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リクガメの甲羅のピラミッド化とクレーター化の仕組みってこれかも?
参考論文https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1557506315001858?via%3Dihub#bib5
飼育下のアフリカヒョウガメ( Stigmochelys pardalis)とケヅメリクガメ(CENTROCHELYS sulcata)における補助的な加温が成長率と背甲板のピラミッド化に与える影響
2015 年 12 月 17 日
簡単にいうと、餌のタンパク質、カルシウムについては甲羅のピラミッド化に関係なく、夜間の加温が原因でしょ!とした論文。
この論文の中で、ピラミッド化(凸凹)している甲羅の内部の様子が説明されているんですが、凸の部分の組織は「真皮骨」だと述べてます。これはつまりコラーゲン、タンパク質なんですね。
カメの甲羅は2層で出来ていて、外側の角質甲板は外側の爪や髪に相当する組織、その下に骨甲板という骨からできている組織があります。
しかしもっと詳しく分解すると、角質甲板の下には真皮骨とよばれる成長領域があって、それが骨甲板にくっついている構造、らしいです。
そして論文内では、ピラミッド化しているカメの凸内でその真皮骨が肥大化し角質甲板を持ち上げていて、さらには脊柱から分離していたり、骨甲板が紙のように薄くなっている、と説明されています。
本来なら、角質甲板の下側で真皮骨が成長すると同時に骨甲板も広がり、角質甲板一枚一枚が外側に引っ張られ、強度の低くなった甲羅のつぎ目から染み出すように真皮部分が盛り上がって、だんだん硬くなり、外側の甲羅になるんだと思います。
しかし、例えば甲羅が火傷する(焼ける)ほどライトで加熱してしまうと、継ぎ目が癒着し硬くなって、成長した真皮骨が外に出られず行き場がなくなって中心部が盛り上がる。なぜ中心部かというと、そこが一番癒着から遠い=抑える力が弱いから。
真皮骨の成長が早すぎた場合も同様に行き場がなくて盛り上がってしまう。
そして骨甲版が薄すぎる=骨の成長が追い付いていない場合も、△の下側が狭い=真皮骨が育つための空間が狭い→逃げ場をもとめて上に盛り上がる、ということになるんですね!!たぶん!おそらく!!!!
カメの種類によっては凸ではなく凹、クレーター状になることにも説明がつきます。こちらは成長しすぎた真皮骨の組織が中心部にたまるのではなく継ぎ目から押し出された場合に甲羅の継ぎ目が盛り上がり、中心部がへこみ、クレーターになるのではないかと。
角甲板の中心部が硬いのか、甲羅の継ぎ目が弱いのかは実物を見たことがないので不明ですが。
こう考えたら、カメの甲羅のピラミッド化もクレーター化も原因は「真皮骨の過成長」で説明できるのです。やった!!!
そして、甲羅の脱皮をするタイプの水棲、海棲カメにピラミッド化が見られないことの理由もわかります。サイズアップの仕方が継ぎ足し方式ではなく、入れ替え方式だからですよね。下側の甲羅の成長を妨げるものがないので当然つるつるになります。水の中で生活するカメにとって、甲羅の凸凹は水中での機動力低下、水の抵抗による推進エネルギーの無駄につながるなど、重大な欠陥になるので対策されているってわけですね。すごい!!!
