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本の棚卸し:002 「体はゆく」 第1章

体はゆく」の第1章から紹介します。
この第1章は探索についての話です。
主に二つの話題を紹介します。

“うまい” と “うまくいく” とは違う

何らかの技能を獲得する過程では、
さまざまな試行錯誤が必要となります。

その結果として、
身体能力的に “うまい” と呼ばれる状態にまで
技能を習得することができるわけですが、
実はこの技能、周りの状況の変化によって
“うまい” 状態を発揮できないことがままあります。

この章ではピアノの演奏について、
エンジニアかつピアノ奏者である 古谷晋一 さんに
インタビューした内容がまとめられています。

ある日、古谷さんがピアノのコンクール会場に
遅刻スレスレの時間に到着し、準備もそこそこに
本番を迎えた逸話からこの章は始まります。

実は、
その日の演奏が今までで1番の出来だったという、
意外な結果から「練習と本番は仮説と検証の関係」にあるという
コメントをされています。

いくら練習で “うまい” 状態に達していても、
実際に環境・状況が異なる中で “うまくいく” かどうかは
わからないだろう、ということです。

この話から何が導き出されたかというと、

・普段の “うまい” 身体能力は、周囲の状況変化によって
新たな方程式を構築して “うまくいく” ことができる。
・この新たな方程式を体が探ることを探索するという言葉で
表し、それが技能獲得(習得)のキー・ポイントである。

ということです。

外骨格(エクソスケルトン)による探索補助

技能をうまくいかせるために、
前提として不断の練習・努力は当然必要です。
しかしそれだけでは、練習環境とまるで違ったところで
その技能をうまく再現できるかどうかは保証されません。

人は周りの環境に応じた身体動作を導くことができます。
これはアフォーダンスと言って認知科学領域では
広く知られている概念です。

周囲の状況・環境によって、ある意味身体運動・動作、行動、行為
などが導き出されることを示しています。

例えば、
目の前に大きな切り株があり、長く歩いて疲れた人がその場に来れば、
椅子の代りとして切り株の上に座るでしょう。
この時点で、単なる切り株は椅子の代用になり、
人はそこに座るという動作を誘発されます。

この人(動物)の行為と環境(モノなど)との関係性を
アフォーダンスと呼んでいます。

さて、
ピアノ演奏の話に戻りましょう。

普段とは全く異なる状況においても、
あるいは刻一刻と状況が変化する場面でも、
一定のパフォーマンスを発揮するには、
先ほどの探索行為を続けて、新たなやり方を実際に行う必要があります。
それによって新たな技能を獲得したことになります。

しかし探索といっても、
何度やっても失敗を繰り返してしまう場合もあるでしょう。
そのうちに失敗の動きばかりを覚えてしまう、
失敗を恐れて / 嫌って探索自体をやめてしまう、
ということにもなりかねません。

そこでテクノロジーの出番です。
ここではピアノ演奏をうまくいかせるための
外骨格(エクソスケルトン)を装着する話が出てきます。

手にそれを装着すると、外骨格がうまくピアノを演奏する
動きを再現してくれます。自分では何もしなくても、
自動的に指を上手に動かしてくれるのです。

まるでピアノ版大リーグ養成ギプスのようですが、
実際は動きを鍛えるわけではなく、まさに勝手に
外骨格側が動いてくれるわけです。

うまく弾くとは「あっ、こういうことか!」と
感覚的に教えてくれるわけです。
探索の道筋を指し示してくれている、
といってもいいかもしれません。

そうすると、
外骨格を外した後もうまい指の動きを再現しやすくなる、
つまり技能を獲得しやすくなるとのことです。
外骨格をつけたときだけではなく、
外した後にもその効果が残っているところが
優れた効果を発揮するという点で、面白いところです。

このように、
新たな技能を獲得する過程にテクノロジーの介入があると、
練習の効果がより短時間に得られる可能性が示唆されています。
このような話が今後の章にもつながっていきます。

次回は、
第2章の中で論じられる「変動の中の再現性」について
考えてみたいと思います。

なお、
この第1章に関しては、音声でもPodcast番組
トーク・オン・エクササイズ 205(305)」の方で
話題にしていますので、是非そちらの方もお聴きください!

ここまで読んでいただきありがとうございました。
ではまた次回に。




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