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【小説お試し投稿】夜長のヒットマン

あらすじ

表の顔は、しがない経理のサラリーマン。だが、裏の顔は──どんなターゲットも逃がさない凄腕の殺し屋ヒットマン
夜の闇に紛れながら、彼は今日も獲物を追う。


第1話(1話完結)

1

「やめてくれ! 命だけは……命だけは助けてくれ!」
「そういうわけにもいかないなぁ。こっちは仕事として依頼されてるからね」
 路地裏の奥までターゲットを追いかけ、行き止まりの壁際にジリジリと迫る。月明かりに照らされた二人の影は、冷徹なコンクリートの地面にくっきりと映し出されている。
「お前を殺す依頼金は五百万円だ。あんたにそれ以上の額が払えるか」
「五百万……それは、えっと……」
「なら諦めろ」
「ま、待ってくれ! 今すぐ全額は無理だが、少しずつ払う! だから──」
 
 パァン

 満月が美しい夜に響き渡る銃声。目の前で力無く倒れるターゲットの姿を見て、今回の依頼の完了を確認した。
 夏は夜になっても蒸し暑さが残ってわずらわしい。頬にしたたる汗を拭いながら、今日はいつもより手こずってしまったことを反省。耳元にセットしてあるイヤホン型のインカムに状況を報告した。
「美玲さん。無事ターゲット始末しました」
「ご苦労だったわ影山。あなたにしては珍しく時間かかったじゃない」
「すいません、思いのほか逃げ足が速かったもので……まぁ、この辺りの地形は把握してるんで、行き止まりまで追い込みました」
「さすがはウチのエース──無敵のヒットマンとして名を馳せるだけあるわね」
「買い被りすぎですよ……。じゃあ、あとはよろしくです」
「オッケー。処理班をそっちに向かわせるわ」
 その言葉を最後に、インカムからの声が途絶える。服の乱れを直し、ターゲットを追いかけてきた道を戻りながら、路地裏の闇に体をスッと溶かした。
 腰のベルトにある定位置に役目を終えた拳銃をしまう。足を進める度、砂利や水溜まりを踏み付ける感覚が足の裏から伝わってきた。

 そろそろ街灯が見えてきた──そう思ったところで、ズボンのポケットにしまっておいたスマホが振動する。メッセージの差出人は[葛城かつらぎ部長]と書かれていた。
 そこに表示された「明日八時半、部内会議を行うので出席するように」という文字に、大きな溜め息が出る。今夜は遅くまで寝て、明日はフレックスで遅めに出社しようと思っていたのに……どうやら、始業時間には出社しないといけないらしい。
 疲れた指で「承知しました」と返信を打ち、再び溜め息。日の当たる表舞台は、実は裏社会よりも理不尽が多かったりする。そんな事実に落胆しながら──人工的な光で輝く街へ自分の体を連れ戻した。

2

「──以上で、経理部の部内会議を終わります」
 翌朝。止まらないあくびを手で何度も隠しながら、無事に会議を乗り切った。とは言っても、同じ経理部の落合さんが産休に入ってしまったので、平社員は俺一人。部内会議と銘打っているが、実際は俺と葛城部長の二人だけだ。
 部長が去った後の会議室で、手帳を広げて今後のスケジュールを確認する。落合さんの仕事も全て自分に回ってくるので忙しくなりそうだが……裏稼業の依頼は、昨日の分で全て済ませた。次の依頼が来るまでは、経理の仕事に集中できそうだ。

 昼の世界では、平凡なサラリーマン。しかし、夜の世界では暗殺を生業(なりわい)とするヒットマン。それが俺、影山かげやま ひそかの本当の姿だ。
 雇い主である美玲さんから指示を受け、夜の闇に紛れてターゲットを始末する。今まで何件もの依頼を成功させてきたおかげか、この界隈ではそこそこ名の通るヒットマンにまで上り詰めた。美玲さんも頻繁に依頼を回してくれる。あの人自身、膨大な裏社会の情報網を持っているので、こちらも依頼を遂行するのに助かっているというわけだ。

