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2023年度・共通テスト本試験[生物]の極私的講評

《全体講評》

●全問必須問題で,大問数は6つ。第2問はA・Bに分かれていてほぼ2大問分あるので,実質7大問である。配点は大問毎に異なっている。
●昨年度・一昨年の共通テスト同様に,
  ・教科書の章割りにあわせない
  ・分野横断的な出題が多いが,分野毎にまとまってきた。
  ・大問の配点はバラバラ
 であった。
●分野としては,第1問:遺伝子発現調節,第2問A:進化・遺伝子,B:感覚,第3問:植物生理,第4問:代謝・生態系,第5問:ショウジョウバエの発生,第6問:個体群である。
●昨年度よりもさらに分野横断感が弱くなり,総合問題の印象はかなり薄くなってきた。共通テスト当初から予想されていたことだが,分野横断的な問題を作成するのは難しく,共通テスト3年目にして早くもネタ切れとなってきた。「小問集合的に総合問題とすることはない」というのが共通テスト初年度の印象だったが,小問集合的にあちらこちらに各分野をちりばめた結果,出題されていない分野は少なくなった。
●昨年度・一昨年度の「進化・生態系推し」,「代謝からの出題が皆無」で出題分野のバランスの悪さが批判されていたが,一転,進化は漸減,代謝だらけ(4大問で扱われる)になり,バランスの悪さはさらに先鋭化した。苦手分野がある受験生にとっては失点が大きいので好ましいことは何もない。年によって出題分野が大きく偏っても意に介さないのは,シコウリョク・ハンダンリョクをはかるのだから出題分野が偏ろうがなんだろうが関係ないという言い分なんだろう。
●細胞分野からの出題はなく,遺伝子が背景にある問題がそこかしこにみられる。現行の学習指導要領がなんでもかんでも遺伝的な背景を追う,ということに基づいているので,遺伝子分野の理解の欠落は共通テストの受験条件として致命的と言っても良いだろう。
●昨年に続き問題文のボリュームが多く,内容をていねいに追跡して解答する問題が多い。とにかく読むのに苦労する。長い文章を根気よく読む経験をしてこなかった受験生にとっては厳しい。また,複数のデータを解釈する問題も複数あり,持続して集中して問題に向き合わなければならない。生物の知識なくても読めば解ける問題(いわゆる「国語の問題」)は批判が集まるので,意図的に少なくしている。
●昨年度は平均点の低さは,共通テストが目標としていた「50点」に近いとのことで,出題者は平均点が低かったことをあまり嘆いていなかった。また,昨年度は背景知識が細かくて失点する問題が多かったため,今年度は要求する知識の細かさは軽減されたが,一方で問題文量は1ページ増加,さらに行間をツメツメにした圧迫感の高い問題も複数あり,ボリューム感が増加した。解答時間には余裕がない。
●「適当ではないもの」を選ぶ問題が4つもあった。混乱を招くのでやめてほしい。
●設問数は28で,ここ3年で27→28→28となり,昨年と同じである。ページ数は31ページ(空白ページ込み)と昨年と同じである。
●連続してマークする問題はマークミスを誘発するからやめれや!と,センター試験の頃から何度も指摘されているにも関わらず,今年も[1]から[28]まで連続してマークする形式になった。大学入試センターはやはりアホである。
●配点5点の設問が復活した。中間点を与える問題があった(2問)。
●解答後の印象としては,問題文量は多くデータ量も多いが,知識の要求量が少ないため,昨年より極端に平均点が上がることはないと思われた。平均点予想する前に,各社の平均点を見てしまい,驚嘆した。(ということで,あてにならない平均点予想は今年はありません)

