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勇気の出しどころ、覚悟の決めどころについて考える晩夏

突然ですが、質問です。

ここ最近、あなたが一番勇気を出したことはなんですか?

お店で一番高いメニューを頼む。
気になる人のSNSをフォローする。
海外旅行に行く。
プロポーズする。

人によって
勇気の出しどころ
覚悟の決めどころはさまざま
その度合いや熱量も多種多様です。

ちなみに、私の最近の勇気100倍エピソードは大嫌いなセミの死骸をベランダから外へポイっとおいやったこと。


この勇気と覚悟。

人生を飛躍的に向上させてくれるものだと私は信じているのですが、この季節になると、残念な使い方をしたある患者さんのことを思い出します。


例の季節がやってくる

新学期が始まる9月。

電車の遅延にはじまり
大きくかぶせられるブルーシート
乗客や駅員のため息とイライラ。

救急車の稼働が増え
至るところでサイレンが鳴り響くと
またこの季節…
つまり、自殺の患者さんが増える時期だなと
思ってしまいます。

私自身、一般病棟の勤務経験しかないのですが
救命センターに勤める同期は

もう本当に嫌だ…
人間の原型をとどめていないものが
死亡診断書のためだけに運ばれてくる。
あそこまでいくと、助けるとか助からないとか
正直なにも思えない。
もう、ただの作業だよ。

と、こんなふうに話していて
なんとも言えない気持ちになりました。


病院に運ばれてくる人の中には
そのまま亡くなってしまう人もいれば
助かる人もいます。

正直な話をすると
自殺を図った患者さんが助かっても
うん、良かったねとはなかなかいきません。

だって、これまで生きてきた人生よりも
もっと大きな困難を抱えながら
生きていかなくてはならないから。

助かることは
助けることは
果たして本当にいいことなのか。

医療の現場にいると
こうやって、ついつい難しいことを考えてしまいます。


ここから先は、自殺を図ろうとした患者さんの話をしていきます。
直近で近しい人を亡くした方や、身近に自殺した人がいる方には、もしかしたら、読み進めるのがつらい内容になるかもしれません。

けれども

もし、出来るなら、タイトルにある通り
勇気と覚悟を持って
読み進めてもらえると嬉しいです。


飛び降りるとこういう身体になります


高橋さん(仮名)、30代の女性。

自宅マンション7階から飛び降りを図ります。
通りすがりの人が発見し119番通報。

救命センターに運ばれ、全力の治療がなされたあと
彼女は奇跡の生還を果たします。

けれども、命と引き換えにしたものの代償は大きいものでした。

両足首の関節は通常ではありえない方向に曲がったままくっつき、膝や股関節も粉砕骨折し手術は適応外、二度と歩けない身体に。

加えて、尿や便を司る神経は死亡。
そのため、つねに失禁状態で
今後、性行為をすることは難しいと言われていました。


ただ。 

手の甲や肘だって傷だらけなのに
落下する時に顔をかばったためか、顔は無傷。
その美しさが、どこか異様な光景でした。

ここまでくれば
医療関係者じゃなくても
わかると思います。 

彼女は、これから先
自立した生活を送ることが困難
いや不可能な状態でした。

もう少し正確に言えば、胸から下は自分で動かせません。
歩けないのはもちろんのこと、起き上がっても背もたれやクッションがないと座ったままのポジションをキープできないほどでした。

電動車椅子は必須。
どこかに行く場合は
人の手を借りなければいけません。

いじわるな言い方をすれば
外に出る時は必ず人の監視がつくんです。
また、もし、死にたいと思っても
1人では何もできない。

それでも、助かった以上
生きていかなくてはなりません。


勇気と覚悟の使い道

歩けない、立てないなど障害は残りますが
それでも傷が完治すれば病院にはずっといられません。

病院は治療の場。国の決まりにより、リハビリや生活へ慣れるための練習は外でという療養の流れになっています。高齢社会の現在、大学病院での長期入院はとても難しいのが現実。

しかし、さすがに自宅への退院は難しいので
違う病院に転院することになりました。

その準備を進めているときのこと。

どうせ勇気を使うなら
死ぬためじゃなくて
もっと他の事に使ってからにすれば良かった。
飛び降りる時もそう。
あんなに怖いこと、今までなかった。
もし死にたくなっても
もう1人じゃなにもできない…

と、ポツリとつぶやきました。

もともと色白で淡白な顔立ちだった彼女ですが
ベッドシーツや壁にその白さが映えて
なおさら白くみえたその表情
そして、呟いた言葉が忘れられません。



死ぬのは止めることは出来ないけれど

ナースがこんなこと言うのは
おかしいかもしれませんが
本気で死にたい人を止める術はないと思っています。

私もかつて、自分の担当だった患者さんが
自殺してしまったことがあります。

医療がどれだけ手を尽くしても
こちらがどれだけ手を差し伸べても
人の本気の思いと行動には勝てないんです。
たとえ、それが、死に向かうことであっても。

現に、明らかに自殺を図ろうとした患者さんや
助かる見込みのない患者さんに対しては
積極的な治療を控える病院もあります。

もちろん、家族がいる場合が家族の意思を尊重しますが
死にたいという本人の意思を尊重する
というスタンスです。


それでも、今、死を考えている人がいたら
持っている勇気や覚悟をほかで出し切ってからにしてほしいです。

それは

学校に行きたくないって言うことかもしれない
会社を休むことかもしれない
ご飯を作るのをサボることかもしれない
有名なあの人をアンフォローやブロックすることかもしれない

ほんのちょっとのこと。
でも、このちょっとが未来を
そして、人生を変えてくれるかもしれません。

だから、死ぬのは考えるのは
それからでも遅くないと思います。

死んだら終わりだし
助かっても終わりです。

高橋さんと同じように
今までよりも困難な人生が
待ち受ける結果となってしまいます。


だから、どうか
勇気と覚悟を自分の未来のために使ってみてほしいです。
死ぬことに目を向けるのはそれから。

最初は何も変わった気がしないかもしれないけれど
後から振り返ったら、絶対変わっています。

あの時、死ななくてよかったと思える人が
もっと増えますように。



#ナースあさみ #エッセイ #ナースあさみの思い出カルテ

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