
おすすめの名作小説を紹介する話
何か書きたいけど特にネタが無かったので、昔から何度も読み返すほど好きな名作小説のご紹介でもしたいと思います。
個人的な傾向として、
本格的というほどではないミステリ
淡い程度の恋愛要素
ハードボイルド風味な主人公や語り口
組織の中での葛藤
とかがわりと好物です。
ご紹介する作品もどれかの要素は含んでいるので、お好きな方はご一読いただくと楽しめるかと思います。
隠蔽捜査
『隠蔽捜査』は今野敏先生の作品で、警察組織が舞台です。シリーズもので、番外も含めて13冊が出版済みですが、1冊完結型なので気軽に読めます。
この作品の見どころは、主人公が無自覚に、慣習や常識といった警察組織の壁をぶちやぶっていくところ。
本人はいたって真面目にやっていることが、周囲からはこれまでにないふるまいに映ります。困惑しつつもその成果に徐々にファン化していく流れが痛快です。
巻数を重ねるたびに主人公の立場も変化していきますが、どこに行っても変わらぬ主人公節を発揮するところに安心感のある作品となっています。
組織の不条理を正論で突き通していく気持ちよさをお求めの方におすすめです。
クリムゾンの迷宮
『新世界より』や『黒い家』でおなじみの貴志祐介先生ですが、私は『クリムゾンの迷宮』が至高だと思っています。
本作の魅力は、ゲーム性×サバイバルです。
実在する砂岩の迷宮での、飲み食いに困りながらの命がけのサバイバルを、知恵と経験と運で乗り切っていくドキドキ感がたまりません。また、ゲームブックになぞらえられた展開は適度なスピード感と謎を与えてくれます。
主人公が少しサバイバル知識がある程度の40歳のおじさん、というのも良い意味で特別感がないですね。
何より、作中最後に登場する「トゥルーエンド」が最高なので(読んでいない方には意味が分からないと思いますが、こうとしか言えないのです)、ぜひ読んでみてください。
屍人荘の殺人
『屍人荘の殺人』は今村昌弘先生のシリーズ作品の1作目です。
ずばりこの作品の魅力は、ヒロイン・ヒルコさん(剣崎比留子)です。
彼女は沈着冷静で推理力抜群、ちょっと風変わりな美人という、ラノベでもないのに中二病すぎないかという設定。だがそれがいい。
そのわりに、(ちょびっとネタバレですが)恋愛描写的なものは非常に抑えられており、そのバランス感が私は好きです。
謎解きそのものはファンタジーチックな要素も入りますが、ミステリといってよいだけの仕掛けがあるので、ちょっと変わったミステリをお求めの方にもぜひ。
シリーズの『兇人邸の殺人』もなかなかおすすめです。(2作目の『魔眼の匣の殺人』は正直微妙なので、飛ばしても良いです)
テロリストのパラソル
故・藤原伊織先生の『テロリストのパラソル』は何度読み返したか分かりません。
ハードボイルドな一人称での語り口がとにかく最高にクール。皮肉の利いたセリフ回しが癖になります。
突然の爆弾事件から幕を開けるストーリーにはグイグイ引き込まれますし、一人称の文章の中でも緻密に機微を描くことで、登場人物それぞれの背景や心情がよく想像できて各キャラの存在感が増しているのです。
初めて読んだのはたしか高校生の時ですが、そこから20年以上も読み返し続けている名作です。
氷点
三浦綾子先生の『氷点』は、なんと60年前の小説ですが、いま読んでも全く問題なく楽しめる名作です。
見どころは、登場人物それぞれのエゴと胸をえぐる感情表現。ヒロインのポジティブさやまっすぐな心。そして「氷点」の本当の意味!
文体は古すぎずスムーズに読むことができますし、舞台設定は古くとも現代に十分通じる小説となっています。
なお、『続・氷点』はあまり面白くないです。続編なしで終わっていた方が、個人的には非常に美しかったと思いますね。
火怨
髙橋克彦先生の東北蝦夷を描くシリーズの始まりの一冊、『火怨』です。
歴史的史料が少ない中で、髙橋先生によって補完された設定やエピソードの数々が秀逸すぎて、これが史実と信じたくなります。緻密な人物模様や戦闘描写によりあっという間に読めてしまう名作です。
侵略や差別といった現代にも通じる倫理観を突き付けられ、色々と考えさせられるのも奥が深いです。
同じ舞台で先の時代が語られる『炎立つ』もおすすめ。ただ全5巻と分量が多いので、まずは上下巻の火怨で髙橋ワールドを味わっていただくと良いと思います。
おしまい。