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ミュージカル HIU版 クリスマスキャロル ドキュメント 第八話「混濁」

正直言ってこの守銭奴が何を考え、どう生きて来たのかと言う事迄には思いが至ってはいなかった。
その為、台本の中でところどころ、これはどんな心境なのかと想い計れぬ所も有ったのも事実だった。

王子の演技指導では、表面に現れている台詞を口にするだけではなく、その背後関係や人間関係、ひいては各々のキャラクターの人生迄に想いを馳せることを意識させられる事となった。
判り易く例えを上げるならば、それは少年スクルージのシーンに象徴される。

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七回目を迎えた12月22日の稽古からは、読み合わせから、立って行うシーン稽古へと変わり、王子の演技指導も始まっていった。

余談ながら、ここからはウォーミングアップに動的ストレッチが加わった。声だけではなく、身体も起こしていく作業だ。

立ってタブレットを片手に行う稽古では、台詞を読むだけではなく演技をすることに対する意識付けをしていく。個々のキャラクターに様々な解釈を与え、台詞に書いていない裏を読む。
「サブテキストを読む」と言う作業が加わったのだ。


のんちゃんが演じる少年スクルージのシーン稽古で王子は言った。
「それではジュウゼロにならない」
貧しさに心が荒んだ少年スクルージは、新聞を渡す少女に己の不遇さへの不満をぶちまける。そこには怒り、激しさが必要なのだと。
ひょっとしたら、この出来事がきっかけでスクルージは金の亡者になって行ったのかも知れない。台本には書かれていない背景を想像してキャラクターを創造するのだ、と諭した。


また、その少年スクルージと少女の姿を傍らで眺めている青年スクルージは、かつての自分を振り返り、金の鎧を剥いでいく端緒を掴むのだ。
そして、代わりに少女へ謝りに行く青年スクルージは、もしかして昔の純真な自分を取り戻せるのではないかと淡く念じながら少女へ語りかけて行く。


初めて我々は役をキャラクターとして捉え始めた。
(続く)

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