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三段論法まとめ

これまで三段論法の記事を色々書いてきたので少しまとめてみたいと思います。


2つの概念の関係について考える三段論法


以下の2つの概念による包含関係について考えます。

このPとQの関係を見ると以下のことがわかります。

・PならばQである
・QでないならPではない

PであればQである

これはモーダス・ポネンズ(Modus ponens)と呼ばれます。

もしPならばQである
Pである
ゆえにQである

QでないならPではない

これはモーダス・トレンズ(Modus tollens)と呼ばれます。

もしPならばQである
Qではない
ゆえにPではない

「PであればQである」の前件と後件を入れ替えそれぞれ否定すると「QでないならPではない」となります。

モーダス・ポネンズの対偶はモーダス・トレンズになり、モーダス・トレンズの対偶はモーダス・ポネンズとなります。


「PであればQである」の前件と後件をそれぞれ否定した場合(裏)は「PでないならQではない」となります。

これは前件否定の虚偽となり、誤謬です。注意したいのが「PでないならQではない」の真偽値は偽ではなく不明という点です。

Pでないとき、Qの外延かも知れないし、Qではないかも知れないからです。

以下は前件否定の虚偽の例で結論は真偽不明です。

もし雨が降ればカエルが鳴く
雨が降っていない
カエルは鳴いていない

雨が降っているときはカエルは鳴きますが、雨が降っていないときにカエルが鳴くかどうかはわかりません。雨が降っていないときにカエルが鳴いているとも、いないとも断言することはできません。


「PであればQである」の前件と後件を入れ替えた場合(逆)は「QであればPである」となります。

これは後件肯定の虚偽となり、誤謬です。同じように「QであればPである」の真偽は不明です。QはPを内包していますがPではない外延もあります。

以下は後件肯定の虚偽の例で結論は真偽不明です。

もし雨が降ればカエルが鳴く
カエルが鳴いている
雨は降っている


雨が降っていないときにもカエルは鳴くかも知れませんので、カエルが鳴いているからといって雨が降っていると断言することはできませんし、雨が降ればカエルは鳴くので雨が降っていないと断言することもできません。

結論が正しいのは以下のときです。

もし雨が降ればカエルが鳴く
雨が降っている
カエルは鳴いている
(前件肯定)(モーダス・ポネンズ)

もし雨が降ればカエルが鳴く
カエルが鳴いていない
雨は降っていない

(後件否定)(モーダス・トレンズ)

これらのことは「前件は否定せず」とでも覚えておくと良いと思います。「前件は肯定するもので、否定して良いのは後件のほうだ」と思い出しやすいからです。


3つの概念の関係について考える三段論法


さて、Pの外延としてRをおいて3つ概念が包含関係になっている場合は以下のような関係になります。


3つの概念について考える場合は、2つの前提に共通する概念(媒概念)に仲立ちさせることよって関係がわからなかった2つの概念の関係を結びます


PとQとRそれぞれを媒概念とする場合と、大前提と小前提を入れ替えた場合で以下の6つのパターンを考えることができます。結論は常に小概念が主語で大概念が述語です。

Pを媒概念とする場合

すべてのPはQである
すべてのRはPである
ゆえにすべてのRはQである
式:AAA-1(Modus Barbara)
真偽値:
理由:妥当な結論を得られる式ですので2つの前提が真なら結論は真となります。

すべてのRはPである
すべてのPはQである
ゆえにすべてのQはRである
式:AAA-4
真偽値:
理由:結論のQは周延されていますが小前提のQは周延されていません。小概念不周延の虚偽ですので妥当な結論は得られません。

Qを媒概念とする場合

すべてのRはQである
すべてのPはQである
ゆえにすべてのPはRである
式:AAA-2
真偽値:
理由:2つの前提でいずれも媒概念が周延されていません。媒概念不周延の虚偽ですので妥当な結論は得られません。

すべてのPはQである
すべてのRはQである
ゆえにすべてのRはQである
式:AAA-2
真偽値:
理由:2つの前提でいずれも媒概念が周延されていません。媒概念不周延の虚偽ですので妥当な結論は得られません。

Rを媒概念とする場合

すべてのRはQである
すべてのRはPである
ゆえにすべてのPはQである
式:AAA-3
真偽値:
理由:結論のPは周延されていますが小前提のPは周延されていません。小概念不周延の虚偽ですので妥当な結論は得られません。

