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煮え湯を飲まされる正月のケンカ。

実家の正月は静かだった。

もともと堅物と言ってもいいくらい真面目な父と、基本的におとなしい母の組み合わせだ。
そのうえふたりとも酒はたしなむ程度。

父は長男ではなかったから、親戚が集まることもない。
そんなわけで、とても静かな正月なのだ。

朝は普段どおりの時間に起きて、朝日を拝む。
それから鏡餅をそなえた臨時の神棚に雑煮をふたつ供える。
そのあとおせち料理とお雑煮の朝ごはんになる。

おっと、その前に父の年頭のあいさつがあり、大真面目な顔で拝聴しなければならない。

そして各々、今年の目標を述べる。
目標はなんでもよい。

しかし父の好みは「家族が笑顔で仲良く過ごす」的なものだ。
空気を読んで、適当に述べておく。

それからお年玉を押し戴き、ようやく朝ごはんにありつける。


私が中学生になった年の正月のこと。

私は栗きんとんの容器を見つめ、栗の数が8つだと確かめてから、取り箸で栗を2つ取った。(4人家族である)

すると兄弟が怒った。
「ずるい!栗ばっかり取ってる!!」
まぁ、言い分は分かる。

するとそこで父が即座に口を挟む。
「まぁまぁまぁ。正月にケンカをしてはいけない。一年中ケンカをして暮らすことになるからダメだよ」

しかし私はずるいことをしていないのだから、そこはきちんとさせておきたい。

私「たしかに栗しか取ってないけど、」
父「いいからやめなさい」
私「ちゃんと数をかぞえて」
父「やめなさい!!」
私「自分の分しか取ってないからずるくないよっ!」
母「おとうさんがやめなさいって言ってるでしょ」
私「きんとんは甘すぎて好きじゃないから食べないの。好きな人いたらあげるから食べて」
兄弟「・・・そうなの?ならいいけど」

理由を述べれば兄弟だって納得する。

しかし父は正月だというだけで、すべての争いごとを全面ストップさせようとする。

この時は私も中学生だったから、父に何と言われようと自分の気持ちを伝えきった。
結果、私と兄弟は深い遺恨を残すことはなかった。

しかしそれより以前、お互いに小学生だった頃などは、親の言うことに逆らってまで自分の意見を言うことは難しく、私たち兄弟は正月のたびに煮え湯を飲まされた。

一年の計は元旦にありとか、笑う門には福来るとか、正月がらみの名文句はいろいろある。

しかし父の解釈による「一年中ケンカにならないように、正月はケンカをしてはいけない」は、あきらかに「違う」と思う。

問答無用でいきなりケンカせずに、話し合いで解決しなさい、ということなら別だが。

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あさのしずく
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