を鍛える内容が中心ではあるが、思考力を育む問題が入っている教材もある
③教室に通う必要がなく、家庭で好きな時間に学習できる
④値段が安い(通塾型の半額程度のものが多い)
の4点がメリットとして挙げられます。
手頃でお得なサービスですが、ただ一つ大きなデメリットは、「メリット③:家庭で好きな時間に学習できる」の裏返しとして、子ども本人もしくは保護者が学習習慣をつくらなければばいけないこと。既に自学自習ができる子どもにはオススメですが、子どもは勉強嫌いで親は忙しいといったご家庭では、上手に使いこなすのは難しいかもしれません。
バランスの取れた「C.パズル・ゲーム・映像型」。学習意欲や思考力の育成にも繋がりやすい
近年、低学年向けに特化した学習教室や教材が増えてきています。ハイテンションで多彩なワークを連発する「花まる学習会」、遊びの中で数学的なセンスを育む「パズル道場」、映像を通じて言葉から状況をイメージする力を鍛える「玉井式」、読書を作戦形式で楽しむ「グリムスクール」など、種類は多様です。
映像やパズル、ゲームなど子どもの興味を惹きつける工夫が多く、読み書き計算だけでなく読解力や思考力を同時にしっかり磨くことができるのが最大のメリットです。個々の学習サービス・コンテンツによって差はありますが(例えば、記憶・反復力/読解・思考力の効果が、◎/△の教材もあれば、逆に△/◎のものもあります)、全体的に基礎と応用、楽しさと真面目さのバランスが整ったものが多い印象です。
大きなデメリットはない気がしますが、プリント教材型や通信・タブレット型と比べると、科目学習への直結度合いが弱めなのは否めません。また、個々の学習サービス・コンテンツごとに特性があるので(カバーしている領域も偏りがちなので)、お子さまとの相性や目的との整合性を見極める必要があります。
好奇心が強い子は「D.探究型」。科目を超えた教養につながる学びや、社会に繋がる実践力の育成を
情熱大陸で脚光を浴びた「探究学舎」や(僭越ながら、弊社)「a.school(エイスクール)」など、2020年の教育改革で注目を浴びている「探究学習」に特化した学習教室です。プレイヤーや教室の数はまだまだ少なく、教室は主に都市部に集中しているため、日常的に通うことができる機会は多くありません。しかし、夏休みや土日に行われる特別イベントには日本全国・世界から子どもたちが集まっていて、確実に伸びている分野でもあります。
これまでのA〜Cの教室・教材と違うのは、
①国・算・理・社・英の5教科の内容だけでなく、自然・社会・世界〜STEAM(*)について幅広い教養が学べること
②子どもたちの興味関心や学ぶ意欲に火をつける効果が高いこと
③紙の上での学習だけでなく、日常生活での探究や将来につながるプロジェクト活動など、子どもたちのリアル社会における行動を促す効果が高いこと
の3点。特に「①幅広い教養を学べる」と「③探究・行動する力がつく」についてはA〜Cではほとんど対応しておらず、時代にあわせて登場した新しい学びと言えるでしょう(**)。
*STEAM=Science, Technology, Engineering, Art, Mathematicsの略
**より正確には①も③も、子どもが身近な大人や地域、社会と触れ合うなかで自然と学んでいたのが、学びの細分化・サービス化が進んだり子どもの生活圏が限られたりしたことで、縮小してしまったと考えられます。(関連記事はこちら)
一方で、探究型のデメリットは、目の前の科目学習への接続が弱く、成績や受験に直結しないこと。好奇心をくすぐり、自分で探究するきっかけをつくるというところに重きを置いているため、授業・教材をとおして所定の知識を身につけるという要素は比重が弱くなります(学ぶことが楽しくなって、結果的に知識が増える・できることが増えるということは多々起きますが)。また、教科書の範囲を超えて様々なトピックを自由自在につなげて学ぶため、長期的に見ると科目の知識以上に将来役立つ学びを得られるものの、成績や受験とはどうしても距離が出てしまいます。
探究型の学びに価値を感じていても、やはり目の前の勉強とのつながりに対して不安になる方も多いでしょう。その場合は、読み書き計算は安価で効率がいい「B.通信教育」に任せて、探究型の学びと組み合わせるというアプローチもありかもしれません。
ちなみに、「①幅広い教養を学べる」「③探究・行動する力がつく」という探究型ならではの学びの価値を重視しない場合には、A〜Cと比べたメリットは「②興味関心や学ぶ意欲に火をつける」のみとなります。それだけでも比較優位性はありますが、個人的には「B.通信教材型」「C.パズル・ゲーム・映像型」のほうがバランスやコストパフォーマンスが良いかなと感じます。
あなたは何を重視する?個別の学習サービス・コンテンツを選択する前に、自分の考えを整理しよう
総括すると、時代とともに、「低学年にとっての学びの土台とは何か?」という問いへの答えが変化しているのだと思います。これまでは「A.プリント教材型」に代表されるように、読み書き計算に代表される基礎学力を身につけておくのがとにかく大事だとされていました。しかし、不確実で変化の激しい時代に入り、興味関心や学習意欲、思考力や行動力、教科を超えた教養、などの重要性が増してきています。「興味関心や思考力こそ学びの土台になるのではないか?」「学ぶ姿勢が育まれる低学年のうちにこそ、そういった力を磨いておくべきではないか?」・・・そんな課題感にこたえるように、学習サービス・コンテンツも進化を遂げているのです。
いかがでしたでしょうか?不足している情報や視点も多々あると思うので、今後もアップデートしていきます。ご意見があればぜひぶつけて下さい!
最後に、この記事を書いた目的をお伝えすると、「学びに対する価値観(と子どもの教育方針)」と「学習サービス・コンテンツの判断軸」を自分なりに考えて決め、行動できる方を増やしたい、ということです。
学校や塾の先生、さらには文部科学省や教育産業など、学びや教育についてとにかく情報にあふれている時代です。ポジショントークやマーケティングなど、その裏にはさまざまな意図が隠されていることも少なくありません(本稿含め・・・かも?笑)。そんな時に、自分が大切にしている学びはどんなもので、子どもに与えたい教育機会はこういうものだ、と(誰かの受け売りではなく)「自分の言葉で」語ることができないと、親とともに子どもも一緒に情報に振り回されてしまいます。探究する力・考える力の育成を大切にしている私たちとしては、子どもに要求する前にまずは大人が、その姿勢をみせてほしい。
この記事の内容が正しいとは限りません。一つのものの見方として参考にしていただき、ぜひ一人ひとり、ご家庭ごとの答えを発見してほしいです。皆さんとお子さんの良き学びあふれる未来を祈っています。
岩田拓真(いわたく):
株式会社a.school(エイスクール)代表取締役校長。1985年京都に生まれ、滋賀で育つ。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了(専門分野は、脳科学とイノベーション)。大学院在学中に、ひとり親家庭に対して動機づけ教育を行うNPO法人Motivation Makerを仲間とともに創業し、理事に就任。Boston Consulting Groupにて経営コンサルタントとして勤務した後、a.schoolを創業。探究学習の塾「a.school」を運営するとともに、様々な創造的な教育コンテンツの開発に携わる。自分自身も新しいことを学ぶのが大好き。一児の父。
▼ 本稿は連載「いわたくのアタマノナカ」#5として執筆しました。バックナンバーはこちら!
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