「さて、経理の仕事も片付けないとな──」
 そう呟いて、会議室を出ようとした時。スーツの内ポケットにしまっておいたスマホに着信が入る。相手は美玲さんだった。幸い、今ここには俺一人。会議室の隅に移動し、バレないように気を付けながら電話に出た。
「美玲さん? 珍しいですね、日の出てる時間に連絡してくるなんて」
「仕事中に悪いわね影山。実は、ちょっと物騒なことが起こってね──影山の耳には早めに入れとこうと思って」
「物騒なこと?」
 こんな裏稼業をしていて物騒とは今さらすぎるだろう……。そんなことを思う俺を無視し、美玲さんは続けた。
「昨日働いてくれたとこ悪いんだけど、また依頼が届いたわ。商売繁盛とはこのことね」
「……それのどこが物騒なんですか? いつも通りじゃないですか。自慢するだけなら電話切りますよ?」
「まぁまぁ、話を最後まで聞いてちょうだい。それで、問題は今回のターゲットなんだけど──」
 そこまで話すと、美玲さんは少しだけ間を空ける。そして、次に放ったひと言で──美玲さんが物騒と言った理由が分かった。

「影山、あなた自身なの」

3

「えっ……」
一瞬だけ時が止まる。大声で叫びたくなる気持ちをグッと堪えて、スマホの向こう側にいる美玲さんに返事した。
「俺がターゲット……って、どういうことですか?」
「詳しいことはまだ私も分からない。なにせ依頼は全て匿名で届くから──。でも安心して。いくら依頼とは言え、あなたを殺させるなんてことはさせないから」
 その言葉に安堵しながらも、頭の中ではものすごいスピードで考えを巡らせる。

 ヒットマンへの依頼はこっちの住人からがほとんど。一般人はもちろん、有名芸能人や経営者、資産家や官僚まで──ターゲットの層は多岐に渡る。依頼の理由も様々で、こちらも金さえ用意してくれれば応じるシステムだ。
 しかし──俺は昼間は平凡なサラリーマン。人に恨まれるようなことはまず心当たりが無い。仮にあっちの世界で誰かが狙っているなら、ヒットマンなんかに依頼せず自分で始末しに来るだろう。実際、過去に何度か返り討ちにしたことはある。
 だとしたら、一体誰が俺をターゲットにしているのか──。考えても考えても、答えは一向に導かれない。
「それと影山。気になっていることがもう一つあるわ」
「何ですか?」
「依頼人が提示してきた報酬なんだけど──なんと一千万円よ」
「い、一千万円!」
 今度は思わず声が出てしまった。マズい!
と思って咄嗟とっさに口を塞いだが──まぁ、お金の額を口にするだけなら経理の仕事上不自然ではないだろう。
 依頼の相場は五百万円程度がほとんど。昨日もそうだった。しかしその倍までいってしまうと、経済界のトップや大臣クラスの政治家がターゲットになるパターンが多い。当然、一般人が簡単に出せる金額ではないからだ。
いつもの依頼よりも強力な殺意が、その金額からうかがえる。サラリーマンの年収の何倍もつぎ込んで、一体誰が、何の為に──。
「まぁ私としても、あなたみたいな優秀なヒットマンを失いたくはないわ。こっちでも色々調べてみる。怪しい匂いがするわ」
「ありがとうございます──俺も調べてみます」
「くれぐれも気を付けてね。見えない影が、あなたを狙ってるわよ」
「はい……分かってます」
 俺を心配する真剣なトーンを最後に、美玲さんからの電話は切れた。

 急に静寂せいじゃくが訪れた孤独な会議室。差し込む朝日が窓に反射して眩しい。再び襲いかかってきたあくびを手で押さえながら、俺はその場を後にした。

4

 パソコンの前に座り、カタカタとキーボードを叩く事務的な平日。本来こんな仕事はあまり好きではないのだが、一般社会に溶け込む為には仕方無いと言い聞かせている。暗闇に溶け込むのは得意なのに……と、画面に反射する自分の顔に向けて自虐してみた。