《大問分析》

★は点の取りにくかったと思われる問題。▲はちょっと出来の悪そうな問題。

第1問

 【テーマ:遺伝子発現調節・系統分類】 難易度[やや難]
 光合成の話と思いきや,遺伝子発現調節が主たるテーマの問題。今年の出題セットの中では比較的解きやすい問題ではある。
問1 『生物★トリプルミラクル』でも,『共通テスト生物★夏の格闘&冬の完遂』でも,何度も指摘した「オペロン説(特にラクトースオペロン)を理解していることは知識として必須」がいきなり登場。真核生物の遺伝子発現調節も含めた知識問題。基本的な設問で落とせない。
問2▲早速,多数のデータを比較対照する問題。「αサブユニットを指定する遺伝子A・C・E」あたりは意味が取れなかった人も少なくなかろう。(b)はグラフから明らか。(c)は硫酸欠乏条件で発現する→硫黄の供給が少ない→硫黄を含まないアミノ酸がサブユニットを構成するポリペプチドに選ばれる→メチオニン・システインが少ない…という言い換えが理解できたかどうかという要約問題で,過去にも同様な問題は多数ある。正解して欲しい設問だがなぁ…。
問3★調節タンパク質は転写調節に働くので,遺伝子E・Fの産物に結合することはない,という知識問題だが,あれやこれや「考えて」しまうと正解できない。考察問題ではない。
問4▲「シャジクモと植物や緑藻類」が近縁なのは基本的な知識。表1から「褐藻とケイ藻」が近縁であることもわかる。紅藻の持つ色素から1回の変化で,クロロフィルまたはフコキサンチンのグループが生じたのだから,「植物と緑藻」はシャジクモに近いア・イ,褐藻とケイ藻はエ・オに入れるほかない。系統分類は苦手な人が多いのだが,本問は細かな系統がわかっていなくても解答できる。対策せずに不平不満を口にする人が多いので,正解率は低いだろう。なお,『生物分野別対策講座・生物分類の徹底解説』を受講した人ならわかるだろうが,葉緑体の起源として紅藻・緑藻の系統は一次共生,褐藻は二次共生が頭にあれば瞬殺な問題ではある。この設問が5点配点なのは意外。

第2問

 【テーマ:色覚の進化と適応/嗅覚】 難易度[A:難,B:標準]
 Aは霊長類の色覚の進化。有名なテーマだが,詳細な分析をする設問であり難しい。Bは嗅覚がテーマであるが,嗅覚そのものについて問われている問題ではない。
A 
問1▲遺伝子の重複についての理解を問う問題だが,まさかすべて妥当だなんてぇ~という先入観で不正解となった人も少なくないだろう。遺伝子の重複については,問題集を中心に対策した人にはそもそも何のことだかわからなかったのではなかろうか(理由は冬期講習で説明済みである)。冬期講習『生物★トリプルミラクル#』で毎年重点的に扱っているので,受講生のみなさんには有利であったはず。
問2★1ページに収めようという意図はわかるが,こんなにギチギチに行間を詰めるのはやめてもらいたい。ノドジロオマキザルの色覚は,常染色体上の遺伝子(仮にPとする)と,X染色体上の遺伝子によって決まるが,X染色体上の遺伝子座は1つしかなく,ここに対立遺伝子がQとRがあてはまるようである。XQXQ,XRXRならば二色型,XQXRならば三色型である。よって三色型になるのは雌だけである(雄はXQYかXRYでどちらも二色型)ことに注意なんだが,気づきにくい(選択肢③④)。①②はグラフの視点を定めれば容易に判断できるが,視点を定めることができない受験生も少なくないわけで,正解者は多くなさそう。⑥この条件下では二色型と三色型に差がない。
B
問3▲データを見れば十分に判断できる問題だが,なにせデータ数が多いので,見るべきところが定まらずに終わってしまった受験生も少なくないだろう。まずは「1個の嗅細胞→1種類の受容体→特定の匂い物質に反応」,「同じ種類の受容体をもつ嗅細胞からの情報は,嗅球の特定の部位に集約される」という問題文内容の整理が必要。④どの匂い物質に対しても100で飽和する。
問4▲定番のイレギュラーな計算問題だが,内容は難しくない。10種類の細胞が4段階で反応するのだから,410=220≒(103)2。

