ある日森で

数年前の大晦日、友人カップルに別荘へ招待された。

別荘、と言うと凄くお金持ちなイメージがあるけれど、イタリアは山や海に家族みんなで使う別荘を持ってる人というのがかなり多くて、大富豪じゃなくても週末や長めの休みに気軽にその別荘で過ごすのだ。

招待された別荘は友人(女性)の家族のもので、観光地のある大きな湖からそんなに遠くない山の奥深くにポツンと建っていた。うちからは観光地まで高速道路で行き、最後に山の中を分け入るように登っていくのだが、あと少しで着くと言う最後の最後の部分の道は舗装もされておらず、私達のただでさえ馬力のあまりない車では一抹の不安を抱えつつ何とか到着することになった。舗装されてない原因は、友人家族の私有地にたどり着く前の部分が国有地だからとか何とかで勝手に道を作れないらしい。何でそんな場所にこの家族は別荘を建てられたのかよくわからないが。

その日私達以外に二組のカップルが招待され、友人カップルそれぞれのお母さん、そして彼らの計10人で年越しパーティーをした。つまり別荘はそれだけの人を泊められるだけの広さがあった。山奥にポツンと建つその家は黒っぽい木でできていて、重厚な調度品が並べられているせいか電気をつけても暗い感じがするが、不思議とそれに威圧感や不気味さはなかった。

私達はそれぞれが持ち寄った料理を食べ、歌ったり踊ったりもしつつ年越しをした。薪の暖炉のお陰で室内はとても暖かく、その夜は楽しく穏やかに更けた。

元旦は気持ちよく晴れ、遅い朝食の後にみんなで散歩に行こうということになった。茂みをかけ分けどんどん森の中へ入っていくと、突然開けた場所に出た。そこは明らかに人の手が入ったところで、馬でも飼ってるのかなと思っていたら、どういう訳かシマウマが現れた。

画像1

山奥に住むシマウマ。

この写真だと荒ぶれているけれど、とても大人しくて撫でて撫でてと私達のところに寄ってきた。

誰のものなのかわからないけれど、シマウマはそこにいた。たった一匹で。妙にそれがしっくりくるような気もしたし、あまりにもシュールで何だか村上春樹の小説に出てきそうだなとも思った。


数年後にもこの別荘に招待され、散歩途中でこのシマウマは前と同じように佇んでいた。前との違いは、同じ敷地に馬も何頭かいるけれどシマウマはその群れに混ざることもなくぽつんと囲いの近くにいた。

その後友達カップルは突然別れてしまった。男性の方と元々友達だったので、女性の家族のものだった別荘にも、あの不思議なシマウマのいる森の奥へも行く事はなくなってしまった。でもたまにふとした時に思い出すのだ。あのシマウマは何十年経ってもあそこに佇んでいるのだろうと。

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