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歯列矯正と脱毛

春先の電車内では、「まだ間に合う!」的な文句とともに、これ経営どうなってんだ大丈夫かと心配になるような価格で、女性向け美容脱毛の広告をよく見ます。夏前だけかと思えば「冬のうちに」なんて謳い文句とともに真冬の車内で見かけたりもする。

幸か不幸かほとんどの女性が脱毛をすると、今度は男性にもその魔手が伸びてきて、ヒゲ脱毛の広告が。いやまあ実際ヒゲ脱毛はやると楽らしい。毎朝髭剃りするのって大変ですものね。無精髭って言葉のある社会では、清潔感を演出するにも努力が必要なのだ。

それもどんどん、これまた幸か不幸か当たり前になってくると、なんだろう最近よく見かけるのはプチ整形の広告かな。多いのは二重にするというもの。これもまあやると楽らしい。アイプチふたえのりが欠かせなかった友人は、毎朝“人前に出るための最低限の準備”に割く時間が短縮されて喜んでいた。なお、ここで「一重でもかわいいのに」という言葉は正直あんまり意味がない。

で、こういうサービスが安価になっていくことにはメリットもあるけど当然デメリットもある。メリットはもちろん、金銭的に余裕が少なくても“きれいになれる”人が増えること。ただこれは、安価な美容サービスを受けないことに何らかの理由を求めることと表裏一体となる。つまり、「こんなに安いのにやらないのはどうして?」という、ひどくおせっかいな美意識の押し付けが発生するのだ。

某バラエティ番組を見ていたら、小学生の女の子をもつ両親が「娘の脱毛代がかさんで」と話していた。悲しいかな、いまや女性にとって、むだ毛がないことは時にエチケット、こと恋愛市場においては最低条件だったりもする。かくいう私も小学生のころは「毛深い」って男子にいじられるのめっちゃ嫌だったし、なぜか毛のないつるつるの腕を惜しげもなく出せる女の子のクラスメイトに嫉妬していた。そんな時代において、脱毛しないこと毛の処理をしないことは、なぜかそれだけで「特別な理由がある」ように思われる。生まれたままの姿でいるだけなのに!

こんなこと書きながら実は全身脱毛経験者である私が最近気になっているのは、コロナ禍でマスクが手放せなかった時代に流行った歯列矯正。これはいまだ値段が高いので、やるつもりはない(というかできない)んだけど、いずれ安価なサービスになってきたら「歯並びが悪い」というだけで人権が侵害されそうで怯えている。
だっていつぞや見た歯列矯正の電車広告には、「自信を持って笑えるようになった」的なコピーがついていたんだもの。笑顔すら歯並び気にしなきゃあかんのか。勘弁してー。

私は歯並びがお世辞にも良くなくて、まあ歯医者さんに言わせりゃ「矯正したほうが歯磨きがしやすくなって口内環境が良くなる」。そう、たしかにその利点はある。長ネギとかえのきとか食べるたび歯に挟まるの本当に億劫だし、歯並び良ければ糸ようじだって扱いやすくなるでしょう……でもなんていうか、見た目至上主義の波に乗りたくないみたいな意地があって、「下の歯だけ矯正したいんですけど」と言ったらその方が噛み合わせが難しくなったり全体矯正とそこまで値段も変わらなかったりで、あんまり(歯科医が言うところの)メリットは無いらしい。

えーでも歯列矯正ってばれるやーん。もとの歯並び悪ければなおさら。矯正そのものの手間や痛みより、「この人矯正したんだな」「そこに割くお金があるんだな」って思われるのがもう嫌。将来歯列矯正が安くなったらそれはそれで、「この人矯正するお金もないのかな」って思われるのも嫌。

気にしなければいい、って、それ言われたらまあそうなんですけど。

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