 あれから半月が過ぎた。電話で「調べてみます」と言っておきながら、手掛かりが何も無い状況では調べようがない。美玲さんからの連絡も、未だ来ないまま。
 ヒットマンと言えど、サラリーマンの姿をした昼間は丸腰だ。万が一、こっちの世界で狙われたらかなり危ない。反撃すらできないまま命を落とす可能性もある。
 しかし、匿名が故に依頼主の名前はもちろん不明。ハッキングでもできれば個人を特定できるかもしれないが、当然そんなスキルは無く……ただただサラリーマンとしての時間が過ぎる。

 どうしたらいいんだ……そう頭を抱えていた時。遂にスマホに着信が入る。美玲さんからだ。
「どう? 影山。何か分かったかしら?」
「いえ、残念ながら何も……美玲さんはどうです?」
「喜びなさい──面白いことが分かったわ」
 席を立ち、誰もいないことを確認して会議室の隅に足を進める。どうやら美玲さんの方は、何か収穫があったらしい。
「知り合いの闇金オヤジが教えてくれたんだけど──彼のもとへ定期的に借りに来ていたある男がいたの。まぁ汚い金貸し屋だから、法外な金利なのは言うまでもないわ。どんどん借金も膨れ上がっていったんだと」
「──それだけ聞くと、わりとよくある話に聞こえますね」
 闇金に手を出して破産する人間は山ほどいる。俺達ヒットマンへの依頼も、金が絡んだ事案なんて日常茶飯事だ。それのどこが面白いのか──。
「ところが、よ。そんな男が最近、一千万円もの大金を突然借りたらしいわ。さすがの闇金オヤジも少しビビったらしいけど──さらに驚くべきは、その数日後に、今までの借金含めて全額返済してるの」
「マジすか? どうやって一気にそんな大金を……」
 耳を疑った。金利の支払いだけでもヒーヒー言っている人間が、たった数日で闇金から足を洗えるなんてまずありえない。
 しかも金額は一千万円。偶然か必然か、今回の依頼金とも一致している。
「どうも気になって、その男の情報をこっそり教えてもらったの。今から影山のスマホに送るけど──さすがの私も驚いたわ」
 そう言って、美玲さんとの電話が一旦切れる。
 直後に送られてきたのは借用書のコピー。そこに記された名前を目にした時──驚きのあまり、冷房の効いた室内でも冷や汗が溢れた。

「嘘だろ……信じられねぇ」

5

 自席に戻り、再びパソコンと対峙する。別にやましいことをしている訳ではない。普通に仕事をこなしているだけなのに、妙に背後が気になるようになった。心なしか、空調の音がいつもよりはっきり聞こえてくる。
 経理部だけが入れる、セキュリティー万全のフォルダ。会社の金の流れが記録された資料は全て、ここで管理されている。十桁もあるパスワードを入力し、普段はベールに包まれている極秘情報をダブルクリックした。
「そうか……そういうことだったのか」
マウスを握る手が止まる。全ての謎が解き明かされた今、俺のやるべきことは一つだ。

 終業時刻には少し早いが──少しでも早く行動しておきたい。留めていたジャケットのボタンを外して、あっちの世界へ向かう道に足を進めた。

   *

それからさらに半月が過ぎる。
美玲さんと計画を立て、街が眠りについた夜に依頼人を誘(おび)き出す作戦を実行した。
「こちら影山──準備できてます」
「オッケー。依頼人が今そっちに向かってるわ、そのまま待機よ」
 インカム越しに美玲さんと連携を取る。不自然が無いよう、依頼人をそれとなく誘導してくれたのは美玲さんだ。耳に手を当て、周りを気にしながらその時を待っている。

