ミュージカル HIU版 クリスマスキャロル ドキュメント 第十二話「拡散」
ところで、演者が客席に対して意識を向けると言うのは重要な事だ。
これが欠けると、芝居がこじんまりと内向きになってしまう。そして、観客が舞台上から感じ取るものが激減する。
稽古場での様子を、Facebookのライブ配信でHIUのエンタメグループ内に出来得る限り送っていたのは、勿論HIUメンバーへのアピールが主な目的ではあったが、演者達が今の自分自身の状態を確かめるツールともなってくれた。
カイトは動画を見返して、自分の顔がこんなに濃かったのかと20代半ばにして気付いたらしい。
が、それは別として、客観的に己を凝視して「こんなものか!」と、絶望を感じ、まずそれを認めることは大事である。
そこから己自身で修正と改善を図っていくのだと王子は言った。
さて、台本を手にせず演技をしてみた結果は思った通りだった。格段に遊び易くなる事を俺は感じていた。
急に楽しさ倍増状態になった俺の様子は、それを眼にした他のメンバーに少なからず衝撃を与えたみたいだった。
台詞を覚えた方が良いのじゃなかろうか、と言う意識が芽生え始めた。
それは俺の狙いでもあり、望んだ事であった。皆が呪縛を解き放ち、自由を得る為の羅針盤になりたいと思っていたのだ。
そして、次に自由を掴んだのは、みーやんだった。
そのみーやんに対し、王子が遊び方を仕込んでいく。
「成功を目指そうとするとマイナーチェンジにしかならない。今はまだ演れていない概念を掴むには、思いっ切り失敗を目指すのだ」
「スタートからゴール迄、最短距離で行かない事が、遊びとか雑味とか人間味を生む」
「ちゃんと演じようとする事は、どんどん普通の人間じゃなくなっていく事」
「バカになれ」
台詞を頭に入れようと意識し始めた者から順に、ギアが入れ替わっていった。
そして、王子の指導で演者がダバダバと変わっていく。
更には、己の役に対して主体的に演じ始めていくのだ。
皆が演劇にハマっていくそれらの様は観ていても愉快だった。
このプロジェクトの一番良いところは、参加している皆んなが楽しんでいると言う事だ。
(続く)
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