クレームの真意は「意外」なところに!!
仕事柄、鉄道を利用する機会が多い私は、あるとき、講演先から自宅に戻る在来線の車中で、地震に遭遇しました。数十分ほど停車しているあいだ、「地震のため停車します」との車内放送はあったものの、次の駅での新幹線への接続情報についての案内はありませんでした。
やがて新幹線の接続駅に到着し、私が新幹線を待っていると、私と同じ電車に乗っていたと思われる客が駅員に話しかけている声が聞こえました。周囲の誰もが気づくほど大きな声だったので、思わず声の方向を見ると、「研修生」という腕章をしている駅員と客が話しているのでした。駅員は、その客に向かって、「どうも済みません」と、何度も頭を下げていました。しかし、客は、「先ほども言ったように、私は、あなたに謝ってくれと言っているのではないんだよ。今回は仕方がないとして、せめて次からでも、新幹線への接続のことを事前に車内放送するように、上の人に伝えて欲しいのだよ」と言っていました。しかし、駅員は、相変わらず「済みません」ということばだけを繰り返していました。そんな、同じ言葉のやり取りが数回続いていたので、私が、仲介しようかどうかと思案しているうちに、なんとか治まってきたようなので、私も、その場を離れました。
こんなとき、駅員が、「はい、あとで伝えておきます。ご提言ありがとうございました」と言えば済んだ話なのかも知れません。ところが、「済みません」を繰り返すばかりなので、客は客で、自分の「真意」が伝わっていない無念さも加わって、何度も強い言葉を繰り返さざるを得なかったのでしょう。そして、その言葉が、ますます駅員を萎縮させてしまったようです。客は半ば諦めて、その場を離れましたが、駅員(研修生)の心の中に、苦情をしつこく言う嫌な客だというイメージ(本当は「誤解」ですが)しか残らなかったとしたら残念です。
この客は、自分の方から「真意」を言ってくれたので、まだ良かったのですが、この駅員に限らず、私たちは、日常生活の中で、これに似た事態、つまり「誤解」(「伝達ミス」や「思い違い」と呼ぶ方が適切かも知れませんが)によるすれ違いに遭遇しているのではないでしょうか。特に、人は、思いがけない事態に遭遇すると、つい慌ててしまい、相手の言葉の「真意」が、なおさら聞こえにくくなります。その結果、誤解が起こりやすくなります。これを防ぐには、話し手と聞き手の双方の工夫が必要ですが、ここでは「利き手」に焦点をしぼってヒントを書きます。それは、どう答えようということだけでなく、相手は何を言いたい(伝えたい)のだろう、ということを意識して、相手の言葉を聞くことが大切だということです。すると、相手の「真意」が聞こえてきます。クレームの対応では、相手の「ことば」だけでなく「真意」への対応が大切なのです。