極悪女王レビュー
好きな年代が舞台なのでイッキ見してしまった。ちなみに世代ではなくプロレスにも殆ど興味がない。しかし視聴にあたり少なくてもマストで仕入れておかねばならない情報は拾っておいた。そこからの視聴なのでプロレスファンの方からするとかなりにわかかもしれないのでご注意を。
題材は80年代の女子プロレスを牽引したダンプ松本とクラッシュギャルズの物語。ストーリーはダンプ松本とクラッシュギャルズの長与千種、ライオネス飛鳥の3人を軸に動いていく。
正直言って見終えた一番最初の感想としては不完全燃焼のひと言になってしまう。しかしそれは題材を考えれば致し方ない結果とも言えるし、誰の責任でもない。主演のゆりやんレトリィバアと唐田えりか、剛力彩芽やその他脇を固めた俳優陣も歴史に残る好演をしており間違いなく本人たちのキャリアの中で輝く作品になったと言える。しかも全世界配信。では何故不完全燃焼と感じてしまったのか。それは以下の内容に尽きる。
登場人物一人一人が主人公になり得る世界
プロレスに脇役はいない。人気の高低はあるにしてもレスラーそれぞれに壮絶なドラマがあり主人公になる得る世界がそれぞれ同時並行で進んでいる。クラッシュギャルズの二人にしても業界を支える人気ぶりと魅力があってこの二人、いや一人一人を題材にしても倍量のドラマができてしまうほどだ。ダンプ松本にしてもたった5話で描けるほど簡潔な人生ではない。それを3分割にしてしまうことでやや薄まってしまう感はある意味仕方ないのかもしれない。本物の彼らのドラマは当時のテレビを通して日本中の人々が目撃していたわけであるから、ある意味では当時のダイジェスト版を今回は再現ドラマとして作成したと言っても良いだろう。
序盤で出てくるビューティーペア然り、途中のキーパーソンジャガー横田然り、それぞれ壮絶なドラマがあってその先にダンプや千種や飛鳥がいる。
断言するが作品自体が決して残念な仕上がりだったわけではない。想像絶する練習と役づくりに向き合ってきた俳優陣、特に主演の3人の努力は相当なものであったとうかがえる。特にダンプ松本役のゆりやんはインタビューで言葉に詰まり涙を浮かべながらダンプ本人へ言葉を贈っていたところをみると相当この役に入り込んでいたんだろうなと思える。唐田えりかも長与千種と作品に出会えた事へ感謝を述べながらグッと涙を堪えていたインタビューは見ている者の心打ったに違いない。
調べたところではレスラーを演じた俳優陣は約2年間、プロレスの道場に通い練習をしたそうだ。並の人間でも2年間打ち込めば基礎も出来てくる頃。プロの俳優ともなればそれなりに仕上げてくるのに十分な時間だ。しかし本業とは言えドラマの為に2年間をプロレスに費やすとは、Netflixの本気を感じて鳥肌が立った。
今作はまさに素材が良すぎて料理に困ってしまう、そんな状況だったと思う。いっそ12話構成くらいにして毎回違う主人公の角度から物語を進めて欲しいとすら思った。ビューティーペアのジャッキー佐藤やマキ上田、後輩のブル中野。今回の題材である世代からは少しズレてはいるがそれぞれが時代を築いた名プロレスラーである。全てが独立した物語の主人公であり、そして少しずつ繋がっているそんな印象を受けた。ドラマとは言え脇役で終わっていくには惜しい人々ばかりである。それくらいのエネルギーがある人々の集まりだからこそ、プロレスというコンテンツは今日までも多くの人々を魅力し続けているのではないのだろうか。
色々書いたが間違いなく名作である。プロレスに興味があってもなくても時代を作った人々の人間ドラマとしては十分に見る価値のある作品である。
それにしてもひとつ気になるのがダンプ松本の引退試合での最後の演説は何故やらなかったのか。そこまで描いていてそこは蛇足だと思ったのか。個人的にそこを見る為にドラマを最後まで見ていた感はあるのに。
とにかく、世間で騒がれているほどの名作ではあると思えたし今後のNetflix作品にまた大きく期待出来るきっかけになったのは間違いない。と同時に、地上波で作られるドラマの限界を感じてしまったとも言える。皆さんはどう感じられただろうか。