「──ここんとこ、風が冷たくなってきたな」
 残暑が過ぎ去った秋の夜長。そんな独り言が、誰にも届かずポトリと落ちる。
 月の満ち欠けは三十日周期で元に戻ると聞いたことがある。前回ヒットマンとして働いた夜も、こんな美しい満月だったことを思い出した。
 俺をターゲットにした依頼人。その人物を探し始めてから、今日で約一ヶ月が経つ。夜空を見上げながら──時の流れも、人の心も、はかなく残酷にうつろうものなんだと実感している。肌に触れる乾いた風に、微かな涼しさを感じた。

「まもなく到着するわ、準備して」
「──了解」
 美玲さんの言葉で緊張感が高まる。腰のベルトに装着した拳銃を軽く触りながら、裏稼業モードの心構えへ一気に切り替えた。
「さて──どこから現れる」
 するとしばらくして、コツコツと足音が聞こえ始める。その方向を勢いよく振り向くと──俺にとっては見慣れた人物が一人、ポツンと立ち尽くしていた。

「か、影山? 何で君がここに……」
 驚きのあまり、先に口を開いた依頼人。月明かりに照らされたその姿はまるで、スポットライトを浴びているかのように輝いて見える。
 この依頼人にとっては、背筋が凍るほど恐ろしい瞬間だろう。だって──殺したいと願った相手に、まんまといざなわれてしまったのだから。

「やっぱりあなただったんですね──葛城部長」

6

「ど、どういうことだ! 何がなんだか……」
「知ってるよ。ぜーんぶ知ってる。葛城部長が部下である俺を殺そうとしてることも、その理由も、全部──」
 分かりやすく激しい狼狽ろうばいを披露する、あっちの世界の上司。まるで夜更よふけの山に迷い込んで熊にでも遭遇したかのようなリアクションである。
 俺がヒットマンだということは、まだ黙っていた方が良さそうだ。今や威厳の欠片かけらすら無くなった情けない姿に遠慮することなく、俺は言葉を続けた。
「あんた、ギャンブルでかなりの借金があったらしいな。あっちの真っ当な金貸しにはもう審査が通らなくなって、闇金に手を出したんだろう。そして返済が追いつかなくなって、会社の金にも手を出した──違うか」
「な、何の話か分からんな……」
「しらばっくれてんじゃねぇぞ!」

 とぼけ続けるこの男の態度に、つい怒りが込み上げてしまう。しかし、俺だって当てずっぽうで葛城部長を犯人扱いしているわけではない。確固たる証拠が揃ったからこそ、こちらも強気で攻めている。
 美玲さんが手に入れた闇金借用書のコピー、そして会社の財務記録を、ポケットに忍ばせておいた封筒から取り出した。
「これでも知らないとは言わせねぇぞ。借用書にはあんたの名前、財務記録の最終更新もあんたになってる」
 二枚を葛城部長に突きつけた後、向こうの体めがけて放り投げた。それらはひらひらと宙を舞うと──表が見えるようにゆっくりと地面に落下。月明かりが照明代わりとなり、この男が犯した罪を克明こくめいに映し出していた。
「別にあんたが闇金に溺れようが破産しようが知ったこっちゃないが──俺が許せねぇのは、こっちの財務記録の方だ」
「……」
 ちらっと目線だけを上に上げる。もはや反論すらも諦めたのか、葛城部長は終始うつむくだけになってしまった。
「会社の金が少しずつ引き出されてる上、先月一千万円が突然姿を消した。そしてその直後、闇金の借金が全額返済されてる。落合さんが産休中の今、財務記録にアクセスできるのは俺とあんただけだからな──口封じで俺を消そうとしたんだろう」
「ち、違うんだ影山! これには深い事情があって……」
「往生際の悪いこと言ってんじゃねぇ!」
 あまりにも情けない姿に、再び大声が出る。私利私欲の為に会社の金に手を出したことはもちろんだが──当然、俺をターゲットにしたことも許せない。一千万円という金額が、殺意の大きさを物語っている。
「今ここに現れてるのが、あんたが横領した何よりの証拠。借金をチャラにするついでに、それがバレる可能性を少しでも潰そうとしたんだろう──違うか?」
「……ふっ」

