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高知県の公立高校はそろそろ、合格最低基準を明示してはどうですか?

高知県の公立高校入試は、全国屈指の低倍率で有名です。何しろ、県内の公立高校の入学定員が合計が5000人余りなのに対し、総志願者は約3500人と7割程度しかいません。2023年度入試では、公立高校全日制32校のうち、高知商業高校を除く31校で2次募集(B日程)が実施されました。いわゆる公立トップ校として知られる高知追手前高校ですら、5年連続で定員割れしています。

ただし、高知県の公立高校入試ではたとえ定員割れでも不合格を出します。この現象を「定員内不合格」と言いますが、2022年度入試では全国で定員内不合格が延べ1631人発生し、うち182人が高知県でした。実数では全国トップですし、志願者数に対する割合では断トツです。

近年、定員内不合格が注目されるようになったのは、障碍を持つ受験生が定員割れの高校を受検しても、度々不合格になってしまうケースが問題視されたためです。確かに高校ではかつて「適格者主義」と言って、「高等学校の教育課程を履修できる見込みのない者をも入学させることは適当ではない」という通知が旧文部省から出されていました。ところが、中学校卒業者のほとんどが高校に進学するようになると「一律に高等学校教育を受けるに足る能力・適性を有することを前提とする考え方は採らない」こととなり、あらゆる境遇の中学校卒業者が高校に進学できるように努めるのが現在の文部科学省の方針となっています。

この方針に則り、定員内不合格を出さないと明言している県もあります。公立高校を定員割れのままにしておくのは、その分税金が効率的に使われていないということでもあるので、納税者である住民に定員が許す限り高校教育を受けさせるのは筋が通っていると言えます。

もっとも、「その高校に入ってもついていけない生徒を合格させてはいけない。それがお互いのためだ」という現実的な考え方もあるでしょう。ですのでこの記事では、定員内不合格そのものを必ずしも悪とは考えません。
しかし、高知県の公立高校入試の定員内不合格は他県に比べて明らかに多い。定員内不合格になるということは、高校が求める水準に相当及ばなかったということです。日本の公立中学校の進路指導は保守的、つまり生徒が確実に合格する受験先を勧める風潮がありますが、高知県の中学校に限っては進路指導がイケイケなのでしょうか?なぜ高知県の中学校の先生は、定員内不合格になるような無謀な出願を止められないのでしょうか?

志願者が定員を上回っている状態では、合格ラインはその都度変わるので、「何点取れば受かる」と明言するのは難しいです。しかし、ほぼ全ての公立高校が定員割れしている高知県では、選抜は事実上各高校が定める絶対的な基準で行われているはずで、その基準はそうそう変動しないはずです。高知県の公立高校入試で多数の定員内不合格が出てしまうのは、この基準が受検生や中学校の先生に共有されていないからではないでしょうか。

私は、高知県の公立高校入試では高校別に合格最低基準を公表した方がよいと考えます。募集要項を公開する時点で、たとえば「我が校は学力検査でXX点未満の場合は定員割れでも不合格とする」と明言しておくのです。こうしておけば、学力検査でXX点以上が取れそうにない受検者はその高校を回避して初めから他の高校を志願するでしょうし、定員内不合格になった時の納得感も増すのではないでしょうか。

高校ごとに異なる合格最低基準を公表してしまえば、「高校の序列化」が起きてしまうという意見が出そうです。日本の教育業界には「高校の序列化」を忌避する傾向が確かにあります。実際、高知県はかつて高校全入制と言って、事実上無試験で(地元の)公立高校に入学できる仕組みを採用していました。以下の『高知県の進学校Map』で詳しく解説しています。

一方、高校進学段階で各自のキャリアプランに沿った進路を選択できることもまた、有権者・納税者が求めているニーズだと思います。幸か不幸か、高知県の公立高校はほとんど定員割れしているわけですから、
「点数が高い順に定員まで」という学校のキャパシティの都合
ではなく、
「自分の目標を達成するために高校を選ぶ」という受検生の希望
に沿った進路選択が叶いやすい環境が、他県に比べて整っているはずなのですよね。
そうであれば、秘密の基準でわざわざ定員内不合格を出して不要な失敗経験を積ませるより、合格最低基準を公表して志願先の参考にしてもらう、あるいは合格最低基準をクリアできるように励んでもらう方が、受検生の成長に資するのではないでしょうか。

とは言え、合格最低基準の設定のバランスには気を配る必要があります。たとえば、都会(高知県の場合は高知市)の高校ばかり合格最低基準を高めに設定すると、そのこと自体が都会の高校の人気化に拍車をかけてしまい、教育機会の地域格差の拡大につながりかねません。また、県内のどの地域に住んでいてもいずれかの公立高校には進学できる、つまり合格最低基準を限りなく緩く設定した高校も必要でしょう。

合格最低基準を真っ先に設定すべきは、高知追手前高校だと思います。高知追手前高校はいわゆる公立トップ校として、いわゆる難関大学受験に対応したカリキュラムを採用しています。高知県教育委員会が公開している教科書採択結果(令和5年度)を見ると、高知追手前高校は「数学Ⅰ」の授業で数研出版の数学シリーズ(712)を使用しています。これは日本で発売している「数学Ⅰ」の教科書の中で最も難易度が高い教科書のひとつです。

高知県の公立高校入試の学力検査は250点満点(1教科50点満点)です。高知追手前高校は学力検査で150点以上(1教科平均30点以上)を合格最低基準にしてはいかがでしょうか。個人的には、高知県の公立高校入試の数学で30点以上取れない生徒に数研出版の数学シリーズ(712)で教えるのは虐待に等しいと思いますので…。

入試の意義は「その学校で学ぶだけの意欲・能力が備わっているか」を確かめることにあり、それが満たされている人全員を受け入れるのが本来あるべき姿でしょう。学校設備の都合などで定員に合わせて入学させているだけで、その学校で学ぶだけの意欲・能力が備わっている人が毎年定員ピッタリになる方が不自然です。
公立高校の定員割れを常態化させている高知県は、裏を返せば、県民が公教育の非効率性をある程度許容してくれているということです。定員割れの公立高校を次々と閉校させている大阪府より、ゆとりがあるのは良いですよね。ぜひそうした境遇を活かして、入試のあるべき姿を体現してほしいなと思い、今回の記事を書いた次第です。


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朝森久弥(朝森教育データバンク)
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