「失われた30年」プレイリスト&ライナーノーツ【1994年篇】

わたしが所属するコメディ劇団・アガリスクエンターテイメントの新作公演『なかなか失われない30年』に向け、各時代にあった作品を漁っているなかで。公演自体については、詳しくはこちら。
http://www.agarisk.com/nakanaka/

アルバム・シングル問わずその年にリリースされた曲、ただしベスト盤は除く、のなかから「個人として思い入れが強い曲」「その時代を象徴する曲」「時代またいでもアーティストかぶりなし」という条件で10曲ずつ、選んでプレイリストを作成。作ってみたら結構気に入っちゃったのでライナーノーツとともに公開してみました。言うに及ばず個人の観測範囲のなかで、なのでジャンルはだいぶ偏っているし、思い出なんか補正されちゃうから修正主義的な部分も否定できないけども、時代の雰囲気は捉えられているんじゃないかと。
また、あくまでも「当時聴いていた曲」というわけではないので。とくに1994年はまだ小学生だから、そもそも記憶自体が怪しいので悪しからず。

  1. Misirlou / Dick Dale & His Del-Tones
    いきなりルール違反スレスレ。民族舞踊曲のMisirlou(ミシルルー、英語読みするとミザルー)を1962年にインストゥルメンタルとしてアレンジしたサーフ・ロックバージョンを、1994年の映画『パルプフィクション』のサウンドトラックとして使用したもの(ややこしい)を「1994年の曲」と扱っていいのかどうか。ただ、その後おれに与えた影響としては、このプレイリストはコレから始めるしかない。ハニー・バニーとパンプキンの暴言からこの曲がヒットした瞬間、実家のTV前に座っていた中学生・淺越に間違いなく電撃が走ったのだ。

  2. Zombie / The Cranberries
    アイルランドのロックバンド、クランベリーズの反戦歌。ヴォーカルのドロレスの暗いが決して陰鬱ではない力強さを持つ歌声は、まさに90年代を象徴している、と思う。紛争、内戦、テロ、虐殺のニュースに当たるたびに聴くこの曲、ドロレスが亡くなったあとの、2024年の今もまだ聴いている。

  3. All Apologies / Sinéad O'Connor
    94年の音楽界は、カート・コヴァーンの自殺なしには語れないだろう。ニルヴァーナが残した楽曲の、こちらもアイルランドのシンガー、シネイド・オコナ―のカヴァー。アメリカ国歌の歌唱拒否や、ローマ法皇の写真を破るパフォーマンスで有名な彼女だが、自身のパーソナリティの問題を抱えつつ「活動」だけでなく「作品」も素晴らしい。カートと同様に。

  4. Live Forever / Oasis
    カートを失った世界に颯爽と現れたロックスターが、オアシスだったのだろう。これと「おれはおれでしかない」と歌う『Supersonic』と悩んだけど、「消えていくくらいなら、燃え尽きたい」とニール・ヤングを引用して死んだカートに対しての、「I don’t wanna die」とストレートに歌う、ギャラガー兄弟のストレートかつ優しいアンチテーゼを。

  5. In the Garage / Weezer
    ウィーザーの1stから、『Buddy Holly』も『My Name Is Jonas 』も好きだけど、一番思い入れのある曲を。「12面ダイス」や「キティ・プライド」を理解できずに適当に訳していた歌詞カードに腹を立てたのが、自己流で翻訳し出したきっかけのひとつ。

  6. Rock Star / The Yellow Monkey
    3rdアルバムから。『Second Cry』と迷うよね。洋楽ばっか聴いていたおれが、いわゆる「邦ロック」をカッコいい!と思ったバンドがイエローモンキー。ひっぱるけど「死んだら新聞に載るようなロックスターに」というリフレインも、この時代へのひとつの回答に聞こえるのだ。

  7. Da・Yo・Ne / East End + Yuri
    日本語ラップの起点をどこにするか、という話は議論百出だろうし、そもそもおれはそんなに詳しくないけど、その当時に人口に膾炙し、「ラップ」としてお茶の間(2024年にはこの言葉は死語だろうけど)に認知された曲という意味では、この曲を置いて他にはないと思う。また落語的・漫才的コミックソングとしての完成度も高い。

  8. ファイト! / 中島みゆき
    反則枠。最初『空と君のあいだに』が候補だったのだけど、カップリングが再録(発表は当然もっと前)のこの曲で、悩んだ末にこの「時代」との相似形でこちらを選ぶ。現在でも数多くカヴァーされるこの曲、ここで歌われていることもまったく過去になっていないことが、また哀しい。

  9. Come Out and Play / The Off Spring
    オフスプリングがすごく好き、というわけではないんだけどこの曲はよく聴いていた。「『Misirlou』みたいなパンク」なんて最高でしょ、というのがガキっぽいけどガキだったしなんなら今でも好きだ。あと、プロレスラーの金村キンタロー選手の入場テーマで、会場で聴いたとき「あ、オフスプだ」と音楽とプロレスの接点になった曲のひとつ。

  10. 愛のために / 奥田民生
    歌がうまい、というのがどういうことを言うのか、難しいけど奥田民生がおれのひとつの基準である。バンドブームの終焉を象徴するUNICORNの解散から、ソロ活動再開がアルバムタイトルどおり『29』か『30』歳で自分と比して狼狽える。その後PUFFYをプロデュースして、ユニコーン再結成と、常にちょっと先取りをしつつも絶対にその「力まない」スタンスは崩さない。渋谷陽一が『股旅』のライナーノーツで「脱力こそロック」、と書いていた通り。



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