逆に言うとリクガメ的には凸凹するのはそんなに大きな問題じゃないってこと…?程度によるとは思いますが。むしろラクダのコブみたいにエネルギーの貯蓄機能の可能性はないのでしょうか。気になります。
そしてこの論文の本旨は、「幼体時の加温の仕方のちがいはピラミッド化に影響するのか」ってことだったんですが、結論は「影響する」でした。
一体どんな加温方法かというと、同条件の飼育状態の幼体グループを2組用意して、片方は19時から朝7時まで、12時間片方をヒートマットで加温する。
加温した方はピラミッド化しましたよ、ということです。ポイントは、夜間というか長時間加温によるカメの代謝速度の加速による成長の加速。
飼育環境での長時間の暑さはヒョウモンガメやスッポンガメの成長を加速させる。そのせいで甲羅の内部には真皮骨が堆積、甲羅の隆起を引き起こす、というのがこの論文の著者たちの推測です。
そして実際、ヒョウモンガメの生息域、アフリカの最高気温と最低気温は5~28℃であり、また季節によってもカメは代謝を調整し、最適な成長をとげるのだろうとのこと。しかし近年、温暖化によりその気候バランスは崩れつつあり、アフリカ南部と西部では寒い日が減り暑い日がふえているとのこと。野生条件化でも加温状態が長くなればピラミッド化が見られる可能性はある、とのことです。
ある研究では気候学的データを分析し、気温の上昇とペインテッドリクガメ(Chrysemys picta)のオスの成長の増加や成熟の早まりとの相関関係を明らかにした……らしいです。
またこの論文で、餌についてカルシウムとタンパク質が無関係だ、としている根拠は、他の論文でCa:Pの比を変えて与え吸収率をみる実験、またタンパク質の量の変化でのピラミッド化の実験があったが、両方で各グループにピラミッド化がみられなかったから、ということらしいです。(タンパク質の実験については『わずかなプラスの影響』としている)
<参考>
環境湿度と食事性タンパク質がアフリカケヅメリクガメ(Geochelone sulcata)の甲羅の錐体成長に与える影響
動物生理学ジャーナル、87 (2003 )、pp.66-74
CS ヴィースナー、C. アイベン, M. Wanner
A. リーゼガング、J.M.ハット、M.ワナー
ヘルマンリクガメ(Testudo hermanni)におけるCa、Mg、Pの消化率に及ぼす食餌カルシウム濃度の影響
J Anim Physiol Anim Nutr, 91 (2007), 459-464p
C.F.スタンセル、E.S.ディレンフェルド、P.A.ションクネヒト
カルシウムとリンの補給は若いアカミミレグモ(Trachemys scripta elegans)の成長を低下させるが、錐体化は誘導しない。
動物園生物, 17 (1998), pp. 17-24
湿度については、今回は差をつけなかったのでまだはっきりしないかな、って感じみたいです。
著者らは、不自然な成長速度が甲羅が広がるよりも早く甲羅間の物質堆積を引き起こし、甲羅の棘突起が円錐状に隆起(凸状の隆起)するのではないかと推測している。甲羅全体の相加的な影響により、脊椎楯の錐状隆起がより顕著になると仮定できる。
よって、適切な成長速度と甲羅の形成にはヒートサイクルが重要で、飼育環境においてその種にあった温度差を提供できるようになれば代謝は正常化し、CSPは減少し、最終的には除去されるかもしれない。みたいな結論でした。
個人的に、気温の上昇が何を示すかというと、代謝のほかに影響が大きそうなのは「脱水」なんじゃないかと思うんですよね。私は最近、リクガメであっても、カメという生き物は水分と湿度がとっても重要なんじゃないか、と思っていて。ヘルマンリクガメについて調べていても、海外のサイトで「ニシはヒガシより脱水になりやすいからお水いっぱいあげてね、霧吹きもしてね」とか書いてあったりします。
日本では一緒くたにされているヒガシとニシですが、そんなに細かくみるのか!?ていうか日本でそんなに常時水分重視してる話聞かないな、温浴は人気だけど!!って感じでした。
温浴ってあったかいお湯につけるけど、人間でもそうだけどお風呂からあがった後が一番肌乾燥しますよね…だから温浴と別に20℃くらいの水浴びもあっていい気がします。
それで、乾燥系とかいわれるカメでもこんなに水分が大事なら、もうカメは一部を除いて乾きによわい生き物だと思った方がいいかなって思うんですね。激烈乾燥地帯にすむカメについても調べてみたいです。「リクガメのどの部分が乾燥に対して進化した要素で、どの部分が絶対に水を必要とするのか」が顕著にわかりそう。だれか詳しい人いたら教えてください。
あと今回気が付いたぶぶんはカメの解剖学と生理学の本があればすぐわかりそうなんですが、ないんですかね…?
あったらこんな実験してないか。
でもこの論文2015年のものだし、研究の続きはどっかにないのかなあ……