ジョングク 22年5月22日 誰かに肩を揺すられて目を開けると 車窓いっぱいに海が広がっていた。 眠気が覚めていないせいか 海の風が冷たく感じられた。 僕は両腕を抱えて外に出た。 いつの間にか 波打ち際まで行っていた 兄さんたちが振り向いて手を振った。 兄さんたちの後ろに海が広がり その上に太陽が浮かんでいた。 まるで静止画のような風景だった。 その静止画の中に 風が吹きつけてきたのは 手を振り返して見せようとした時だった。 一瞬、白い砂浜
ジミン 22年5月16日 ホソク兄さんの家は とても高い地帯にあった。 大通りからだいぶ上っていき 曲がりくねった狭い路地を過ぎると 行き止まりの道にたどり着く。 その一番奥にある屋上の簡易住居 そこが兄さんの家だった。 部屋が1つしかない家に入りながら 兄さんは、ここはまさに世界を 足元に置ける都会の最上階だと 得意げに言った。 兄さんが言うように 屋上の簡易住居からは実に さまざまなものが見渡せた。 正面の眼下に電車の駅があり 線路沿いに立ち並ん
ホソク 22年5月12日 非常口のドアを開け 階段を駆け下りた。 心臓が今にも張り裂けそうなほど ドキドキ鳴っていた。 病院の廊下で すれ違った顔は確かに母だった。 振り返った瞬間 エレベーターのドアが開き 人が溢れ出た。 一瞬、母の姿が視野から消えた。 必死に人をかき分けていくと 母が奥の非常口に入ってくのが見えた。 焦って階段を2段飛ばしで下りた。 休まずに数階を駆け下りた。 「母さん!」 母が立ち止まった。 僕はさらに1歩 踏
ホソク 22年5月10日 ナルコレプシーは 場所を選ばなかった。 仕事をしている間に突然倒れたり 道を歩いている途中、一瞬にして 気を失ったりすることもあった。 心配してくれる人の前では 平気なふりをした。 数字を10まで 数えられないという事実は 誰にも打ち明けられなかった。 そんなふうに倒れた日は 母の夢を見た。 いつも同じような内容だったが 母とバスに乗ってどこかに行く夢だった。 夢の中で僕はとても浮かれていた。 車窓を通り過ぎる看板を
ソクジン 22年5月2日 指がこわばっていくことに焦りを感じ 拳をぎゅっと握っては開いた。 ひよっとして失敗しないだろうか。 何度も繰り返したことだが、毎回怖かった。 ゆっくり深呼吸をしながら ユンギの状況を思い浮かべた。 今頃、ユンギはすっかり 酒に酔ったまま片手で ライターをカタカタいじり もう片方の手では 携帯電話を握っているだろう。 あるいはソファーに横になり 自分が生きるべき理由について 考えているかもしれない。 死にたい理由について 思い
ホソク 22年3月2日 僕は人に囲まれているのが好きだった。 養護施設から独立したのに伴い ツースターバーガーで アルバイトを始めた。 大勢の人 に接し いつも笑顔で、いつも活気に 満ちていなければならない仕事だった。 そんな仕事が僕は好きだった。 僕の人生には笑うことも 活気に満ちたこともあまりなかった。 これまで、いい人より悪い人を 見たことの方が多かったのも事実だ。 だから、なおさらその仕事が 好きだったのかもしれない。 無理にでも笑い、
ナムジュン 21年12月17日 早歩きをしていた 足取りをゆっくり緩め やがて立ち止まった。 バスさえあまり通らない 田舎の村の明け方。 夜通し降った雪に 村は白くかすんで輝いていた。 木々は白く巨大な獣のように たたずんでいたが 風が吹くたびに毛をなびかせた。 振り返らなくても分かった。 村を横切るのは 俺の足跡しかなかった。 靴底が破れたスニーカーのせいで とっくに足が濡れていた。 神が俺たちを寂しくさせるのは 自分自身にたどり着かせるため
テヒョン 20年3月20日 廊下をバタバタと 音が出るほど走っては スーッと滑るように ブレーキをかけて止まった。 少し先に "俺たちの教室" の前に立っている ナムジュン兄さんの姿が見えた。 俺たちの教室。 俺は倉庫の教室をそう呼んでいた。 俺と兄さんたちとジミン ジョングク、俺たち7人の教室。 息を殺して近づいた。 驚かせるつもりだった。 「校長先生!」 少し開いた教室の窓の 向こうから緊迫した声が 聞こえたのは 5歩くらい歩いた時だっ
ジョングク 19年6月12日 海辺の駅に着いた時も 日差しはまだ熱かった。 影は足元をついて回り 日差しから身を隠しようがなかった。 波の音が聞こえたかと思うと すぐに砂浜が広がった。 夏の始まりだった。 気の早い避暑客の パラソルの花が あちこちに咲いていた。 海はなぜか人を 胸がいっぱいになった 気分にさせる。 テヒョン兄さんと ホソク兄さんが 叫び声を上げながら走っていき 2人が振り向いて手招きをすると ジミン兄さんと ソクジン兄さんが加わ
ソクジン 19年3月2日 父に連れられて入った 校長室からは 湿っぽいにおいがした。 アメリカから戻って10日目 学校制度が違うため 1つ下の学年に入るという話を 聞いたのは昨日だった。 「よろしくお願いいたします」 父が僕の肩に手をのせると 無意識のうちに体がぎくりとした。 「学校は危険な所です。 規制が必要なんですね」 校長は僕をまじまじと見た。 黒い背広姿の校長が 口を開くたびに しわのある頬と口元の 肉が小刻みに震えた。 薄黒い唇の中は
ホソク 10年7月23日 そのことが起きたのは 数字を4まで数えた時だった。 僕はトマトだか、メロンだか とにかく何かの果物を数えていた。 「4」数字が 口からこぼれた瞬間 子どもの頃の僕が 誰かの手を握ったまま 目の前を通り過ぎた。 あの日だった。 母と初めて遊園地に行った日。 色とりどりの旗と店を 僕は我を忘れて見ていた。 滑稽な衣装をまとった人たちが手を振り どこに行ってもウキウキするような 音楽が流れてきた。 母は メリーゴーランドの前で立ち
ソクジン 9年10月10日 「行こう、 逃げなくちゃ」 僕は友達の手をつかみ 教室の後ろの戸に向かった。 廊下をつたって駆け出したが振り返ると 大人たちが後ろの戸から出てくるところだった。 「待て、捕まえたら、ただじゃおかない!」 大人たちの声が 首筋につかみかかるように 追いかけてきた。 階段を駆け下りながら どこに行こうか考えた。 真っ先に思い浮かんだ所が 学校の裏山だった。 運動場を横切って 校門さえ抜け出せば そのまま山に登れた。 高くはな
花様年華noteの再販もなく もしかしたら近々 ドラマ【YOUTH】が 放送されるかもしれない Youthは 『花様年華シリーズ』の世界観を イメージして作られたドラマです。 そんな中で 小説を読みたい方が 沢山いるとの事なので 小説内容をまとめていきます。 読んでる中で 点と点が繋がった時の 鳥肌を共有したいので 考察なしで書いていきます。 読みながら 色んな考察をしてみるのも 楽しいので是非♡ 語彙力ないし マイペースですが 良ければ 最後までお付き合い下さ