守破離(しゅ・は・り)
多くの方は、自分の字にコンプレックスを持っているそうです。
確かに紙を目の前にしてペンを取ることは極端に少なくなっています。
原稿を書くと言ってもキーボードをたたいて文字を選択しているだけですので、自分の字に自信が持てる人を探す方が難しいという現実があるのかもしれません。
『守破離』という映画に出演していた書道家の新見知ふみさんが、京都から訪米されたので、書を書く姿を見せていただく機会がありました。書は「筆づかい」だと思っていたのですが、全身全霊を込めている新見さんの力強い「息づかい」がとても印象的でした。
映画の中では、自分の字を好きになれない人に、「自分の人生を横線で書いてみてください」と指導します。さまざまな理由で上に登り、下り、止まって、そして細い字になることもあります。書を書くと言うよりも、自分自身の人生の浮き沈みを表現する芸術作品のようになります。こうすることで、自分を俯瞰して見ることができるのかもしれません。二つと同じ横線が引けないように、同じ人生を歩む人もいません。みんなが違って、みんなが素敵なのです。自分の字と他人の字を比べるのではなく、自分の字を好きになることが、自分自信を好きになることにつながるのだと教えてくれた映画でした。
守破離とは、千利休の言葉から来ているそうで、日本の文化や武道などの芸道や芸術における師弟関係のあり方の理想を説いたものだそうです。はじめは師匠から教わった型を徹底的に「守る」ことから修行がはじまり、もっと自分に合った型を模索し、試すことで既存を「破る」ことができる。そして、さらに鍛錬や修行を重ねることで、既存の型から「離れて」自在になるという思想なのだそうです。守って、破って、離れて、新しい自分を見つける過程が、横線という形に現れていくのかもかもしれません。
白い紙に一滴の墨を落とすことは、魂が込められた小舟で、運命という大海に飛び込むようなものなのかもしれません。