旅先の農家を手伝う
旅に出たとき、行った先の農家を訪問することがある。それは例えば美術好きの人が旅先の美術館を訪ねたり、料理人が旅先の料亭やレストランを訪れたり、建築家がその土地の有名建造物を見に行くのに似ている。農地と言うのは基本的にオープンエアだから、見ようと思えばいくらでも見ることができるのだけど、見るだけで満足できるわけがねえ。
農業と言うのは年中作業が違うし、どのシーズンに行くのかも重要だ。暇なときに行っても見るべきものが大してない場合もあるし、忙しすぎるときに行っても邪魔になる。なかなか難しい。一昨年、東北へ行ったときは岩出山の青田ファームさんを訪れた。
その年は武司くんが大沼旅館という鳴子にある温泉宿の一室で展覧会をすることになっていた。それに乗じて数日行くことにしたのだった。武司くんのほうが先に青田ファームさんを訪れていたことから「お前も行ってくるといい」と言われ、アポイントを取り付けて出かけることにした。名古屋から車で太平洋フェリーに乗り、そのあと仙台で降りて古川方面へ走る。岩出山というのは伊達藩が力を入れた農業先進地域で、土地がよく、水もいい。
「あ・ら・伊達な道の駅」という道の駅の最高峰がある。売り上げがすさまじい。置いてるものもすごい。なにしろ道の駅ランキングの1位常連なのだ。一日いても飽きない。なんなら泊まりたいくらいだ。
青田ファームさんはここにお米やお野菜を産直で置いている農家さんだ。
忙しいのに快く迎え入れてくれたのはいいが、やっぱり田んぼにいて今日は稲を刈っているという。そうだろうとも。この時期農家は忙しい。私は教えられた田んぼへ出向くと青田さんたちはちょうどバインダーで刈り入れをしているところだった。
ヨシ!と私も農作作業服で車から降りる。こんなことだろうと野良着、笠、長靴姿で行ったのだ。農家訪問するのに長靴は必須だ。もちろんきれいに洗ってなくてはならない。土とかついていたら私の地元の雑草の種を運んじゃうかも知れないからだ。青田さんは忙しいにも関わらず、この地方特有の「杭掛け」というのを教えてくれた。
美しすぎる…
私もやってみました。
左が先生。右が私。
青田先生のほうがシュッとしとるね。うん。私のは全体像がボヤっとしているが、先生のは角がきっちりしとる。しかしこれはこの時期にしかできない方法だ。私の田んぼは乾きも悪いし、なにしろ伊勢の収穫は8月末で台風も来る時期で長雨も多い。こうやって天日干しできるのは本当に羨ましい。けど、一応やり方は教えてもらった。
急に行ったところで大して戦力にならないのは当然だが一応「やる気で来ました!!」という気持ちを見せることが大事だし、それが礼儀とも思っている。刈り入れで忙しいと言うのに、ファームの中も見せていただく。
ここで私は言いたい。道具を大事にしている人は仕事のできる人だ。私はとにかく人んちの納屋を見るのが大好きで、農家の納屋の収納とか、道具をどうやって整理整頓しているのかに興味がある。自分の参考にしたいからだけど、こう言うのって本もなければネットにもない。めっちゃ探すがない。だいたい、世の中で農家やってる人はごく少ないし、そのごく少ない農家が自分ちの納屋とかPinterestとかにあげるわけがない。だから行かなきゃ分からない。日本全国の農家をめぐって納屋の本を作りたいくらいだ。
ところで、納屋ではないが小屋の本を作っている方がいる。辰巳雄基さんとう方で、現在は「現代農業」で小屋の連載もしているとのことだ。私はこの本を見つけて即座に買った。まったく価値のある本だ。みんなもぜひ買ってほしい。
私は特に古い農具に興味があるので、岩出山の青田さんちの納屋は最高によかった。屋根裏に俵の胴部分と、両脇の蓋であるサンダワラの束があったりする。若い人のために説明すると、これが俵。ちなみにこの写真は新庄にある「新庄ふるさと歴史センター」という素晴らしい民族博物館で撮影した。ここは本当展示が素晴らしいのでみんな行って欲しい。
わらで作ってあり、胴の部分はわらを並べて繋いだもの、そこに米(もみのついた状態)を詰めて両脇を蓋して、周囲を縄でくくってあるわけだ。大事なことなので2回書くが、この写真も新庄にある「新庄ふるさと歴史センター」で撮った。展示が実に素晴らしいのでみんな行って欲しい。
これらは別々に作るのだが、どのように米を入れるのかはあんまり分かっていない。米1俵は60キロある。60キロ持てるか?言っておくがものすごく重い。腰が砕ける。今では、こんなものは展示物であり、日常では使っていない。それが青田さんのところへ行くと、あたかも現役のように置いてあって、タイムスリップしたような気持になる。
すごい贅沢だ。これで米を詰めてみたい。どうやるんだろう。今度行ってお願いしてみようかな。
結局、農家へ行ってもその土地のやり方と言うのがあって、私ごときが行っても役に立たないことが多い。それでもしょうがない。とりあえず私は興味があるし、知りたいし、押しかけるわけなんだが、行けば本当に学ぶことが多すぎて脳みそからあふれてしまう。なんとかして農家の知り合いを伝って行こうと、このあと山形の真室川にある工房ストローさんも紹介していただいた。それも機会があれば書いてみたいと思う。
青田さん(右)と弟さん。ありがとうございました。