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光野朝風
2016年7月27日 03:21
JR小倉駅から十分も歩けば勝山公園がある。 中には慶長七年(千六百二年)に細川忠興が築城した唐造の城がある。この「唐」とは、海外の新しい様式という意味だ。石垣は自然石をそのまま積む「野面積み」の技法である。 しかし天守閣は失火により焼失し現在は鉄筋コンクリートとなっている。 四月にもなると堀の周囲などに植えてある桜が咲き乱れ、花見客で賑わう場所となるのだが、白髪交じりの男二人、丸太に
2016年7月17日 05:39
向こう岸に渡るには労力がいる。 川の流れが速かったら大変だし、流れが穏やかに見えても深さがあると、川底の地形によって流れが妙にうねる場所があり、泳ぎの達者なものでも足が取られたりする。 浅く見えても時に溺れる時だってあるから、見えない場所にこそ想像できない何かが潜んでいるものだ。 見知らぬものを眺める時、俺たちは想像をする。懸命に想像をして、例えば向こう岸にはこちらとは別の何かが
2016年7月7日 02:12
金井美莉亜は十年努めた商社を結婚のため退社することにした。 十年も前線で戦ってくると平凡な生活をしていることに酷く違和感があるが、夫となった紳が「子育てはもうお腹の中から始まっているんだ。今は子供のためにも穏やかに過ごして欲しい」とのことで、一日の時間のほとんどを家で過ごしている。 独身時代から仕事も家事も、そつなくこなしてきただけに時間がありあまる。十年も仕事一筋で来たため、趣味ら
2016年7月5日 02:17
昼休憩。小さな建築デザイナー会社の社員たちが馴染みの食堂で昼食をとっている。 東京出張から帰ってきた小椋は、社長の立花と先輩の江藤と三人、新しく入ってきたバイトのことについて話し合った。「それで、バイト募集すんなり決まったんですね」 小椋が切り出すと立花。「ほら、バイトって言っても雑用だしさ、誰でもできる仕事だから、来たら人が悪そうじゃなければ一発だし、だいたい俺たちみたいな