すべてのRはPである
すべてのRはQである
ゆえにすべてのQはPである
式:AAA-3
真偽値:
理由:結論のQは周延されていますが大前提のQは周延されていません。大概念不周延の虚偽ですので妥当な結論は得られません。

3つの概念を扱う三段論法にはいくつかルールがあり、2つの前提のいずれかで媒概念が周延されている必要があることと、結論の小概念が周延されている場合は小前提の小概念も周延されている必要があることと、結論の大概念が周延されている場合は大前提の大概念も周延されている必要があります


Rを媒概念とする場合はPとQはRを外延に持っていること以外のことはわかりません。QとRが包含関係かは不明です。

Rを媒概念とする場合の2つのそれぞれの定立は小概念不周延の虚偽、大概念不周延の虚偽となりますが、小概念不周延の虚偽のほうの定立の結論は真となっています。妥当な結論でないことは真偽値の判断ではないということを抑えておくと良いと思います。

一方で妥当な結論を得られる24式は2つの前提が真であれば結論が真であることが保証されます。妥当な結論を得られない式の場合は結論の真偽は不明という理解をしておけば良いと思います。



次に以下の三段論法について考えてみます。この定立は正しいでしょうか。

すべての生き物は必ず死ぬ
ヒュドラーは死なない
ヒュドラーは生き物ではない

大前提は P-M で小前提が S-M なので第2格です。ヒュドラーという個体はひとつと考え全称命題として扱うと3つの命題のそれぞれの型は AEE なので式は AEE-2 です。


小前提で媒概念が周延されているので媒概念不周延の虚偽の心配はありません。結論の小概念と大概念がそれぞれ周延されていますが、小前提と大前提で小概念と大概念は周延されていますので小概念・大概念不当周延の虚偽の心配もありません。

AEE-2 は Modus Camestres と呼ばれ妥当な結論を得ることができ、2つの前提が真であれば結論は真となります。

頭の中で概念の関係を思い浮かべると直感的な理解ができると思います。



すべての生き物は死ぬのであれば、生き物という概念の外延すべてが死ぬことの外延にあり、死ぬことがないのであれば死ぬことの外延にはありませんから生き物でないことは確実となります。


では以下の定立はどうでしょうか。

すべての生き物は必ず死ぬ
ヒュドラーは生き物ではない
ヒュドラーは死なない

この場合は媒概念が「生き物」になり、大前提は M-P で小前提が S-M なので第1格です。式は AEE-1 となります。


媒概念は小概念と大概念の両方で周延されています。結論の小概念は周延されていて小前提の小概念も周延されています。

しかし結論の大概念「死なないこと」が周延されているのに大前提の大概念が周延されていません。したがって大概念不当周延の虚偽になり結論は妥当ではありません。

大事なことなのですが結論が偽というわけではありません。結論の真偽はあくまで不明です。なぜそう言えるかは図に起こしてみるとわかりやすいと思います。



ヒュドラーは生き物ではないので生き物の外延には置けません。必ず生き物の外に置きます。

生き物の外であればいいので、ヒュドラーを死ぬことの外延に置くことはできますし、死ぬことの外に置くこともできます。

ゆえにヒュドラーが死ぬか死なないかは不明なのです。


論理において何より大切なことは概念と概念の関係を思い浮かべることです。頭の中で思い浮かべることが難しければこのようなオイラー図を紙に書き起こして考えてみると良いと思います。



さて、次にこの定立について考えてみたいと思います。

ソクラテスは人間である
人間は必ず死ぬ
ソクラテスは必ず死ぬ

結論は妥当なのですが、結論の主語が大概念になっていることに注目してください。

三段論法のフォーマットとしてまず大前提に一般法則(広い法則)を上げ、小前提に個々の事実(狭い法則)を上げます。

なので、この定立の結論は妥当なのですが、大前提と小前提を入れ替えたほうが良いでしょう。


三段論法は以下のように自明なことである大前提を省き、小前提と結論を複合してひとつの命題だけを述べることもあります。

ソクラテスは人間なので必ず死ぬ

この命題も Modus Barbara という三段論法の省略型です。

大前提が省略可能なのは、わざわざ前提として提示しなくても真であることが自明なときです。

したがって大前提には広いほうの法則を置く必要があります。結論は主語が小概念になるようにしてください。



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