Find the will to carry on
既報通り、アガリスクエンターテイメント所属の矢吹ジャンプが体調不良により当面の間『SHINE SHOW!』出演を見合わせ、昨年のアガリスクエンターテイメント版にもご出演いただいた三原一太さんが、その間の代役を務めていただくことになりました。
『SHINE SHOW!』は「バックステージ・コメディ」だ。ステージで進行するイベントの裏側(バックステージ)で、様々なトラブルを切り抜けながら、なんとかして成功に導く人々のドラマだ。それは当初の理想でないかもしれない。冷静に考えたら得はないのかもしれない。「でもやるんだよ」、そういうアグレッシヴなコメディのことだ。
そんな作品を打つ以上、トラブルは切り抜けなければならない。幕を開けなければならない。まさに『ショウ・マスト・ゴー・オン』。当然できうる限り、という但し書きはつくし、おれになんら権限はないのだけど。一緒に頑張ってきた座組のため、楽しみにしてくれている観客の皆さんのため。そういう気持ももちろんあるが、「作品で発信している命題(テーゼ)を、それをやる人間が裏切っちゃいけない」という思いは、もしかするとそれらより大きい。
「作品でなにか言う人間が、それを裏切るな」という思いを強くしたのは、2011年に『大空襲イヴ』というコメディを作ったときのことで。上演直前に東日本大震災が起き、もちろん公演中止という話が出たが、なんとか強引に上演にこぎつけた。
たぶんなのだけど、もしあのときに稽古していたのが『大空襲イヴ』でなかったら、おれは中止に傾いていたと思う。「東京大空襲前日、市井の人々がそんな運命を知らずにそれぞれの問題に振り回されるコメディ」をやろうとしているわれわれが、「どんな状況(シチュエーション)でも、日々の営為を止めてはいけない」という作品を、自ら止めてはいけないのではないか。ここで上演しなかったら、その後どんな顔して上演すればいいのか。
エンターテイメントの在り様とか、「自粛」の是非とか、経済とか、そういういくつもの論点があったと思うし、いまだに「あれが正しかった」とか言えないし言う気もないけど、少なくとも自分の価値観としては、そうだった。その「理屈」で、心が折れずに済んだ。
矢吹ジャンプは、その『大空襲イヴ』を、ともに切り抜けた仲間でもある。あのときのジャンプさんはまだ客演で、どうどう巡りの議論をするしかないおれたちに任せるでもなく押し付けるでもなく、きちんと自分の立場と考えを示してくれた。あの人はいつもは一番なんも考えてなさそうなのに、他が混乱したり悩んだりすると、なぜか冷静かつ分析的になるのだ。基本コメディの世界の住人で、舞台上そのままのキャラクターだが、要所要所で芯のあるリアリストなのを、おれはこのときに知った。
結果、長い付き合いになる。もちろん色々言いたいこともあるし文句も(しょっちゅう)言っているけど、おれはああいう技術や理論や意識で勝負しない(断っておくがそれらがないわけではない、その辺を全然見せる気がない)コメディ俳優は、本当に貴重だと思っている。ファニー方面に特化した特権的肉体、それとそれに合ったキャラクターを演じ続けた経験。それのみでコメディを「成立」させられる。おれが言い回しを100回悩んだセリフより、うろ覚えだからニュアンスだけで言ったジャンプさんのセリフのほうがウケてたりする。死ぬほどムカつく。
劇団員を誉めたかないけど、でも、本当に「裏」の時代から一緒にやってきた矢吹ジャンプがある種の「表舞台」に立てるチャンス、それが失われるかもしれないのが、おれには口惜しくてならない。だから、書いてしまう。そういうコメディ俳優ですよ、と。だれに届くか知らねえけど、だれかが言わなきゃならない気がして。
でも、繰り返す、『ショウ・マスト・ゴー・オン』。作品に向かわねばならない。アグレッシヴに。
作品には、なんの心配もない。だって、代役・三原さんだぜ?巧さと企みを持った、コメディ俳優。去年一緒にやって、本当にそう思った。準備期間は少ないけど、クオリティにはなんの不安もない。
だから、ジャンプさんのことは残念だし、一日も早い快復と復帰は祈るけど、今からは『SHINE SHOW!』を、三原さんも交えてもっと面白くすること。それしかないし、言ってしまえばそれはずっとそうだったし。
相変わらず誰に向けて書いているのかわからなくなってきたけど、改めて、シアタークリエの『SHINE SHOW!』、目前の18日(金)に迫ってまいりました。とても面白い作品に仕上げているつもりですので、ご来場―願わくば矢吹ジャンプとともに―お待ちしております。