 そこまで追い詰めた時。
 俯く葛城部長の肩が微かに揺れた。口角が少しずつ上がり、まるで相手を嘲笑あざわらうかのような息遣いきづかいをしている。この期に及んでまさか笑っているのか──?
「ふっふふっ……はっはっはっ」
「──何がおかしい」
「あぁそうさ! 横領も、君を消す依頼も! 全てこの葛城がやったのさ! だがもう遅い──君はヒットマンによって殺される運命なんだよ!」
 遂に自分の罪を認めた。そして、勝ち誇ったかのような表情と笑い声。
 この男は──どうしようもない人間だな。そう思うと、自然と腰に手が伸びていた。この美しい月夜で出遭ったことを後悔させてやる。

 チャキッ

「そのヒットマンってのは、この俺だ」

7

「え……? まさか、本物の拳銃?」
「ターゲット本人に殺しを依頼するなんて笑えないなぁ。俺は自殺でもすればいいのか?」

 銃口を目の前に突きつける。いっそ豪快に嘲笑ってやろうとも思ったが──ここはあえて真剣な表情を貫いてみよう。
「ゆ、許してくれ! 命だけは……命だけは助けてくれ!」
「黙れ! 会社の金を私物化して、俺まで殺そうとして──許されるわけねぇだろ!」
 最初よりも激しく狼狽する葛城部長。今まで銃口を向けてきたターゲットは、全員口を揃えて同じようなセリフを吐いてきた。
 だが、今回は事情が違う。目の前には、俺の命を狙っていた人間。いつも通りの命乞いが、いつもとは全く別の怒りを呼び起こしていた。
「自分がやったこと……あの世で永遠に後悔してろよ」
 拳銃を握る指に力が入る。息も荒くなる。このまま人差し指にグッと力を込めれば、俺はこの男を──。

そう思った矢先、耳元のインカムに声が入る。
「影山。その葛城という男に、殺しの依頼は来てないわ。私情でトリガーを引いちゃダメよ」
 美玲さんの冷静なひと言が、俺を現実へと呼び戻す。たしかに──葛城部長はターゲットでもなんでもない。依頼無き発砲はただの殺人。ヒットマンとしてあるまじき行為だ。
 呼吸を整えて、向けていた銃口を一旦下ろす。頭を抱え、わなわなと体を震わせている男に向けて最後の情けを投げかけた。
「会社から引き出した金を全額戻して、今すぐ辞職しろ。そうすれば──全て無かったことにしてやる」
「わ、分かった! 金は必ず戻す! だから命だけは……」
「分かったらさっさと立ち去れ!」
 そう言い放って、再び銃口を向ける。すると元部長は情けなく走り出し──満月のスポットライトから瞬く間に姿を消した。もう人差し指はトリガーに掛けていないので撃つことはないが──まぁ、そこまでは見えていなかっただろう。
 これでもう、あの男と会うことは無い。遂に経理部は俺一人だけ。さらに仕事に追われてしまうことだけは、少し憂鬱だった。

   *

「まさかあんな身近な人間に狙われるなんてね──殺し屋稼業としてはまだまだなんじゃない? 影山」
しばらくして、インカムに美玲さんの声が入ってくる。緊張の糸が切れたのか、珍しく長い溜め息が漏れてしまった。
 ヒットマンとして依頼を遂行してきた夜は数え切れないが──今日ほど疲労を感じた日は無い。明日こそはフレックスで会社に出勤しよう。
「えぇ、そうですね……二足の草鞋わらじは骨が折れます」

裏稼業の世界で出遭ってしまった、ヒットマンの自分を殺そうとした男。その哀れな後ろ姿が見えなくなったところで──俺もこの場から歩き出す。月夜に照らされた自分の影と共に。
 サラリーマンとヒットマン。昼と夜の世界を行き来しながら、俺の稼業は続いていく。

[完]


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