家族

キビシい家族

温泉地へ行った朝、バイキングで隣りの夫婦を見ていますと、旦那さんは座ったきり、奥さんが色々と選んではトレーに乗せ、それをしずしずと旦那さんの前に置きます。自分はと言うと、旦那さんのを置いたあとに、取って来るのでした。食後は旦那さんのためにお茶も持ってきます。奥さんと言うよりは、お手伝いさんのようでした。旦那さんは見事に一歩も動かず。へえ、こんな夫婦もいるんだ。まあ、年配と言えば年配です。

この旦那さん、普段はどんな感じなんだろう。奥さんの前ではこうだけど、仕事場でもこんなに威張ってるの?友達と一緒のときは?と、色んな疑問が沸いてきます。そう言えば、聞いた話では、自分で靴下もはかない人がいるとか。

椅子に座ると奥さんが靴下をはかせてくれるそうです。まあ、ちょっと異様な光景ですよね。奴隷じゃないんだから。でも、それってよく考えたら、ひとりじゃ身の回りのこと、何もできないって、ことなんですね。だから、奥さんが先に死んじゃうと、ひとつも自分のことができない。靴下もはけない、みたいな。

その、温泉の奥さんはとてもキレイで、旦那さんよりもちょっと若かったので、旦那さんを持ち上げてるのは、実は見せかけのポーズなんじゃないかと。普段は「シックスセンス」みたいに、旦那さんのご飯に毎日ちょっとづつ毒入れてんじゃないかな。先に死んだら遺産がごっそりなのかな。あるいは、旦那さん、大病でもして、温泉療養にきているのかな。そんなことを想像して、思考の落ち着き場所を見つけないことには、なんか、見てて非常に気持ちが悪かったんですね。

いずれにしても、ここまで旦那さんに尽くすと、結局困るのは自分やん、って思うわけです。だって、奥さんが入院とかしたら、すごく困るわけですよね。旦那さん、何にもできないから。「尽くす」というのは、いい意味に取られる事もあるかも知れませんが、突き詰めると、相手を不能にするってことなんですね。

相手を不能人間にするのが目的なら、いい手段だと思います。でも、相手のことをほんとうに思った時、「こりゃ、尽くしてる場合じゃないな」って、思うはずなんです。もし、相手が動かない人だったら、動くようにするのは大変です。ある程度人格のできあがった大人相手ですから。

尽くす方が、簡単なのでついつい、自分が我慢して動いちゃう。これは、夫婦間じゃなくて、親子でも同じですね。

でも、結局「我慢」が積み重なって、いつしか自分の負担がかかりすぎて爆発してしまいます。爆発しても、相手は不能なので、大変さは倍になって自分に返ってくる。なにひとついい事ありません。

お互いが自分で立つことができる状態だからこそ、いざと言う時助け合えるのではないかなぁ、と思います。

私は三味線を習っているのですが、仕事が重なりすぎて、先生に「最近余裕がないんです。いろいろひとりで抱え込んでしまって」と、言ったら、「あんた、お母さんに来てもらって、助けてもらったらええんやんか。その方がお母さんもボケやんし。喜ぶで。私なんか、自分のお母さん、死ぬ寸前まで手伝ってもらってたしな、そやけど、ボケやんだしな。その方が張りがあるんやに。お母さん大事にし過ぎて、ボケてしもたら、結局アンタ、自分がエラいやろ?そしたら、働いてもらったほうが、アンタも助かるし、お母さんも助かる。両方がエエ言うワケや。どうやん」

ちなみに、三味線の先生は72歳で、私の母と同級生。そう言えば、知り合いの農家さんも、お父さん89歳だけど、まだ農作業手伝ってもらってるって言ってたな。やれるうちは何でもやってもらうのがいいのでしょうね。でも、エエ格好をしたいものですから、つい、人前では身内に優しい態度を取っちゃう。または、老いた姿の親を人前に出したくないから、自分が前に立ってやってしまう。ダメですね。なかなか強くてキビシい家族になるのは覚悟がいるなぁ、と思います。

サポートありがとうございます!旅の資金にします。地元のお菓子を買って電車の中で食べている写真をTwitterにあげていたら、それがいただいたサポートで買ったものです!重ねてありがとうございます。