第3問

 【テーマ:植物の形態形成・光に対する反応】 難易度[やや難]
 強すぎる光は植物にとって有害である,という夏期講習『生物★トリプルミラクル』でも扱った内容である。「光が強いほど植物はうれしい」みたいな先入観があると,全く理解できなかった問題かもしれない。
問1 フィトクロムの関与する反応について,教科書的な内容を問う知識問題。
問2▲処理1の「葉陰」については問題文に注釈がある。葉陰にあれば,光合成に必要な波長の光は覆われている葉の光合成に利用され,シロイヌナズナに照射されにくくなっているので,葉緑体は照射した光と垂直の方向に集まる。処理2では強すぎる光に対して,葉緑体は光を回避する方向に移動する。よって,光合成に利用される赤色光(おおよそ600nmより長い)や青紫色光(おおよそ500nmより短い)は,処理2の方が葉を良く透過する。
問3★②Rは葉緑体が側面に固定されるため,強光条件でも葉緑体が傷害されず,葉緑体がまともに光を受けるQよりも成長速度の低下が小さい(Rの方が成長速度が高い)。

第4問

 【テーマ:窒素代謝・物質生産】 難易度[やや難]
 共通テストを象徴する総合問題形式が破綻した問題。「問題文に適当に下線部が引いて,設問は相互に関係しない小問集合的なもの」を分野融合問題としないところが共通テスト初年度には各方面から褒められたが,限界がある。小問集合的な問1・2・4に対して,問3は判断するデータ数が多いので苦労する。
問1 基本的な知識問題。
問2▲純生産量=総生産量-呼吸量であり,ここに示されている「純生産量」は生産者の純生産量のことであると判断できれば解答は容易だが,物質生産の単純な計算問題もできない人が多いので,正解率が高くはないと思われる。
問3★それほど難しくはないのだが,多くのデータを比較対照する必要があるため,正解率は低いと思われる。地点Aはリンが多く,窒素が不足しているので,リンを添加しても成長量に変化はなく,窒素を添加すると成長量が大きくなるアが妥当。地点B・Cはリンが不足するが,Cは窒素量が十分なので,「リン」と「リン+窒素」の結果が同じであるイが妥当である。
問4 エ-図3から数値は容易に求められる。オ-窒素同化の概略がわかって入ればカンでも答えられる。良くないけど。
問5 窒素同化の反応は直前講習『共通テスト生物★冬の完遂』で指摘したように,還元反応にはエネルギー消費が必要である。根粒菌が従属栄養であることも同講座で指摘した。これは的中としてもよいのではないか。エヘン。問題自体は基本的。

第5問

 【テーマ:ショウジョウバエの発生・母性因子】 難易度[やや難]
 発生分野はウニや両生類の古典的な発生を覚えるだけでも苦労している人が多く,ショウジョウバエの発生は近年の入試では頻出であっても手が回らないのが現状であろう。昨年度のHox遺伝子は惨憺たる結果だったが,本問はどうだろうか。
問1▲定番のテーマで,冬期講習『生物★トリプルミラクル#』でも扱った内容。
問2 ショウジョウバエの初期発生に関する基本的な知識問題。
問3★実験1でXが機能しないと腹部が形成できず(ここではYが機能している),実験2でXとYの機能がともになくなると腹部が形成されたことから,Yは腹部形成を抑制し,XがYを抑制していることがわかる。実験3から,Yが腹部の形成される領域にはないのは,この領域でXが機能しているためである。YのmRNAは母性因子であり,(f)にタンパク質Xはタンパク質Yの合成を阻害するとあることから,タンパク質Xは翻訳阻害によってYの機能を阻害すると考えられる。
問4★目的の実験と対照実験を組み合わせる基本的な考え方を問う問題であるが,正解率は低いだろう。

第6問

 【テーマ:個体群・アユの群れ】 難易度[標準]
 今年の問題の中では比較的解答しやすいが,第5問まで時間を費やしてしまう可能性がある。全体像を把握してからどの問題から解答するかは重要である。
問1 基本的な問題だが,やや判断しにくい。
問2▲②個体数×縄張りの大きさが総面積で,A~Cは7.2m2で同じだが,DとEは異なることから判断する。データを雰囲気で見て判断することは禁忌。
問3 縄張りの基本的な考え方がわかっていれば解答できる。地点Yは水深が地点Xと同じで利益が同じで,個体群密度が高いため労力が高くなる。地点Zでは水深が深くなって利益が減少し,個体群密度が低いため労力も低くなる。これはできて欲しい。

