ミュージカル HIU版 クリスマスキャロル ドキュメント 第十九話「臨界」
しかし、まぁ、何ともでかい箱だ。
ホリエモン万博2020は、幾つもの会場に分かれ、様々なコンテンツが催されていた。
我々の舞台の場所は、万博のメイン会場となっているベルサール六本木と言うイベントホールの地下大ホールで、入れようと思えば1,000人位は楽に入れるだろう。
ゆとりを持って配置されてはいるが、組まれているのはざっと300席程だろうか。天井も高い。
素人のキャスト達だけでこんなところでミュージカル舞台を演じるとは。やはり普通なら有り得ない事だ。
度を越したバカさ加減に、緊張するよりもニヤリと笑う。組まれているステージを眺めていると、さらにワクワクとして来た。
「よし、やるならMAXだ」
そんな気さえ起きてくる。
しかし笑う事以外には何も役に立ちそうもない俺は、する事も無く手持ちブタさんだ。所在無げにハイボールの500mlを2本ばかし飲んでいるとポツラポツラと仲間達が集って来る。
AM3時。結局全員が揃っていた。
皆んなその気で一杯なのだ。そして、いけたくさんはkatoeriさんと言う女性ダンサーを連れて来てくれた。舞台を共にしてくれる新たな同志を全員が歓迎した。
王子の指示の元、場当たりが始まった。
シーンの切り替え、演者達の出番、照明や音響など、それらのタイミングや効果の確認作業が台本に沿って順々とこなされていく。
成程、これが場当たりと言うものか。
などと思いながら粛々と、時に様々な確認に時間を掛けて進めていったが、当然これまでの稽古場とは具合も異なる。
この場面ではキャストはどういう場の入り方をして、どんな立ち位置で、どう動く? どんな効果音が適しているのか? 照明のタイプは? 音楽のタイミングは?
思ったよりも結構な時間が掛かる。だが、ここが正念場なのだと思った。
物語の最初から最後迄、一通りを終えた時にはAM8時を回っていた。
そして、俯瞰で舞台全体を監督せざるを得ない王子の役回りを考慮し、途中途中に挟まれていたパティと老スクルージの狂言回しをカットした結果、あれ? 俺、ずっと出ずっぱりになってるじゃねえか。
殺す気か。
書き漏れていたが、老スクルージ役についてはギリギリ迄ずっと待ってはみたものの、演じる者が現れることもなく、王子が担う事になったのだ。
本番を数時間後に控えているにも拘らず、夜中から朝方迄の5時間もの間、常に絶えることなく巻きで続けられた作業の連続に、俺達は疲労していた。
それでも我々には直感が有った。
「きっと上手くいく」
ギリギリの段取りが俺達に緊張感をもたらしてくれている。今はそいつが我々を支えてくれるだろう。
そう思いながらも、そして刻々と本番を間近にしながらも、思いの外気負いは無い。これ迄の成果を唯一度のステージに於いて心置きなく演れればそれで良い。
取り敢えずは、出来るだけ身体を休ませる事だ。
交感神経の状態であった我々が、容易く眠れる訳では無いものの、控え室で身体を楽にして時が過ぎるのを待った。
(続く)
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