即古典

 instant classic という言葉がある。「あっと言う間にクラシック」とでも訳せばいいのだろうか。発表した時点で、ジャンルを代表する作品となりえる傑作、そんな意味だ。
 しかし、スタンダード、クラシック、古典。それらは「結果論」に過ぎないのだと思う。時流を掴む必要があり、同時に時の試練に耐えねばならない。現代を代表するような傑作でも、数年後のパラダイムシフトを乗り越えられない可能性は大いにあるし、今なら再評価間違いなしの作品が、誰にも知られず死蔵されていることなんかざらだと思う。遺った、という結果のみが古典であることを担保する。
 でも、作る側としては、基本クラシックを作る気でやっている。じゃなきゃやってられん。
 新宿シアターミラクルの、閉館が発表された。『ナイゲン』が現在の形になった、そして再演を重ねて劇団の代表作に、ひいては「クラシック」にしていく、「作品を育てる」というアイディアをくれた劇場でもある。ただの「よく使う劇場」ではなかった。間違いなく「本拠地」だった。
 この春も、ちょっと把握できないほど様々なところで上演されている『ナイゲン』。クラシックとか古典というのは抵抗があるが(宣伝分に『新たなクラシック』とか自分たちで使った記憶はあるけど)、スタンダードくらいなら、自称してもいいかな、と思う。何度もカヴァーされてるわけだし。
 ミラクルでの『ナイゲン』から約10年。ずっと昔に高校生役はキツくなった。台本だって何度も手を入れたが、根本的な部分がやっぱり若く、有体に言えばヘタクソだ。でも、机と椅子と黒板があれば成立するポータビリティや、俳優として挑戦したくなるクローズドな舞台設定とか、やっぱりキャッチーで上演しやすい、強い作品なのである。口惜しいけど、まあ代表作なのである。
 10年。そろそろ、クラシックと呼べるものをまた作りたい。スタンダードとしてカヴァーされたい。そう思って作り始めた作品が、今度上演する『令和5年の廃刀令』です、という話は何度かしている。そんな公演を、ミラクルが閉まり、内容限定会議があちこちで勃発しているらしいこの春にできるのも、なんだかタイミングだ。
 スタンダードとかクラシックの前に、コメディの評価こそ「ウケたか/ウケなかった」という結果主義。だから上演する前からこういうことを言うのは皮算用どころの話ではないんだけど、少なくとも『ナイゲン』と戦える作品にはなりそうかな、という気がしています。
 なにより、新しいことに挑戦している、「コレはおれたち以外考えつかないだろう」というものに溢れている、そういう作品づくりは単純にわくわくする―と同時に蓋を開けたら全然伝わらない、ということもあるから恐怖もあるのだけど。でも、その辺もひっくるめて、「完全新作」です。
 やはり、今作の「観客投票」というシステムがどう転ぶかわからない。そもそも新作がウケるかどうかわからないのに、さらに不確定要素を増やすわけだから。だけど、おれは「コメディ」であろうが没入して、思考して観て欲しい。気楽に観るな、とは言わない。それは自由だし、娯楽なんだから。だが、「頑張って作っているから」とかそんな情緒的な理由じゃなくて、おれは「そっちのほうが面白い」と思っている。判断して欲しい。選択して欲しい。葛藤して欲しい。キャラクターへの感情移入や共感じゃなくて、あなた自身の問題として。コメディはどうしたって俯瞰視点になりやすい。その身軽さを持ったまま、考えることを手放さない。考えれば考えるほど、悩めば悩むほど面白い、面倒くさいコメディ。そういう形を取れたんじゃないかと。
 というわけで、アガリスクエンターテイメントのおくる「新たな会議コメディのクラシック候補」、『令和5年の廃刀令』。まずは杉並区会場から。いよいよです。
 廃刀令に賛成か/反対か。ウケるか/ウケないか。クラシックたりえるか/物足りないか。全部、決めるのはあなたです。

公演詳細   http://www.agarisk.com/haitourei/
チケット予約 https://ticket.corich.jp/apply/223571/g01/

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