《感想》

 2022年度の平均点の大幅な低下については,問題作成部会の見解として「平均点は目標値にほぼ該当するもの」というコメントがあり,50点を目標として問題作成していたことが明らかにされた。ここから本年度の試験は易化するとしても小幅な上昇ではないかと予想された。現実は大幅な平均点の低下であった。代謝が出題されないという分野の偏りが指摘されると,嫌がらせのように代謝ばかりを出題するとか,出題者はこどもなのかよ。総合的な理解力を判断するというお題目は消え,ゴチャゴチャ混ぜ混ぜの小問集合は解きにくいだけである。
 共通テストになってから,各大問は丁寧に作られているとしても,全体のバランスを調整するしくみが欠如している。これは生物だけでなく,リーディングとリスニングだけという英語などの他科目にも言える。どうしてこうもヘンチクリンな試験をいい歳した大人が見過ごすことができるのか,全くの疑問である。このような問題を出題し続ければ,生物選択者が著しく減少する(実際に生徒数の減少以上に生物選択者は減少している)わけで,出題者のミスリードによって,高校生物は壊滅的なダメージを受けることは火を見るより明らかである。次期学習指導要領の改悪も同じである。生物学を志望する優秀な生徒がいなくなってから,困った困った言ってもアフターフェスティバルである。

《来年度への展望》

 共通テストへの対策として,結局はいつも通りの「教科書の知識の完全理解」と「過去問の徹底研究」に尽きる。見たことある問題は出題しないのだから,出題テーマを予想するとかは無理。やれることはこれしかありません。丁寧な日常学習がまずは大切で,その定着度を知る上で過去問の解答は必須(過去問を全く検討しない高校生が大半なのが不思議で仕方ない)。
 知識問題は昨年度よりも穏やかになったことは良しとしても,データ解釈の問題多すぎ,文章長すぎ詰めすぎ,という状況で教科書と過去問だけでどうにかなるんだろうか?という不安な気持ちはあるだろうが,「そもそも教科書の内容だって理解できてないじゃないか!」と言いたい。教科書の内容が理解できていないと,問題文をテキパキと読み取ることができない。また背景知識が必要な問題では,知識がしっかりしていないといくら考えても正解は導けない。
 一問一答形式の問題反復とか,穴埋めプリントの正解合わせみたいな,勉強とは全然かけ離れたことは即座にやめること。用語の定義を覚えるのは問題文や設問文を正確に読むために必要なことで,生命現象の理解は問題内容を理解する手段として不可欠である。点数に直接結びつかないようでも,日々の当たり前な生命現象の理解と,何気ない生命現象に対する疑問を解決することが重要である。問題集を解きまくる解説を読みまくるは愚の骨頂であり,中学・高校入試式の幼稚な作業からの脱却しなければならない。
 これは高校の先生方にもお願いしたい。「センター試験」「共通テスト」の過去問を徹底的に分析すること。時間制限を設けて生徒に過去問を解かせて,解答を配って終わりにするなら,先生が教室にいなくてもよい。先生自身が教壇に立って話をする意味を考えていただきたい。そもそも公教育は学習塾でも予備校でもないのだから,入試問題を解かせるとかは論外であると思う。しかし,共通テストや名のある国公立大私大入試の問題には,入試問題を入り口として広大な生命現象の世界に導く道筋がある。それを無視して,公教育の時間に入試対策の名目で問題を解かせることを正当化するのはエゴであり,体罰と言っても過言ではない。大学入試問題を適切に利用することは,日常学習を大学入試に直結させる近道である(この辺は例年のほぼコピペだが,実践された気配が全く感じられない)。

《最重要事項》

 そんなわけで,共通テスト対策は是非とも,駿台夏期講習『共通テスト生物★夏の格闘2024』,直前講習『共通テスト生物★冬の完遂2024』へどうぞ。背景知識の理解と探究のために夏期講習『生物★トリプルミラクル』,冬期講習『生物★トリプルミラクル#』にもどうぞ(広告)。その前に春期講習『スタートアップ生物』(おそらく札幌と御茶ノ水を担当)で現実を見せてあげます。

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